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正義の是非

明日はお休みです。

次回は木か金に投稿します。

月明かりが照らす夜の闇の中。

血が固まって出来たかのような剣が血しぶきを巻き上げながら弧を描き…また一つ、悪しき者を切り裂く。

夜は悪が栄える闇の時間…しかしその漆黒なる深淵の中には悪を滅する闇よりの使者の時間でもあった。


その名はエンカ・ダークハート。

また今宵も一つの悪の組織が深紅なる刃により滅びたのだった。


「お疲れ様だよ~エンカくん」

「この程度の矮小なる悪の始末などに疲労を感じるような僕ではない」


人の姿に戻ったスカーレッドが飲み物を手渡すもエンカはそれを受け取らず、スカーレッドの頬が膨らむ。


「もう!疲れてなくても水分はとらないとダメなんだよ!喉が渇いたって思った時はもう遅いんだからね!ほらお水飲んで!」

「…」


なおも飲み物をなんとか押し付けようとするもエンカは両手を組んでそっぽを向き、決してそれを受け取らないという姿勢を崩さない。


「なんでそんなに頑ななの!?お水くらい普通に飲んでよもう!」

「…」


「…エンカくんどうかしたの?お腹痛い?」


無言で一点を見つめるエンカの姿に、ようやく何かがおかしいと気がついたスカーレッドが心配そうにその顔を覗き込み…エンカは虚空の闇を見つめたままそっとスカーレッドに手を伸ばした。


「スカーレッド」

「え、うん」


手を伸ばして名を呼ぶ。

それは二人の間で決められた合図だ。

どんな状況であろうと、その合図が出たのならすぐさま武器化する…それに従いスカーレッドの身体がほどけるようにして分解されいびつな形の件の姿に再構成される。

実際スカーレッドはなぜ武器化を今しなくてはいけないのか分かってはいない。

だが何よりもエンカを信頼しているから、疑問を持っても大人しく合図には従うのだ。


「…誰だ。僕は人に覗き見される趣味はない」


スカーレッドの切っ先を闇に向け、エンカが言葉を発するもそこには何もない虚空が広がっているだけで、何の気配もなく、当然言葉も帰ってこない。


「エンカくん…?」

「…三つ数える。それまでに出てこないのなら斬る」


風や草木の揺れる音一つしない…本当に誰かいるのか不安になるスカーレッドをよそに闇の中、静かにエンカがカウントを始めた。


「3…2…」


1を発音するよりも早くエンカが踏み出し、静まり返る虚空に向けてスカーレッドを振るった。

当然その刃はただ空を切る…と思われたがしかし、不意に何か硬いものと衝突してわずかな風を起こした。


「え!?」


何の気配も感じなかったはずなのに、気がつけばスカーレッドは「そこ」に何者かの姿を捉えていた。

血の剣の刃を腕で受け止めている人物…ローブで全身を隠し、完全に闇に溶け込んでいるその人物が唯一露出している口元で笑みを模った。


「ははは。いやぁ…3からカウントを始めたものだから1からの0まで言って実質4カウントまで待ってくれるのかと思ってたよ」


声色からその人物の性別は男だとは推測できたが、ただスカーレッドにはその声が、その笑みがどうしても生身の人間のそれとは思えなかった。

自分が言うのもおかしな話だが、まるで作り物のようだと…ひどく人間味がないと思ったのだ。


「…何者だお前。そして僕に何の用だ」

「あっはっはっは。まずは刃を納めてくれないだろうか?私は穏便に話をしに来ただけなんだ」


「ならばなぜ最初に姿を見せなかった。僕はカウントするまでに出てこなければ斬ると言った。そしてお前は出てこなかった。ならば斬られてしかるべきだろう」

「それは乱暴な考えだ。私はただここで人を斬り殺していた気味の姿に恐怖を覚えて足がすくんでいただけだよ。いやはや怖い怖い」


片手で肩を抱いて男は震えて見せたが、その動作や声色にやはり恐怖と言う感情が乗っているようには聞こえなかった。

そういう役を演じている…いいや、そういう行動をするように仕込まれている人形のようだとすら思える…それほどまでに男には人間味を感じないのだ。


「悪を滅する。それが僕の使命だ。お前が僕に滅ぼされる悪でないのなら恐怖を覚える必要などない。お前が本当に僕に恐怖したというのなら…それはお前が悪だからだ」

「我ながら怪しい風貌だとは思うけどね…少し素肌を見せるのは抵抗があるんだ。コンプレックスといってもいい。キミもそう言うのは無いのかい?他人に知られたくない身体の秘密とかさ」

「ちょっ…!!」


エンカに向けられた男のその言葉に、スカーレッドが声をあげようとしたが、それをエンカが剣を強く握りしめる事で引き留める。

しかしエンカの瞳には男に対する確かな敵意が宿り始めていた。


「…もう一度聞く。何者だ貴様」

「ふむ…最近よくその質問をされるのだけどね。あいにく私は人に名乗れるような正体を持っていないんだ。ごまかしているとかではなくてね?本当に何者でもないのだよ。だからまぁ…「何者」かになりたいと必死に努力をしている最中なのだけどね」


「わけのわからん話で僕の時間を浪費するな。要点を話せ。さもなくば斬る…今度は手加減なしだ」

「…怒らせてしまったかな?ではこれ以上嫌われてしまう前に私の目的を話させてもらってもいいだろうか?それをもって先ほどの質問の答えとしていただきたい」


男を睨みつけながらエンカは顎をしゃくって続きを促す。


「仕事を頼みたいんだ。かの名高き闇よりの使者…悪の天敵とまで言われているキミに…エンカ・ダークハートに」

「仕事だと?」


「そう。ただ私の依頼というわけではなくて委託依頼と言う奴になるのだけどね。私は自慢ではないけど少しばかり「友達」がたくさんいるんだ。そしてその中の一人がとても困っていてね…そこで君の力を借りられないかとこうして接触させてもらったわけなんだ」

「僕が貴様のような得体の知れない者の頼みを聞くと思うか?それに何かを依頼したいというのならばその友達とやらが出向くのが筋だと思うが?」


「「彼」は少しばかり自由に出歩くことが難しい立場の人でね。だからこうして私が代理としてきているんだ。理解してほしいな。それにいくら風貌が怪しいからとそう無下にしないでおくれよ。少なくとも私が…いや、私たちがキミに依頼したいのは…そう、正義のための行いといってもいい」


エンカの握る剣にさらに力が込められ、それを受け止めている男の腕がわずかに圧される。

柄からスカーレッドに伝わってくるエンカの感情は…怒りだった。


「ほざくな。僕にはわかる…お前からは悪の匂いがする。少なくともお前は正義ではない」

「正義とは達が違えば見方も変わるものだろう?僕らのそれがキミの主観からズレると言いたいわけではないが、一方的に履き捨てて正義ではないと否定するのは横暴ではないかな?」


「ほざくなと言っている。見方で変わる?主観?そうやってお前たちはすぐに論点をずらす。いいか?たとえ悪が自分の行いは自分から見れば正義だと喚いたところで…それが誰かの幸せを、平和を享受する者たちの未来を侵した時点でそれは唾棄されるべき悪だ。そこに主観などの外的要素が加わるものかよ」

「それもキミの主観による正義…という議論を是非ともしてみたいものだけど、残念ながら今回の目的はそれじゃないんだ。また次回の楽しみに取っておくよ。キミがどう思うと構わない…だがまずはここに困っている哀れな男がいると思って話だけでも聞いてはくれないだろうか?先ほども言ったが君の主観からしても私の依頼は間違いなく正義の行いだと断言するよ…キミの好きな正義の行いだ」


「僕は正義ではない。正義では裁けない悪を滅する闇よりの使者だ」

「…それで構わないよ。まずはこれを見て欲しい」


男が自由になっている方の手をローブの下に隠し、何か小さな紙のようなものを取り出してエンカに見えるように掲げた。

それを見たエンカの表情は…わかりやすく不快気に歪む。


「なぜ貴様がそんなものを持っている。そこに写っている女を知っているのか」

「あぁやはり女性なんだね。ちょっとわかりにくかったからスッキリしたよ…いやなに、依頼と言うのは彼女に関する事なんだ」


男が手にしていたのはあまりにもリアルな人物画だった。

いや、「画」というには風景をそのまま切り取ったのではないかと思えるほどリアルであり…そしてそこに写り込んでいる女性の名は…ネフィリミーネ・ダークハートだった。


「なんだと?」

「実はね、この女性…国家規模で指名手配になっているのだけど知っているかな?」


「…ちっ」


苛立たし気な舌打ちは一体誰に向けられたものなのか。

少なくとも目の前の男ではないように静かに状況を見守っているスカーレッドには感じられた。


「罪状は要人の誘拐…言ってしまうのならばとある国の姫がこの女性に誘拐されているんだ。ここまで言えばわかってもら───」

「濁した言い方をするな。貴様らのような奴はそうやって曖昧さをさも知能戦、心理戦をやっていますとでも言いたげに振りかざす。後ろめたい事がないというのなら全て口で説明しろ。僕に理解を求めるな」


「…依頼人である友人は攫われた姫の父親と姫の婚約者である某国の王子なんだ。大切な娘を、婚約者を犯罪者の手から救い出してほしいとあまりにも真剣に頼まれてしまってね…私としても何とかしてあげたいと思っているんだけど…当然彼らも姫のためにできる事はしていた。兵を放ったり傭兵を雇ってみたりね…でも」

「ふん。一国の兵隊や傭兵ごときがあの女を相手にできるものか」


「そう、そうなんだよ。それで困り果てていてね…そこで私たちはキミに白羽の矢を立てた。悪の天敵…闇よりの使者エンカ・ダークハート。どうか一人の女性の安否を心配する者たちのために…犯罪者から姫を取り戻してはくれないだろうか」


空に浮かぶ月は…いつの間にか厚い雲に覆い隠されてその姿を失っていた。

エンカくんはスカーレッドちゃんがいないとまともな生活を送れないタイプです。

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― 新着の感想 ―
[一言] (己の財産として)大切な娘を、(自分のモノになるべき)婚約者を(そこから救い出した)犯罪者の手から救い出して(婉曲表現)ほしい …以外に全く読めなくなるあたり、にーねー婆様の信頼度は素晴らし…
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