目的と理由2
明日はお休みです。
次回は金~日のどこかで投稿します。
この回引き延ばすのもあれだったので3話分あるかないかぐらいあります。
「そう…まぁやっぱりそうなるわよね」
獰猛な笑みを消して、かわりにとばかりにカララは自嘲気味に笑い、ナイフをアトラの足元に投げ捨てて両手をあげた。
「カララ…まさか本当に…?いったいどうして!」
クイーンがカララに駆け寄ろうと踏み出し、それをネフィリミーネが腕を掴んで引き留めて首を振る。
投降の意志を見せているとはいえ、まだわからない事のほうが多い。
ならば非戦闘員扱いであるクイーンを近づけるわけにはいかないという判断のためだ。
「どうして、ね。どうしてと言うのなら私の方がどうしてよ。みんないつから私が「そう」だってわかってたの?」
「…もう話を聞いているかもしれないけれど、最初にキミを怪しんだのはアトラくんだ」
身体の正面からリコリスがへばりついているアリスがネフィリミーネの後ろからメンバーを代表して答えを返す。
カララは両手をあげたまま、静かにその話を聞く姿勢を見せていた。
「でも余達は転移の魔法陣が盗まれている事には気がついたけど、犯人の目星はついていなかった…いや、確信をもって言い切れる人物はいなかった。そんな中でアトラくんが失踪して…数日後にそのアトラくんから手紙が余とにーねー様宛に届いたんだ」
「私が何の証拠もなくカララさんが怪しいと言ってもぉ~私だって容疑者の一人でしょうからねぇ~めんどくさいですがそーいう手を取らせていただきましたぁ~」
「…どういうことよ」
「ですからぁ~裏切者がいると発覚するタイミングで私がその容疑者として失踪すればぁ~…本当の犯人であるはずのカララさんは動揺しますよねぇ?なんで?ってぇ~。詰めがハニーシロップのようにゲロアマのアママカララさんならなにかボロを出していただけると思いましてぇ~その旨を手紙として出させてもらって私は身を隠していたというわけですぅ」
「…なるほどね」
はぁとカララがため息を一つ。
悪びれた様子もなければ言い訳をするつもりもないようだった。
「正直…余はそれでも君を信じていたよ。だけど…明らかに君の行動はおかしかった。無断行動に…意図して省かれている報告書…だがそれでもと今日この場所に最後の望みを託してきてみたが…」
「あははははっ!ボスは相変わらずね…頭はいいけどそれ以外は全部だめ。「こんな」組織を束ねてるくせにそんないい子ちゃんでどうするのよ…ほーんと、腹が立つ」
「カララ!!」
クイーンの叫び声が薄暗い反響し、その場の全員が口を閉じてクイーンに視線を向ける。
「なによ、人の名前を叫んで…うるさいわね」
「うるさいって何よ…あんたなんで…ねぇホントなの…?本当にアンタが…うちの技術を横流ししたり…ボスの誘拐に加担したの…?嘘よね…ねぇカララ!」
「うんっ!勿論嘘だよっ!カララちゃんジョ~クでした~!」
にぱっ!カララはとあざとくも可愛い表情で場違いなほど明るい声を出し…そしてすぐにその表情を消した。
「とでも言うと思うの?この状況で?アンタも随分といい子ちゃんになっちゃったわね。アホかよ」
「か、カララ…なんでよ…なんでそんな事…」
吐き捨てるように…いや、実際に足元に唾を吐き捨てながらの言葉にクイーンがその場に崩れ落ちた。
幼いころから家族のようにカララと育ったクイーンにとって、それはただのショック以上にその胸を打ち付けた。
「なんでなんで、なんでなんでなんでって誰もかれも…そんなの「お仕事」だからに決まっているでしょう?」
「お仕事…つまりカララくんは余を誘拐した犯人…その裏側にいた何者かに雇われているという事でいいんだね?」
「まぁそうっすね」
「なぜ、そんな事を?余はキミに納得できるだけの報酬を支払えていなかっただろうか?毎年話し合いのうえでお互いに報酬については納得してもらっていたと記憶していたが」
「納得してても、それ以上のものを提示されればそっちに着くのは普通じゃないですか?」
「いいや、どれだけの金額を提示されようともキミはそれだけで鞍替えをしたりはしないはずだ。キミはとても賢い人だ…一時に得られる大金と、余達を裏切るメリットとデメリットを天秤にかけて相手側を取るとはとても思えない。その場限りの大金と、長期的な納得できる金額…それならば君は後者をとる人間のはずだ。それらを含めても──」
「だーかーらー!」とカララはアリスの言葉を遮り、ひときわ大きなため息をつく。
そして一呼吸おいてスッと細めた瞳でアリスを睨みつけた。
「それらを全部踏まえてアラクネスートを裏切るに足るだけの対価を提示された。それだけっす」
「それが理由ならば、それが何かと余は聞きたいんだ」
「いいかげんのらりくらりしていないで吐きなさいよぉ~後ろから真っ二つにされてぇんですかぁ?」
アトラが大剣の腹でカララの脇腹に軽く触れ、話を促す。
「はぁ…アタシが欲しい物…それはずっと言ってる」
「金と権力とイケメンってか?オイオイカララよぉ~それだとおかしいからこちとらお前さんを問い詰めてるんだぜ?」
カララの欲しい物。
それは普段から本人が冗談めかしてこそいるもののずっと言っているものだった。
実際カララはそれに向けての行動を起こしていたし、それを呆れたように見守っていたのも彼女達アラクネスートだ。
しかしだからこそそれが裏切る理由になるとは到底思えなかった。
「にーねー様の言う通りだ。見た目のいい男性…という部分は満たせていないかもしれないし、自分で言うのもどうかと思うけどお金と権力についてはこれ以上に無いくらい余は持っているはずだ。帝国とという巨大な国の、偉大な皇帝その一人娘の余以上にキミの望むものを提示できる相手がいるとなるとそれこそ我が母しかいない。そして母がキミに余の誘拐を依頼するはずがない。どういうことなのか納得のいく説明が欲しいんだ」
「そもそも前提がちがうんすわ。私がお金と権力が欲しい理由…それはボス…いや、帝国の姫であるアンタと皇帝を黙らせるだけの力が欲しいからだから」
アリスが目を見開き、動揺を一瞬だけ見せた。
しかし自らを締め付けるように抱き着いているリコリスの存在感が、すぐに冷静さを取り戻させた。
「…キミは帝国に対して敵対心を持っていたという事だろうか」
「あははははっ!どこまでもホント…ねぇアリス・フォルレント。アタシが気がついていないとでも思う?」
一瞬だけカララはクイーンに視線を向けた。
その瞳の動きにアリスとネフィリミーネの動きが一瞬だけこわばる。
「まさかカララお前…」
「さっきはさ?アンタ達はアタシが怪しかったって言ってたけど…そもそもアンタたちの中では私に「裏切る理由」がある可能性を最初から知ってたんでしょ?だからすぐにアタシに疑いの目を向けた。この期に及んでそれを隠して話をしようとしたその姿勢が…アタシが今ここでこうしている理由よ」
アリスとネフィリミーネはカララの言動から、二人が隠していたある事実をカララが知っていることに気がついた。
だがそれ以外のメンバーは何の話をしているのか分からず、微妙な雰囲気が周囲に流れ出す。
「…そのことについて…いや、まだ余とカララくんの認識が合っているのかは分からないが、だが少なくとも余はそれに対し何かできないかと日々努力をしているはずだ。それはキミも理解してくれていると思っている」
「それじゃあ遅ぇんだよ!」
近くにいるアトラが思わず耳を抑えるほどの大声が、腹の底からの叫びがカララの口から放たれた。
「その努力がいつみのるの!?絶対にそれより先に取り返しがつかなくなるでしょうが!そしてそうなれば…皇帝は動く。ならアタシは「勝てる確率の高い方」につく。そしてついた。それだけ」
「…いいや無駄な努力とは絶対に言わせない、必ず形にしてみせる。だからもう少しだけ余を信じて──」
「そんな実態のない綺麗なだけの言葉に大切なもの預けるほどアタシは夢見る女の子じゃないのよ。わかるかしら?お嬢さま?」
「カララ。小リスが言いにくいかもしれねぇから俺様が言うが…お前は皇帝に喧嘩を売るって事か?そんな事をしてただで済む奴がいると本気で思ってるのか?それこそ夢見てるお嬢ちゃんの妄言じゃねぇのか?帝国があんだけでけぇ国なのは、それ相応の理由があるんだぜ」
「知ってるわよそんなの。でもアタシは「あの人」にちゃんとした実利を…それが実現できるという確証を見せてもらった。そしてやれると私が確信したの。…もうじき、帝国は終わるわ。皇帝の死によってね」
その場の空気が変わった。
カララが口にした言葉はそれだけの重さがあるものだったから。
裏で運営されていた組織を裏切って敵対組織に加担していた…今までの事件はアリスが関わっていたとはいえ、言ってしまえばそれだけだった。
しかし今カララがやろうとしていたことは…カララの背後にいるものがやろうとしていることは帝国に対する明確な敵対宣言だ。
皇帝を殺す…それは生半可な気持ちで言葉にしていいものではないのだから。
「そんな事出来るわけがない。娘である余だからこそ、母の強さは分かっている。あの人は…殺そうと思っても殺せるものじゃない。正気に戻ってくれカララくん、本当にそんな事が可能だと思っているのかい…?」
「もちろん簡単じゃない。たからアタシは「あの人」に協力した。協力して成功する確率をあげる手伝いをした。そして…もう少しであの人の準備は全部整う」
「全部…?だが待ってくれカララくん!たとえ…そう、例えばだが仮に母がキミたちに討たれたとして…それでもキミの向き合っている現実は何も変わらないはずだ!キミがこんなことをした原因は何も解決しないじゃないか!」
「そうっすね。原因そのものは解決しない。でも不条理に踏みつぶされることは回避できる。先が短くたっていい…アタシは…ただ誰にもアタシが、「アタシ達」が踏みにじられず、自分の意志で死にたいのよ!」
「馬鹿な…まだ何も決まってなどいないのに…どうにかなる可能性を全て蹴って、いつか来る破滅を受け入れると言うのかカララくん!」
「…アンタみたいな甘やかされてるお嬢様にはアタシの気持ちなんてわかんないでしょうね」
「私にだってわからないわよカララ…」
俯いて吐き捨てたカララに、フラフラと立ち上がったクイーンがその手を伸ばす。
「ね、ねぇ…私にはあなたが何を考えてるか分からない…なんで…なんでこんなこと…ねぇカララ!」
「…」
今まで饒舌に語っていたカララだったが、クイーンの言葉には何も返さなかった。
ただ目を反らして、そして沈黙する。
「あのぉ~ひとまずこの女を拘束するなりして連れ帰りませんかぁ?詳しく問い詰めるなら拠点に戻ってからのほうがいいでしょぅ~」
「それもそうだね。カララくん、大人しくついてきてくれるね?」
アリスが目配せをし、拘束具を持ったネフィリミーネがユキノにも声をかけて二人でカララに違づいていく。
「動くなよカララ」
「え、えっと…失礼します…」
「…こんなことをしてていいの?二人とも」
二人の手が触れる瞬間、カララがにやりと笑いながらそう言った。
「あ?」
「なんでわざわざアタシがここに一人で来たと思う?…何人か釣れればいいと思ってたけどまさか全員きてくれるとは思わなかったわ。ほーんと馬鹿ばかり…アタシが「元」仲間だからってみんなできてくれるなんて…カララちゃん嬉しいぞっ!」
「何が言いてぇんだお前」
「あんた達二人の女…今拠点にいるわよね?ねぇねぇアタシがさ?魔法陣とか情報とか流してたアタシがさ?アラクネスートの拠点の場所を教えてないと思う?」
「もちろん思っていないよ。だがあの場所は正式な手順を踏まないと立ち入れない場所にある…それを──」
「皇帝様を相手どろうとしてるよ?アタシ達」
「まさか…ちっ!」
「ナナちゃん!」
ネフィリミーネとユキノが意識を反らした瞬間を狙ってカララが動いた。
目にも止まらない速さで移動し、クイーンの腕を後ろに捻り上げてその首にナイフを突きつけて人質にとる。
しかし移動する瞬間、唯一反応できたアトラが大剣を振るい、結果としてカララの脇腹はざっくりと切り開かれ、そこから血がこぼれだしている。
「…ほら、何をぼさっとしてるの?いいの本当に?中ボスにユキノちゃん?」
「ちっ…この野郎…」
「あ、アリス!わ、私…!」
「うん、にーねー様にユキノくん。先に拠点に戻ってくれ。どちらにせよ本当に何か起こっているのかは確認しないといけないから」
「わりぃ!アトラ!後は頼んだぞ!」
「ごめんなさい!!」
ユキノとネフィリミーネが慌てて立ち去り、静まり返った闇の中で、カララの腹から血が零れ落ちる音だけが聞こえている。
「カララくん…もう無理だやめよう。一度ちゃんと話をしよう。余に不満があったのなら…それを全部受け止める。約束する。だから一度だけちゃんと目を見て話をしてはくれないか」
「…そんな事をする意味はもうないわ。もう時期アンタの持ってる権力も何の意味もなくなる…もうすぐにでも始まるわよ」
「何が始まるのか…聞いていいのかな」
「少しは分かってるでしょ?戦争よ。もう少しで準備が整って…王国と帝国の戦争が始まる。そうなるようにあの人たちは準備をしてきたからね」
「…そうか。しかし言ってはいけない事だがここではあえて言わせてもらう。王国では帝国には勝てない。ましてやそれで母が害されることなんてないと断言できるよ」
「あははははっ!でしょうね…でも目的はそこじゃない。王国が帝国によって壊滅することなんて百も承知…というよりそれも計画の内よ。手も足も出なくても、それでも小さな傷くらいはつくでしょ?それで十分なのあの人たちには…ねぇクイーン。私と一緒に来ない?そうしてほうが絶対に安泰よ」
「…行くわけがないでしょう」
「あっそ」と少しだけ寂しそうにつぶやいた。
しかしクイーンを拘束している腕にゆるみは見られず、身体をよじってみても脱出できる気配はなかった。
「カララくん…どれだけ言葉を尽くしてもキミを怒らせるだけなのかもしれない。だがそれでも余はキミを諦めない。キミが…本当に余が考えている理由で離反をしたのなら絶対にその問題を解決してみせる。絶対にだ。それにユキノくんもいる」
ユキノという言葉に反応してカララがキッとアリスを睨みつける。
「ふざけるんじゃないわよ…その手を取るのという選択肢が出ること自体がアンタを裏切った理由だってなんでわかんないの?」
「わかってる。言いたいことは全部…だが彼女のおかげで助かった人もいるのも確かなんだ。そこに目を背けないでくれ」
「目を背けるなって言うのなら「助からなかった人」がいる方も見なさいよ。アンタがあの女をあくまで最終手段としてることは分かってる…でもそれを納得できるのならこんなことなんかしてないのよ。アンタがその甘ちゃんな口から吐く綺麗事が…誰にとっても綺麗に聞こえるなんて思うんじゃないわよ」
…そしてカララの姿が唐突にその場から消えた。
支えを失ったクイーンがその場にへたり込み、後にはカララの血痕だけが残っていた。
「クイーンを背にしての逃走…カララさんにそれをやられてしまうとさすがに追えないですねぇ~…多分近くに転移の魔法陣設置しているでしょうしぃ~逃げられましたかぁ~」
「「…」」
「暗いですねぇ~まぁ仕方ないとは思いますがぁ~…ひとまず我々もユキノさんと中ボスを追いませんかぁ~?あそこまで自信満々ならブラフでもなさそうですしぃ~…おーい!助っ人さぁ~ん!いいでしょうかぁ~!」
アトラがどこかに叫んで数分。
その場に一人の男性が姿を見せた。
「失礼。遅くなりました」
「いやマジおそですよぅ。何をしていたんですかぁ」
「実は…」
「話は後だ。たぶんユキノくんたちを送った時に何かあったんだろう…アレンくん」
名を呼ばれた男…アレンがアリスの前で膝を折って跪いた。
反逆のカララちゃんでした。
最後の方のユキノさんがどうこう言っている話、最初はここで全部話している予定だったのでユキノさんがこの場にいたのですが…ちょっと構成が変わった結果、とても空気になってそのまま離脱してしまいました。
主人公なのに。




