剣と魔法
休みが多くてすみません。
次回は明後日投稿します。
周囲の風を巻き込みながら巨大な剣がその圧倒的な質量の刃を煌めかせた。
アトラの手に握られたそれは人一人分以上の丈があり、今まさにその刃が向かう先であるアマリリスの胴体などいとも簡単に切断できるはずだった。
しかしその大剣はアマリリスがそっと添えられた手のひらによっていとも簡単に受け止められてしまった。
いや、正確にはその掌に触れる寸前で大剣はその動きを止めていたのだ。
当然ながら殺意を持って振りぬかれたそれをアトラが止めたはずもなく…今この瞬間にも勢いの殺された大剣には力が込められ続けている。
だが、まるでそこに見えない壁があるかのように大剣はそれ以上先には進まない。
「…魔法の壁ですかぁ~?小賢しい真似をしますねぇ」
おおよそ覇気という物を感じさせない、妙な抑揚の間延びした声で喋りながらも手にした大剣は行き場のない力が込められている影響か小刻みに振動している。
アマリリスはそれを受け止めながら、アトラに対し観察するかのような静かな視線を注いでいた。
「私は戦いという行為に対してそこまで才能は無いから。あなたみたいなのと事を構えるにはこれしかないの」
「そ~んな涼しい顔をしているくせにぃこれしかないとは笑わせますぅ」
それ以上は粘ったも無駄だと、アトラはトンと後ろに飛びのいて距離を取り…アマリリスが瞬きをしたその瞬間に姿を消した。
「ん…?」
アマリリスがその状況を理解するよりも早く、背後から風を切る音が聞こえ、とっさにその方向に掌を向ける。
その反射に頼った行動は正解だったようで、いつの間にか背後に回っていたアトラの大剣が再び魔法の見えない壁によって受け止められる。
「おやぁ~行けたと思ったのですがぁ~」
「…すごいね。瞬間移動したようにしか見えない。もしかしてなにか魔法を使ってる?それにしては魔力を感じないけど」
「私は魔法はからっきしなのでぇ~ただの視線誘導といい感じのステップの合わせ技ですぅ」
「ふ~ん…私には真似できそうにないや。するつもりもないけど」
アマリリスが古ぼけた本をスッとアトラに向ける。
すると何もなかったはずの空間から無数の火の玉が現れ、アトラに向かって飛んでいく。
それを視認したアトラは瞬時に身を翻し、降り注ぐ火の玉の雨の隙間を縫うようにして走り抜け、再びアマリリスに斬りかかる。
「…アトレリカ・レヴァグレイヴ…あなた本当に人間?」
「何をもって人間かどうかの疑問を持たれたのか知りませんがぁ~あなたにそれを問われるのは釈然としない何かを感じますねぇ~…それとぉあんまりその名前を呼ばないでいただけますかぁ?仰々しくて好きではないのでぇ~今はアトラと名乗っていますのでぇはいぃ」
「そう…じゃあアトラさん。どう考えてもあなたは普通じゃない。動きが…いえ、やっていることが人間のそれじゃない」
「だからぁあなたに言われたくはないと言っていますぅ~!」
受け止められていた大剣をアトラが引き戻し、再び振りかぶったところでその隙をつきアマリリスが雷をアトラに向けて放射線状に放つ。
まさに瞬くような速さの雷であったが、アトラはすでに魔法の範囲から逃げ出しており、その間にも放たれている火球をさらにかいくぐり何度も何度も体験を叩きつける。
「その大剣…受け止めている感じや地面に穴が開いてる事からもそうとう重いよね?どれだけ鍛えてるって言っても、それをもってそんな軽やかに動けるはずがない。魔法を使っているような気配もない…どういう事なんだろう?」
そのアマリリスの言葉はアトラに問うているというよりは自分に問題を提起していると言ったほうが正しかった。
疑問を提唱し、考え、答えを出す。
そのとっかかりとなる問いだ。
「やっぱり凄腕と言われていた傭兵の娘と言う出自が何か関係しているのかな?」
「そう無遠慮に人の過去をほじくり返すのが殺したいほどに不快だとこうして剣を振っているのがなぁんでわからないのですかねぇ~!」
大剣の峰の部分が仰々しく音をたてて展開し、そこに慣れた手つきでアトラが小さな箱のようなものを挿入する。
その結果、一泊おいて大剣の刃部分が真っ赤に染まり、放熱を始める。
周囲の景色が歪んでみるほどの熱を纏った刃が的確にアマリリスの急所を狙ってその牙を向く。
だがそれでもアマリリスの壁を破るには至らなかった。
「隠されているものは暴きたくなるもじゃない?心理究明、探求探索。発掘掘削、理解適応。「知る」という事は全てに通じるの。何事も知らなければ始まらないし、知らないという事を知ったなら、それを知らないとそこから進むことは出来ないでしょう?」
「神様の言う事は難解すぎて私のような人間様には理解できないですぅ~。知らない事なんて知る必要のない事なんですからぁ~気にせず寝るか殺すかすればいいだけなんですよぅ。やっぱり超常の怪物にはわかりませんかぁ?」
「超常の怪物…ね。ほら、あなたは私の事を何も知らない」
「知るつもりはないと言っているのですよぅ」
二人の力は拮抗し、いたずらに戦闘が長引いていた。
いや正確には拮抗するようにしかお互いに力を出していないと言ったほうが正しかった。
どちらも本気ではない。
アトラは殺す気ではあるが、自分の持てる全てを出してはいない。
アマリリスはそもそも殺すつもりがないので手を抜いている。
故に決着がつかない。
「はぁ…仕方がありませんねぇ~まぁどこかであなたのような存在に通用するのか見てみたかったですし…ここでちょっとした切り札をお披露目と行きましょうぅ~」
そう言いながらアトラが大剣を深く地面に突き刺し…そして引きぬいた。
刺して抜く。
何の意味もないはずのその行為だが、明確に変化があった。
地面に刺さった剣の部分は微動だにしない状態で、柄の部分だけが引き抜かれていく。
そして現れるのは小ぶりの刀。
大剣の中から現れたそれは、先ほどまでの質量の塊から考えればあまりにも頼りなく見えた。
「剣の中から小さな剣…それに何の意味があるの?何か特別な剣なのかな?」
「知りたいですかぁ?それならぁ~…是非その身体で体験してみるとよいですよぅ」
そしてまたアトラの姿がアマリリスの視界から消えた。
この戦いが始まってすでに数度、見た光景だが獲物が小降りになった影響かその動きはさらに軽やかに、速くなっている。
だがそれでも完全に消えているわけではない。
姿が見えなくなっているわけではない。
視界にいないという事は、逆に言えば視界の外にはいるという事だ。
背後か上か…それがわかっているのならただ手をかざすだけでいいアマリリスにはその攻撃を受け止めるのはとても容易い。
ビュンと風を切る音がして、アマリリスが手をかざし…アトラの小ぶりな刀が受け止められる。
だが次の瞬間だった。
その小さな刃はアマリリスの魔法を切り裂いたのだ。
「え…」
「隙アリですぅ」
心底楽しそうな…それでいて狂気に彩られた笑みを浮かべ…アトラがその刀を振りぬいた。
刃がアマリリスの喉を抉り…その頭部を胴体から切り離す。
重たい石が地面に落ちるよに、頭部だったものが転がり…脳を失った身体が崩れ落ちる。
「…ほんとうにそうとう小賢しいですねぇ~なんなんですぅこれはぁ?」
「今では珍しいのかな?見たことない?パペットってやつだよ」
確かに今死んだはずのアマリリスの声が、アトラの背後から聞こえた。
そちらには振り返らず、アトラはめんどくさそうな視線を足元の死体に向ける。
血は流れておらず、その断面から覗くのは赤々とした肉ではなく…作り物の人形のような平坦なそれだ。
いや、実際にそれは人形だった。
「よくもまぁ次から次へとぉ…魔法というのは苦手ですぅ」
「それは私も言いたいよね。何なのかなその剣」
「剣ではなく刀ですぅ。知るがどうこう言うのなら名前は正しく呼びやがれですぅ。まぁ見せてしまった以上は隠してもしょうがないですねぇ…あなたのような神様なら逆に詳しいのではないですかぁ?100年以上も昔、かつてこの世界であったという世界が黒と白に染まったその時に降り注いだという万物を切断するという刀…そのわずかな欠片を寄せ集めて作ったらしい業物ですぅ。まぁ実際にそんな出来事があったのかは私は知る由もないのですがぁ…あなたなら分かるのですかねぇ?バケモノ様?」
「…」
アトラの持つ刀の刀身に、スッと目を細めたアマリリスの顔が写り込んでいた。
超多機能型大剣。




