意味
次回は明日か明後日に投稿します。
「なんなわけでーそれからミーくんとずっと一緒に居るの~…ぷしゅぅぅ~むにゃむにゃ」
顔を真っ赤にしたイヴセーナがテーブルに突っ伏して半分寝ているかのような表情で過去を語り終えた。
それらを聴いていたアルフィーユは様々な感情の混じった何ともいえない表情で飲み物を流し込み、ナナシノは表情を変えないまま、それでも興味深そうに話を聞いていた。
酔いが回っているのかそんな二人の反応は気にも留めず、つらつらとイヴセーナは話し続ける。
「でもね~だから時々不安になるんだ~…ミーくんに捨てられるんじゃないかって~…」
「…あの人があなたを捨てるなんてないと思いますよ」
「でも~オジョウサマみたいに可愛くないし~…頭もよくないし~…ぜんぜんお肉つかないしぃ~…お薬もやめられないしぃ…」
「…そんなもの気にしているのはあなただけです。薬だって…いつかはやめられるわ」
アルフィーユがイヴセーナの頭を優しく撫でる。
それに対して気持ちよさそうに目を細め、へにゃへにゃと小動物のように笑うイヴセーナの姿にアルフィーユもつられて笑みをこぼした。
「そうかなぁ~捨てられないかなぁ~」
「あの人が女性を粗末に扱いだしたらいいところなんて何も残らないクズになりますから。せめてそこくらいは信じてあげましょう、ね?」
「そうだねぇ~そうだといいなぁ…すぴー…」
遂に寝息を立てだしたイヴセーナにそっとシーツをかけて席に戻り、身を正す。
お喋りだったイヴセーナが潰れてしまったために、女子会は沈黙に包まれてしまったが、ナナシノのグラスが空になっているのを見てアルフィーユが飲み物を注ぐついでに口を開く。
「ごめんなさいね。変な話になっちゃって」
「いえ、大変興味深かったです…少し聞いてもいいですか?」
「ええ構いませんよ」
「…お二人はとっても仲がいいように見えました。私…本で読んだんです。人には「好き」という感情があると。あなた方は…「好き」という事ですか?」
そんな不思議な質問にアルフィーユはグラスの中身を揺らしながら少しだけ考えた。
自分とイヴセーナの関係。
それを言葉で表すことはとても難しい。
ただ…それでも無理やり言葉という形にするのならそれは…。
「おそらくは「好き」という事になるのでしょうね。そんなに付き合い自体は長くないですけど…でも私はこの子に惹かれているというのは確かです。教養も常識を身に着ける環境にいなかった。おおよそ恵まれているとは言えない環境で育った…だというのに彼女はいつだって前向きで…私には眩しいくらいです。そんな彼女に抱いている感情は…えぇそうですね紛れもなく「好き」という言葉に分類されるものだと思います」
「なるほど…」
「本当は薬なんてとっくの昔にやめられてるんですよこの子。まぁまだ思い込みによるところが大きいのですけれど」
現在イヴセーナが服用している「薬」はただのビタミン剤であり、それを過去に中毒になっていたものと思い込まされて服用しており、実際にそれで禁断症状が出ない段階まで来ており、完全克服までの道は見えていると言ってもよかった。
「ほら…逆に私がこの子に勝てるところがないくらいです。恵まれていたはずなのに…何もかも取りこぼした馬鹿な女ですから私は」
「…?」
「あぁごめんなさい、話がそれましたね。「好き」を聞きたいだなんてちょっとびっくりしました。どうしてそんな事を聞きたかったんです?」
「本で読んだから、です。私はいろいろと知らないので…勉強をしているので…」
「詳しく聞いても?」
「え?あ、はい」
そしてナナシノは自分の素性をアルフィーユに話した。
産まれてからずっと監禁され、人体実験をされながら過ごしたこと。
ユキノと出会った事。
外に出てユキノといろんなところに行きたいという事。
そのために今勉強中なのだという事を。
「そう…だったのですね。辛い事を聞いてしまいました、申し訳ありませんわ」
「?べつに何もされて…いません、よ?」
「そうですか…いえ、ならいいのです。ではお詫びに私から一つ」
「?」
アルフィーユの指が眠るイヴセーナの頬をそっと撫でる。
眠るその表情は子供のように穏やかだ。
「好きと言う感情には様々な意味があります。言葉は一つでも意味はたくさん…それを少し考えてみるのも面白いかもしれませんね」
「意味はたくさん…」
「少し本を貸しましょうか。私もあんまり詳しくはないのですが巷で流行の恋愛小説など中々面白いですよ。ものによってはそれこそ様々な「好き」の形が描写されていると思いますし、人の感情の描写などもあるので結構いいかもしれませんわよ」
「おぉ~…では少しお借りしてもいいですか。以前に小説自体はは呼んだことあるのですが恋愛というジャンルは初めてです」
「そうですか。ならこれがきっかけになるといいですね」
「はい…ところでえっと…アルフィーユさんは…どうしてししょうたちと一緒に居るんですか?それも「好き」だからですか?」
ナナシノの問いにアルフィーユは目を伏せることで拒否を示す。
その質問に答えるつもりはないとばかりにお菓子に手を伸ばして口を塞いだ。
「あらこれ美味しいですよ。いかがですか?」
「いえ…食事はできるだけユキノさんととりたいので…」
「そう…ならそろそろお開きにしましょうか。ごめんなさいあなたの事を色々聞いたのに私の事は話せなくて…事情を知ると巻き込んでしまうかもしれませんので」
「?」
そうして女子会は終わりを告げた。
ナナシノは一人部屋に戻り、部屋の隅でペラペラと借りた本のページをめくっていた。
お勉強熱心。




