犯人
次回は明日か明後日投稿します。
「ま、待ってよ!」
つい大声を出してしまい、慌てて口を塞いだけれどアリスもネフィリミーネさんも気にした様子はなく、ゆっくりと視線だけを私に向けた。
思わず横やりを入れてしまったけど、ここで黙っちゃうのはさすがにダメだろうし、分からない、気まずいからと黙ってしまうのは悪い癖だ…うん、思っていることはちゃんと言おう。
「え、えっと…アラクネスートってアリスが作った組織…なんだよね?」
「うん。そう言えばユキノくんには黙ってたままだったね。ごまかしたり嘘をついていた形になって申し訳ない。まぁでもほとんど分かっていただろう?」
「え!?あ、そうか…」
なんだか途中でいろいろとあったせいで私とアリスの間の認識がすり合わせられていなかったことに気がついた。
でもアリスの反応…というかこの話に私を呼んでいる時点でもう隠すつもりはなかったみたいだけど。
この機会に色々と聞いてみたいけれど、今はでも目の前の問題からだよね…?
「えっとそれはいいんだけど…だからこの場所はアリスが作った場所で…それで皆はアリスが集めた人たちなんだよね…?」
「うん」
「そんな人たちがその…アリスを誘拐する手伝いをしたってこと…?」
「そうなるね」
「いや、待てよ小リス。もっと前から裏切られてた可能性もあるだろ?今回たまたま目につく形で転移の魔法陣が盗まれていたことに気がついただけで、かなり前から盗られてたかもだろ?」
「当然その可能性もあるね」
二人は平然と話していたけれど、私はいまいち納得ができない。
「で、でも!私はその…皆さんの事よく知らないけれど…でもみんな仲良くしていたように見えました…それがその…そんな事…」
言ってる途中でアトラさんとカララちゃんは仲が悪いみたいなことを言われた事を思い出したけれど、私にはそこまで険悪な中には見えなかった。
クイーンさんに至っては言葉を交わしたことも数えるくらいしかないけれど、それでもあの幹部たちが一緒に居る時は…その…気心の知れた友達同士に見えて少し羨ましく思ったことだってあった。
そんな人たちが裏切ってアリスを酷い目に合わせるなんて…信じたくなかった。
「それは人を信じすぎだな。ねーちゃん」
違う。
私は人を信じてるんじゃないのだと…多分思う。
先ほども思った事だけれど、私は幹部のみんな事をほとんど何も知らない。
アトラさんとは親交があるけれど…どういう関係なのかはいまいちわからない。
だから私は信じてるんじゃなくて…多分理想を壊されたくないのだと思う。
仲のよさそうに見えた皆が…私にいはいない気を許せる友人という関係に見えたその姿が…虚構だったって思いたくいだけなんだって。
「まぁでも…そうだね、さすがに何の理由もなく裏切ったりはしないと思うからね。犯人にも何かどうしようもない理由があるのかもしれない…でも今は良し悪しよりも事実を受け入れて追及しなくちゃいけない。やりたくはないけれど犯人探しと…どれほどの情報が持ち出されているのかの確認をしなくちゃいけない」
「…つーか一ついいか?その話、俺様にしていいんか?さっき自分で言ったけど俺様も容疑者の一人だろ?」
魔法陣が幹部にしか持ちだせない…それがどう管理されていて、どういう理由でそうなるのかは分からないけれどアリスが言いきっているのならたぶんそうなんだろう。
そしてそうなるとネフィリミーネさんも容疑者という事になるわけで…。
「まぁにーねー様に関してはシロだと思ってるから」
「なんでだよ」
「勘」
「マジかお前」
「あっはっは!…まぁ勿論だけどちゃんとした理由もあるよ。転移の魔法陣は現状この帝国の一部にしか設置していない。移動は一方通行で帰りは別の手段だ。それを最近まで国外にいたにーねー様が盗むことは出来ないだろう?開発されたのもにーねー様がいない間だし」
「そりゃそうだがよぉ~やりようはあるだろう?現にお前から通話の時に話聞いたりしてっし…それこそ自分の発言を覆すみたいだが、お前の誘拐に使うために盗んだのなら帰ってきてからでもいいだろ?」
なぜか自分に疑いがかかるようなことを言っている難しい顔をしているネフィリミーネさんと、まったく疑っていないようにニコニコ笑っているアリスの表情が対照的だ。
「にーねー様は魔法関係全般苦手じゃないか。あれは取り外したり、解析するだけでもかなりの知識が必要だよ?」
「だーかーらそう言うのも全部お前に見せていただけの演技かもしれねぇだろ。それにその…最近めちゃくちゃ勉強したのかもしれねぇだろ」
「そこまで言い出したらキリがないよ。でも当然これらはにーねー様の疑いを完全に晴らすものじゃない」
「だろ?」
「だから残りは余の勘だ。結果、余はにーねー様は犯人じゃないって判断した。これはもう覆さない」
「おいおい…」
「それに…にーねー様が余を裏切ったというのなら…それはそれで仕方がないと思うよ。余はあなたに…恨まれて害されても仕方がないほどの事を強いているから」
一瞬だけアリスが暗い表情で目を伏せた。
それを見た瞬間、慌てたようにネフィリミーネさんが立ち上がって両手をわたわたと振り出した。
…あの人にしては珍しいリアクションだなって思った。
「だー!悪かった!悪かったって!ただいつものディスカッションしただけだって!俺様裏切ってない!ほんと!」
「…うん」
「はぁ…ったくよぉ…」
疲れたような表情で座りなおすネフィリミーネさんと苦笑いのアリス。
この二人には親戚なだけでなく何かもっと…深いつながりがあるのかもしれない。
そしてそれが…二人の信頼につながっているのかな…。
やっぱり少し羨ましい。
「じゃあ話を戻そう。今はとりあえず外部的な要因を考えず犯人は残りの三人…クイーン、カララ、アトラの中にいるって考えて動く」
「外部的って…他の犯人がいる可能性は考えないって事…?」
「うん。可能性が一番高いのは間違いなく幹部たちだからね。それに…彼女達が犯人でないというのなら真っ先に疑いを晴らしたいというのもあるんだ。今はどうやっても疑うしかないからね…余だってどうしても彼女達を犯人と決めつけたいわけじゃない」
「そっか…そうだよね…」
「ってもなぁ…俺様帰って来たばかりだからなぁ…それ以前のあいつらの動きなんてほとんど分からんぞ。管理してたのはクイーンだし。つーか二人以上が犯人って可能性は?」
「当然それもある。だけど単独犯でないのならにーねー様に魔法陣が見つかるようなミスをするかな?って気もするんだ。だからこれも勘だけど犯人は一人だと思う」
犯人は一人…かもしれない。
ここに私が呼ばれているのは…疑いの余地がないから?
でも正直どんな理由で呼ばれているのだとしてもあまり役には立てないと思う…あんまり頭もよくないし。
「なにか少しでも妙な動きをしていた人はいないかい?」
「犯罪組織で怪しい動きをしていない奴なんか要るもんか」
全くの同意です。
それに私はそこまでみんなと仲良くなんてないから…普段と違う動きなんかをされてもそれだと気付けるわけが…。
「あ」
「あ?どうかしたのかい?ユキノくん」
「あ、いや、えっとその…」
「今は少しでも情報が欲しい。なんでもいいから気になることがあるのなら話してくれないかい?」
「あっとその…アトラさんが…」
「あ、そういえば…」
私がアトラさんの名前を出すとネフィリミーネさんも何かを思い出したように声を漏らす。
さっきのアトラさんは様子が明らかにおかしかった。
何か悩んでいるようで…遠出の準備をしているようだったし。
「アトラくん?一応は余は彼女達の大雑把な動きは把握しているけれど…彼女に遠出の予定なんてなかったはずだ。無断で出かけるというのも組織の都合的にありえないはず…一体なぜ…」
「…そういや小リスが目を覚ましたって報告を入れたの昨日だったな。昨日はそんな様子はなかったし…報告を聞いて遠出の準備をした?」
「にーねー様」
「おう」
弾かれたようにネフィリミーネさんが部屋を飛び出した。
私も一瞬迷ったけれど、慌ててその背を追う。
目的地はもちろんアトラさんの私室で…。
そしてその日を境に、大荷物を持った目撃情報を残してアトラさんの行方がわからなくなった。
貴重な眼鏡要員が!




