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綺麗だったから

次回は月曜もしくは火曜日に投稿します。

お腹に何か圧迫感を感じて私は目を開いた。

どうやらナナシノちゃんに色々されている間に意識を失ってしまったらしい。


「…起きましたか」

「あ、うん…」


お腹に感じていた圧迫感は包帯だったようで、ナナシノちゃんが健気に刺し傷を治療してくれていた。

あんまり気にしなくてもたぶんもう塞がりかけているだろうし、大丈夫だよと伝えようかとも思ったけれど…せっかくだし私はそのままでいることにした。


「その…すみませんでした。いくら何でも…やってはいけない事でした」


髪に隠れて表情がうまくうかがえないけれど、とても申し訳なさそうな声色に私の方こそ申し訳ない気持ちになる。


「ううん、最初に酷い事をしたのは私の方だから…」

「どちらにせよ…あの時はすでに致命傷を受けていたのであなたがどうしようと結果は同じだったので…私のほうが悪いのではないかと」


「…」

「…」


お互いに気まずくて黙り込んだ。

そんな中でもせっせとお腹に包帯を巻いていく様子に…ナナシノちゃんはいい子なんだなと思い、どうじにやはりそんないい人を介抱をしようともせず心臓を握りつぶした私のほうが責められるべき…だと考えてはいるけれど口に出したところで堂々巡りになるのは変わらないだろうな。

とにかく私たちに今必要なのは会話…謝るのはその後だ。


「ありがとう。もういいよ」

「…はい」


放っておくといつまでもぐるぐると包帯を巻いていそうな勢いだったのでいいところでやめてもらい、向かい合うように床に正座する。

ナナシノちゃんはもう見慣れた気もする膝を抱えてまるまるスタイルだ。


「えっと…その…それで…」


話をどう切り出していいものか分からない。

ここに来て自分の会話スキルの無さに歯がゆさを覚えた次第です…。

私のそんな情けない姿を哀れに思ってくれたのかユキノちゃんの方からなんと話をつなげてくれた。


「昨日のあれ…なんなのか聞いても…大丈夫な奴ですか?」

「あ、うん…やっぱり気になるよね…」


「まぁあるていどは…無理にとは言いませんが」

「ううん、ちゃんと話すよ」


死んでいないとはいえ彼女も私の被害者だ。

それならば事情を知っておく権利くらいはある…と思う。

私はスノーホワイトと私の中の殺人衝動について話した。

もっとも私にも分からない事ばかりだからスノーホワイトという腕が変化する能力がある事と殺人衝動があるという簡単すぎる説明にはなってしまったけれど。


「そう、ですか…つまり昨夜はその衝動を抑えきれずに…ということですか」

「うん…普段はある程度我慢が出来るんだけど…長い間我慢したり、スノーホワイトを使ったりすると抑えが効かなくなって…それで…」


「発作的に人を殺してしまうと」

「…うん」


「…」

「…」


そして沈黙。

よく私たちの間には沈黙が産まれてしまうけれど…なんとなく理由が分かって来た。

村でほとんど人と接することなく過ごしてきたために会話能力が限りなく低い私と…たぶんもともとそんなに話すタイプじゃないナナシノちゃんの組み合わせだからこうなるのは必然なのだ。

これを解決するには私がペラペラと人と話せるようになるしかないのだけど…出来る気はしない。

アマリリスさんは私と常に会話していたけれど…そういう面でもあの人はすごかったんだなとしみじみ思う。


「あの…」


おずおずと再びナナシノちゃんが口を開く。


「な、なに?」

「ユキノさんもしかして…そのスノーホワイトを使って何かすることがありますか?」


「え、え?どういうこと…?」

「スノーホワイトを使うと人を殺したくなる…そんなユキノさんにリフィルさんは私をあてがった。まるでその衝動を私で発散しろと言われているようなものではないですか?」


「そ、そんなこと…」


無いと言えるだろうか?

全く思い至っていなかったけれど…そう言われてみれば状況が整っているようにも思える。


「リフィルさんは…親切で動くような人ではありません。あの人が私たちのような人に何かを施すことがあるのならば…そこに何か利点があるはずです。だからつまりは…スノーホワイトを使って何かをして衝動は私で発散する…その状況が利になる何かを頼まれたという事があるのでは?と思ったのですが…」


息が詰まった。

それしか考えられない。

皇帝さんとアマリリスさんから聞いた「神様の欠片」の話…そして無理やりと言ってもいい状態で出会わされたあまりにも都合のいいナナシノちゃんの存在。

どうして思い至らなかったのだろうと思うくらいに…全てを仕組まれている。


「そんな…」

「…あるんですね」


「…」


何も答えられない。

どうしてそこまで…そこまでしなくちゃいけない事なの…?全然わからないよ…。

私が背負うには…私が理解するには押し付けられようとしているものがあまりに大きすぎて…どうにもできない。


「どうするつもりなんですか?」

「どうするって…」


「私を…あなたの衝動の発散に使いますか?凄いですよね…まるで示し合わせたような噛み合い具合です。力を使えば人を殺したくなるあなたと、何をされても死なない私…これこそまさに神様のめぐりあわせ…」

「やめてよ!」


死なないからと言って、毎回毎回ナナシノちゃんを殺すなんて…そんな酷い話はないじゃないか。

先ほどナナシノちゃんは痛いし苦しいって言っていた…皇帝さん達の話を受けるとして私は何度ナナシノちゃんを殺すことになるのか想像もつかない。

それだけの苦しみを…彼女一人に押し付けるなんてダメな事だ。


…同時に今にでもその提案に飛びつきたい気持ちもあるのが死ぬほど嫌だ。

ナナシノちゃんがいれば私は…もう誰も殺さなくてもいいかもしれないのだから。


「私は構いませんよ」

「…え?…なんて…」


「構わないといいました」

「な、なんで!?痛いって…苦しいって言ってたじゃん!何回殺すことになるのか分からないんだよ!?」


「それでも…生きたまま解剖されるよりは何倍もマシです。あなたは…さっくりと殺してくれるでしょう?」

「そういう問題じゃ…!」


「それに…ただでとは言ってませんよ」

「え…?」


ナナシノちゃんがベッドの下から何かを引きずりだす。

それはあの包丁だった。


「それ…」

「あなたが私を一度殺したら…その度に「少しだけ」仕返しをさせてください。度が過ぎたことはしないようにします。死なない私と…あなたとでは条件が違いますから」


顔の辺りまで持ち上げられた血で汚れた包丁に私の顔が映る。

何とも言えない表情をしている自分が実に滑稽だ。


「い、いや!でも!」

「私は、いいと言いました。それが全てです…もしかすれば気味悪がるかもしれませんが…楽しかったんです」


「はぇ…?」

「先ほどユキノさんのお腹を刺した時…首を絞めた時…とても楽しかった。痛がって苦しんで…涙を浮かべていたあなたが…」


そこでナナシノちゃんが首を横に傾け…流れた髪の隙間から赤い瞳が覗く。


「とっても綺麗だと思ったんです」

ナナシノちゃんこの物語を考えていた当初はオドオド系の普通のいい子の予定でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前作含めても最上位クラスのヤバさなのでは…? 「必要とあらば」とか「良かれと思って」とか「なんとなく」で結果的にヤバいことする人…人?は数多く居れど 「純然たる趣味」で他者をナニしてソレする…
[一言] この作品本当にやばい人しかいないですね(歓喜)
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