才能の片鱗2
明日はお休みです。
次回は月か火曜日に投稿します。
それはあまりにも突然だった。
私がナナちゃんとのんびりしているとドンドンドンドンドン!とけたたましく扉がノックされ、何事かと慌てて開けるとそこには酒瓶を抱えて顔を赤くさせたイヴセーナさんがとろんとした目をさせて立っていて…。
「じょしかいしよー!」
と叫び出したのだ。
じょしかい…女子会?一緒に話しでもしながらお菓子でも食べようってこと?
せっかくナナちゃんとのんびりしてたし、イヴセーナさんとそんなに交流がないから気まずいし、そもそもなんか酔っぱらってるしで断固として行きたくなかったのだけど…まさかのナナちゃんが。
「あ、行きます」
とイブセーナさんの手を取ってしまったのだ。
えぇ!?ナナちゃん先生いつのまにそんな社交的になられたのですか!?なーんて驚いている間にもナナちゃんはどんどんとイヴセーナさんに手を引かれて行ってしまうので、慌てて追いかけた。
そして今。
私はたぶんネフィリミーネさんの部屋でお茶をごちそうになっている。
「でね~私その時に言われたの~…骨密度が足りなかったねって」
「なるほど~」
「何の話をしているのですか…」
昼間から酔っぱらって変な事を言っているイヴセーナさんと、その話を興味深そうにうんうんと聞いているナナちゃんに、私と同じように若干気まずそうにしているアルフィーユさんとでテーブルを囲みお茶を飲む。
何だろうこの状況…。
なにより私はナナちゃんが驚くほど馴染んでいるのにびっくり…冗談じゃなくいつのまにそんな社交性を身に着けたの…?
私は今でもほとんど知らない人に囲まれて心臓がバクバクしているというのに。
「あの…」
とにかく無心でお茶とお菓子を口に詰め込んでいると、おずおずといった様子でアルフィーユさんが私に手を伸ばしてきた。
「ひゃい!?な、なにですか!?」
「っ!も、申し訳ありません…驚かせてしまいましたね。そのお茶はちょっと癖があるのでこの果実のジャムを入れるといいですよと…」
手元のほとんどからになってしまったカップを見る。
味なんて全く感じてなかったから気にしなかったけど…そんな私は間抜けすぎるし、勧めてくれたアルフィーユさんもいたたまれなくなってしまっている。
こういうところだよなぁ私…。
「あ、あははは…そ、その…おかわりとか…?」
「え、ええまだたくさんあるのでどうぞ…」
こぽこぽと手慣れた様子でアルフィーユさんが私のカップに新たにお茶を注いでくれたので、今度こそは言われた通りにジャムを投入する。
お茶を甘くする習慣なんて正直なかったけど、とても香りはいいし、色も濁るかと思いきや結構透き通っていて綺麗だ。
注いだばかりでまだ熱いので、ゆっくりと口に運び…飲み込む。
「おいしい…」
「よかったですわ。そのお茶にはこのお菓子がとても合うので一緒にどうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
とても世話を焼かれているけれど、お茶もお菓子も美味しい。
そうしている間にもアルフィーユさんはお話しているナナちゃんとイヴセーナさんの分も飲み物を補充したり、お菓子を均等に分けたりとてきぱきと手を動かしている。
…やっぱりとても手慣れているように見えるよね?…何をしてる人なんだろう?メイドさんとか?
でもあんまりしっくりこない…どちらかと言うと…こう…もっとお嬢様とかそっち方面の…気品?のようなものを感じる。
どこかの貴族様だったりするのだろうか?
一人ぼーっと考えていると思考を遮るようにイヴセーナさんが身を乗り出して私の目の前のお菓子を手に取った。
「あ、こらイヴセーナさん。酔っぱらっているとはいえお行儀が悪いですよ」
「え~?だってだってあーしもこれ好きなんだもん~…うぇへへへへへ。ほら~オジョウサマ私にもあのジャムのやつ入れてよ~。気取ったの苦手だけどあのお茶だけはガブガブ飲めるもん~」
「ガブガブ飲むものではないんですよまったく…」
呆れながらも要望通りにお茶を煎れてあげている辺り、この二人の関係性がなんとなくうかがえる。
とても仲がいいのは間違いないみたい。
「あ~甘くておいしー…これって~どこのお茶なのぉ~?」
「どこ?飲み方的には私の出身地のものですが…お茶自体の産地の事なら…こちらで取り寄せたものですしどこなのでしょうね?」
アルフィーユさんがおそらく茶葉?が入っている箱のようなものを手に取ってまじまじと眺めているけれど、これといった情報はないみたい。
まぁ確かにふと食べたり飲んだりしたものがとても美味しかったら、どこのものなのか気になったりするよね、うん。
「…おそらく海の向こうの共和国産の茶葉だと思います」
「え」
「あら?」
「うん?」
平然とした顔で答えを出したのは…まさかのナナちゃんだった。
「ナナシノさん…これを知っているのですか?」
「いえ初めて見ましたけど…箱の様式がおそらく本で読んだ共和国の資料に載っていたものに酷似していますし…それにこのジャム…かなり厳重に腐らない保護されてますよね。海の向こうくらい離れた距離を移動させるのでこれほどの防腐処理がされているのではないかと…帝国や隣の王国産ならここまでの処理は必要ないですし…えっと…間違っているでしょうか…?」
私は思わず拍手をしていた。
ナナちゃんの余りにも素晴らしい頭脳に感動が止まらない。
気分は完全に保護者だ。
「なるほど…答え合わせをする手段が今はありませんが確かに理にはかなっていますね。そう言えば先日共和国に関する本及んでいましたけど…まさかそれだけで?」
「本は…なんでも教えてくれます」
「えーナナっちマジすごいー。ユキノっちなんてなんか泣きながら拍手してるし~」
そりゃ泣くよ。
拍手も止まらないよ。
だってナナちゃんがこんなにも賢い。
先ほどの掌底もそうだけど、本を読んだだけでそれをちゃんと自分のものとして取り込むことが出来るのはとてもすごい事なのではないだろうか。
冗談抜きで天才なのでは?何故か鼻が高くなる私。
そんなこんなでいつのまにかお茶会も楽しくなってきたところで部屋の扉がノックされてガチャリと誰かが中に入って来た。
露出の激しいドレスに身を包んだその人はクイーンさんだった。
「よかった、ここにいたのねユキノ・ナツメグサ」
どうやら私に用があるらしい。
そりゃあそうだよね…あの時は消化不良な感じで終わっちゃったし…正直今この人と話したくはないんだけど…そう言うわけにもいかないしなぁ。
「…なにか用ですか?」
「なによ不満げね。ちょっと着てちょうだい。ボスがあなたに話があるそうなのよ」
「アリスが…?クイーンさんがではなく?」
「どうして私があなたに話をしなければいけないのよ…あ、そうね。そうだったわね。先日はごめんなさい。お礼が遅れたわ」
お礼?お礼ってなんだ。
先日はよくもやってくれたな的な?いやでも一方的にやられてたの私だし…。
反応に困っているとクイーンさんはぺこりと頭を下げてきた。
「えっと…?」
「私どうもあなたの前で倒れたらそうね。最近体調が悪かったから…ネフィリミーネ様からあなたが介抱してくれたと聞いたわ。迷惑をかけたわね」
「えぇ…?」
いやいや、とんでもない捏造をされているのですがそれは…。
もしかして「そういうこと」にしておけと暗に言われているのだろうか…?だけどクイーンさんは本当に申し訳なさそうと言うか…まぁ仮に演技だとしても私には見破れないとは思うんだけど。
まさか本当にあの時私に襲い掛かってきたことを忘れているのだろうか。
「なに?」
「あぁいえ…なんでも」
「そう。じゃあ私の用事は済んだことだし、改めていいかしら?ボスが呼んでるの」
「あ、はい。ちょっと行ってくるね」
ナナちゃんたちに断りを入れて、私はクイーンさんについていくのだった。
──────────
キィ…キィ…と天井に吊り下げられたランプが揺れて暗がりを不規則に照らす。
外は昼間だというのに、自然の光が届いていないその場所では不気味なその灯りのみが唯一の光だ。
そんな場所に一つの足跡がゆっくりと響いていく。
やがて足音は軋むランプの元までたどり着き…その顔を灯りが照らす。
「…ようやく見つけたわよアトラ」
「あはぁい~意外と遅かったですねぇカララさん~」
そろそろお話が動きそうな気配。




