表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/312

生き残り

明日も投降します!

「愚か…愚かと言ったのかいアレン。愚かな…それも人形と?ひどいな、事実なのは間違いないけれど、どうしてそんな的確に私の心を傷つける言葉を言うんだい?」


男が傷ついたとばかりに両手で胸を抑えるジェスチャーをしたが、その顔には人間味の薄い笑みが浮かべられており、その心中はうかがい知れない。

だが次の瞬間に男は目を見開いて明確な困惑を浮かべることになった。

アレンが唐突に上着を脱ぎ、その素肌を晒したからだ。


「おや?おや~…?どうしたんだいアレン?あぁまさかこの私に人間の身体を自慢したいと?ははは、とても性格が悪いな君は…む?」

「見えるか人形。自分のこの身体が」


むき出しにされたアレンの肉体…その腹部には本来あるべき肌色ではなく、紫色の鱗のようなものでびっしりと覆われていた。

その部分だけを見るのならそこは人間のそれではなく…モンスターや魔物のように見えた。


「ほほう?魔族還りというやつかな?まれに人の中にそのような存在が生まれると聞いたことがあるよ。実際に私の協力者の中にもちらほらとだが存在している…で?それがなんなのかな?」


角や鱗など人にはない特徴をもって生まれる通称「魔族還り」…確かに数が少ない珍しい存在ではあるが、それが今の話にどうつながるのか男には理解しきれなかった。

それでも何とか理由をつけてみるとするならば…。


「まさかとは思うけれど魔族還りなんていうそこそこ珍しいというだけのそれで私という存在に張り合おうというのかい?ははは、それは性格が悪いではなくて馬鹿にしているよ。それが、そんなちっぽけな鱗が理由で過去にイジメでも受けたかい?迫害でもされたかい?で?だから?それで?残念ながら君が何を言いたいのか、どういう理由で私を罵倒したのか一切理解ができないよアレン」

「…魔族還り…自分がそれならばどれほどよかったのだろうな」


「ん?どういう意味だい?」


アレンは言葉で答えるよりも先に鱗に自ら手をかけてそこに力を込めていく。

鱗をはがそうとしているように見えるがやはりアレンの行動の意味が分からず、男は腕を組んで成り行きを見守る姿勢をとった。

のんびりとしていられるほど余裕がある状況ではないが、それでも男は自分のことを正面から愚かと言いきったアレンが何をするつもりなのか…それが無性に気になった。


「っ…見るがいい人形よ。これが…自分が何なのかを」

「是非とも見せてもらおうじゃないか」


ゆっくりとアレンの腹部の鱗が一枚はがれていく。

しかし男はそこでわずかばかりの違和感を感じた。

アレンはびっしりと肌を覆っている鱗の中心当たりのそれを摘まんで力を込めているのだが…やけに鱗が剝がれないのだ。

鱗という部位の役割を考えれば簡単に剝がれるのもおかしいのだが、それでもやけに手間取っており、さらにアレンの顔は苦痛に歪んでいる。

やがて剝がされようとしている鱗の隙間から真っ赤な血が零れだし、地面を汚し始めた。

皮膚を覆っている鱗を剝がしているにしてはかなりの出血であり、皮膚が変化しているタイプのそれだとしてもやはりおかしい。

それはまるでそう…肉を引きはがそうとしているような…。


「まさか…鱗ではないのかい?」

「…その通りだ。自分のこれは身体を覆う鱗ではなく、これ自体が自分の身体だ」


「ふむ…だとすればおかしいね。魔族還りは人としての身体に加えて人にはない部位が存在しているというもののはずだ。だとすればその鱗は本来の皮膚の上にあるというのが道理ではないのかい?それとも私が無知なだけで君のようなタイプの魔族還りもいるのかな?」

「何もかもが間違いだ。そもそも自分は…魔族還りではない。お前は魔族還りという存在の…言葉の由来を知っているか」


「かつて存在していた人と似通った種族…魔族に由来しているんだったかな?100年と少し前に完全に滅びたとか、そもそもそんなものは御伽噺のようなもので存在すら疑われているとか聞いているけど…まさか?」

「ああそうだ。自分が…この私がその魔族。滅んだとされる種族の唯一の生き残りだ」


小さな舌打ちを皇帝が漏らした。

しかしその表情は困惑や怒りなどは浮かんでおらず、当然のことではあるが皇帝はアレンの正体を知っていたらしい。

だが男にとってそんなことは重要ではなく、アレンという魔族の存在に強烈な興味をひかれた。

人らしくありたい…なればこそ男は一度浮かんだ欲望には正直にいることを常日頃から心がけているのだった。


「それはね、とても興味深いよアレン。いや、じつはね?先ほどはさも何も知らないみたいなことを言ったけれど、実は魔族についてもある程度の知識は持っているんだ。先日の君たちの姫様誘拐事件の折に手に入れた「魔女の手記」に書いてあったからね。でもやはり他人の経験を文で読むのと、当人に話を聞き自らの知識にするのとでは大きな違いがあるだろう?あぁぜひ聞かせてくれ君という存在を。私を愚かな人形と言い捨てたその理由を」


「…魔族とはいっても自分はほとんど人間と変わらない。身体能力でいうのなら魔族還りのほうがよっぽど優れているくらいだ。強い肉体に特殊な能力…魔族が持っているそれのうち自分は能力は持っていたが身体は弱かったんだ。能力自体も正確に位置が分かっている場所に瞬時に移動できるだけの能力で…便利だが目立つものではなかった。でもだからこそ体さえ隠せれば人間に変装できたともいえる」


アレンが脱いだ服を再び纏い、腹部を隠す。

たったそれだけでただの人間のアレンが出来上がる。


「ふむ?まだ話の全貌がつかめないな。続けておくれ」

「お前もそれに近いことを先ほど言っていたが…自分は魔族側からは役立たずと呼ばれ煙たがられていた。彼らは力こそがすべて…みたいなところがあったからな。弱かった自分がそうなるのは必然ともいえた…だが逆に人間は良くしてくれたよ。当時は年齢はともかく自分は幼い少年の見た目だったからな。身寄りのないかわいそうな子供を装えばだれもがやさしくしてくれた…しかしそれもわずかな間だけ…自分が魔族だと分かればどうなるかなど語るまでもない。魔族側に居場所はなく、人間たちの中にも自らを偽らなければ入れない。そんなどっちつかずの生活をしていたある日だった…あの「災厄」が魔族を襲ったんだ」


「…震えているねアレン。それほど恐ろしい何かがあったのかい?」


男の指摘の通り、アレンの身体はわずかだが震えていた。

寒さからではなく…その身のそこに刻まれた恐怖からだ。


「あぁ…音が聞こえたんだ」

「音?」


「貴様から聞こえてくる音に似た…何かが軋むような歪な音だった」


今ではだいぶ薄れてきたが、目を閉じれば今でもアレンはその時の光景を思い出せる。

キィ…キィィィィィ…という音と…流れるような黒に…背筋が凍るほどにきれいだった笑顔。


「その音が聞こえるたびに魔族が死んだ。黒が流れていくとその方向で建物が崩れ落ちた。みんなみんな…聞くだけで恐怖をあおるような悲鳴をあげながら死んでいった。恐怖と絶望の中で…いつ自分の番が来るのかと膝を抱えて震えていた…だがあの「黒」は…子供は殺さなかったんだ」

「…ほほう?それはなぜだい?」


「そんなもの自分が知るはずもない…だが自分と…何人かの魔族の子供は生き残ったんだ。ただしそれは…殺されなかっただけだ。大人も住処も…食料も何もかもが殺されつくして破壊されつくして…そんな中で子供が生き残れるはずがない。赤子は当然、幼子も倒れていくのにそう時間はかからなかったよ。さらにそのあとはダメ押しとばかりにさらに魔族狩りをした人がいてね…当時は人と魔族は戦争中だったから人間も頼れるはずがない…ただし自分は別だ。変装して人に紛れ込み…生き延びた」


──ただそこで死んでいればよかったと後悔することになった。

アレンはそう言葉をつづけた。

ちなみに皇帝様は服を着ています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 服を着ている皇帝様のインパクトに全部持っていかれてしまった… さては貴様コウちゃんさんではないなッ!曲者じゃであえであえ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ