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刻んだ炎6

予約投稿間違えてました!すみません!

今回が二話分あるので次回は明後日投稿します!

「ほい、よっこらせっと」


ネフィリミーネが肩に抱えていた大きな芋虫…縛られていた娼館の男を勢いよく壁に投げつける。

「ぐあっぁ」と鈍くうめき声をあげて、男はぐったりと横たわった。


「ギャハハハハハ!なんだなんだぁ?そんなに萎えちまってよぉ。俺様みたいなババアに知識や経験で勝てねぇのは仕方がねぇが…体力で負けちゃあいかんよ若者が」

「ババア…?何を言っている化け物め…」


男の無残な様子を見てケタケタ笑うネフィリミーネの衣服には無数に刃物による傷のようなものが散見された。

しかし本人は何事もないかのようにケロッとしており、出血していたり傷を負っている様子はなかった。


ネフィリミーネと男たちの戦いが始まっておよそ1時間…それは一方的な戦いだった。

群がる男たちを殴り、蹴り…刺されても平然と殴り返してくる。

あれは人ではない、獣だと男が思った時には縛られて娼館から連れ出されてしまっていたのだ。


「ギャハハハハハ!俺様が化け物なんじゃなくて、お前たちがひょろっちいだけさ。もう少し体を鍛えなぁ~体力がないのはいけんぞ~」


バシバシとまるで友人に接するように肩を叩き、笑いかけるその姿が男には何よりも不気味に見えた。


「お、俺に何をするつもりだ…こんなことして後でどうなると…」

「あーあーそう言うのはいいのいいの。人生なんてそんな長くないんだから後の事を考えてたって仕方がないだろう?考えるのはいつだって今だぜ若者くん…さて…ここってさ、実は俺様が最近借りてた宿なんだけどさ~経営してるのが俺様よりも年上の爺さん婆さんでさ~最近いろいろと身体にガタがきてて大変だそうなんだわ」


「何を言っている…?」

「んー?まぁだからよぉ~ちょ~っと管理が行き届いてないかもなぁってな?例えば火のあとしまつを忘れてて火事になるとか…シャレにならんことも起こってしまうかもな?」


そうしてネフィリミーネは不自然に部屋の中心に置かれた大きな壺のようなものを男がいる方向に向けて蹴り倒す。

すると中から独特のにおいがする液体が流れだし、部屋を濡らしながら男の元に流れ出していく。


「これは…まさか…」

「石油ってやつだな。なんでもかんでも魔法ってわけにもいかんからこの宿では風呂とか暖房は帝国発のこういうので動くやつで代用してるってわけだ…んで仮に…仮にだぜ?こいつにうっかり火なんてついちまった日には…大惨事だ。爺さん婆さんが火の後処理ちゃんとしてるといいな?」


「ま、待て…貴様本当にな、なにをするつもりなんだ…じょ冗談だよな…?」

「冗談って何がだ?俺様はただ雑談をしてるだけだぜ…なーんてまどろっこしい言い方はいい加減めんどくせぇか?じゃあもう少し直接的に言おうか。実はな?なーんか不思議な事にさ?今日この場所で大火災が起こる予定なんだ」


「は、はぁ…?」

「そんで客も店主も偶然みんな逃げられたんだが…運悪く一人だけ焼死体が上がっちまうんだなぁこれが。そしてその運の悪い一人が…」


ゆっくりとネフィリミーネの指が縛られた男に突き付けられる。

半ばおどけているような動作だったが、ネフィリミーネの瞳は冗談を言っているようなそれではなかった。


「ふ、ふざけるな!俺のバックに誰がついてるか本当に分かってるのか!?」

「それしかないのか?お前は。まぁぶっちゃけここでお前が死ぬのはそっちをおびき出したいってのもあるんだ…うちの姫様が新しく始める「仕事」に邪魔なんだよなぁ人身売買をやってる組織ってのは」


「んな!?まさか裏の世界で戦争を始める気なのか!?そんなことして無事に済むはずが…」

「それはお前が心配することじゃぁないな。さて…じゃあ始めますか」


ネフィリミーネが小さな筒のようなものを取り出し…何か操作をするとその筒の頂点に小さな火がともった。

もしそれを下に落とされれば…。


「た、頼むやめてくれ…!何でも言うとおりにするから!助けてくれ!」

「ふむ…何でもって何をしてくれるんだ?」


ネフィリミーネの手元の炎が消える。

それをみて男は最初から自分を殺すつもりはなく、こうして交渉しようとしていたのだと判断し、安堵した。


(そうとなればなんとかここは逃げ切って…上の方々に報告をするんだ…!)


「黙るなよ。燃やされてぇのか~?」

「っ…な、なんでもだ!何でも協力する!情報…そう、俺が持ってる情報を全部渡してもいい!きっと役に立つ!」


「ふんふん…なるほどなぁ…。うん、いらね」

「え…」


「真面目に考えろよ~ここまで来たら最初から狙いはお前とその後ろの連中だってわかるだろ?そんな状況で俺様が何の情報も持ってないと思うか~?それにお前から貰える情報なんてあの娼館を調べればだいたい手に入るだろ?だからお前さんの命とは釣り合わんな。それに…」


次の瞬間、男の鳩尾にネフィリミーネのつま先がめり込んだ。


「うぐっ…!?」

「俺様は女を食い物にするブサイクには容赦しねぇって決めてんだ。言っとくが俺様は正義の味方なんかじゃないぜ?とびっきりの悪人さ。だからスカッとした後味のいい終わりじゃなくて…陰湿で悲惨で残酷な手段を取らせてもらうぜ?」


バキッとネフィリミーネの手が鳴り…そして───


その日、とある古い宿で火災が起こった。

原因は誰かが捨てた火のついたタバコが偶然漏れ出していた油に引火したことによる事故だと判断され、一体の身元不明の焼死体が発見された。

そして公にされることは無かったが、その遺体は死因こそ焼死であったものの全身の骨が砕けるほどに暴行を受けていた痕跡があったという。


数か月後。

かつてとある組織が非合法の商いを行っていた娼館で特徴的な笑い声が響いていた。


「ギャハハハハハ!いいぞいいぞー!やっぱこれだよこれー!ギャハハハハハ!!」


その笑い声の主であるネフィリミーネは娼館中の娼婦に囲まれて、ワインの入ったグラスを片手にハーレムを満喫していた。

あの後、宣言通りに娼館を乗っ取ったネフィリミーネはまずそこで働かされていた者たちのケアからはじめた。

その世界から足を洗えるものは表に返し…すでに裏でしか生きられない者たちには仕事を与えた。

薬物の対処に店としての正常化…キャストたちの尊厳を無視した非合法の店から、仕事に誇りを持てる環境の合法な店へと生まれ変わらせた。

もっともその背後にいるのはネフィリミーネとそのさらに後ろの組織なので完全な合法とは言えないのだが…。


ともかくネフィリミーネは店の改革と、その持ち前の女たらし能力でたちまちキャスト達を虜にし、夜な夜なハーレム生活を満喫していたのだ。


「いやぁ楽しいなぁ!綺麗なねーちゃんに囲まれて酒を飲む…人生で二番目に充実してる瞬間だよなぁ!」

「あらオーナー。二番目なんて心外ですわね」

「そーそー!一番はなんなのよー!」


「んなもんヤル事やってる時に決まってんだろうが!ギャハハハハハ!!」

「いやーん!オーナーのえっちー!」


そうして楽しく過ぎていく夜だが一人だけ、その輪の中に入れない者がいた。


「おうイヴちゃん!お前もこっちにこいよー!」

「…っ」


ネフィリミーネに声をかけられてイヴセーナは背を向けて逃げ出した。


「あらら逃げられちまった」

「…オーナー、あの子は」


「まぁまぁ皆までいうな。わかってるって」


イヴセーナの存在は生まれ変わった娼館内でも半ば腫物のようになっていた。

かつてこの店で一番ひどい扱いを受けてきた事…そして誰もそれを庇うことが出来なかった事。

仕方がない事ではあるが、それらがイヴセーナと他の女性たちの間に溝のようなものを作っていたのだ。

さらにイヴセーナはその身をあまりにも深く侵した薬物の影響から完全には抜け出せていなかった。

ネフィリミーネが騙しだましでビタミン剤をそれと偽ることで本人の気づかないところで改善の兆候は出かけているが、時折禁断症状に悩まされている。

そんなこともあり一人孤立しているような状態が続いているのだ。

ネフィリミーネは女性たちに「悪いな」と一声かけて立ち上がると、逃げ出したイヴセーナの後を追いかけるのだった。


「おーいイヴちゃん」

「…」


「まだみんなと打ち解けるのは難しいか?」

「…」


「そんなしょぼしょぼした顔するなって。せっかくの可愛い顔が台無しだぜ?ほらほら、今ならなんと俺様を独り占めしていいぜ?うん?ベッド行くか?」

「…いかない」


イヴセーナは拒否の姿勢を見せたが、そんな事お構いなしにネフィリミーネはイヴセーナを抱えてベッドに押し倒した。

無理やりな行動にも見えるそれだったが、イヴセーナは抵抗することは無く、ただ顔だけは反らしていた。


「…難しい顔だなぁ。いろいろ考えすぎなんじゃないか?人生なんてそん時そん時が楽しければ後の事なんてどうにでもなるんだぜ?」

「…だって…あたし…」


「だってなんだよ。ババアだからそういうのハッキリ言ってもらわんとわからんぜ?」

「あたし…皆みたいに可愛くない…お薬だってやめられないし…お腹も…」


ポロポロとイヴセーナの瞳から涙がこぼれ落ちる。

皆みたいに可愛くない。

その言葉に含まれた様々な感情が、その心を未だにくらい闇の中に沈みこませていた。


「薬なんていつか止められるって。どーとでもなるから安心しな。んでおなか?腹?腹がどうしたんだよ。お前はとびっきりの可愛い女だから変な事気にするなよ」

「っ!!こんななのに!見てよ!」


イヴセーナは衣服をまくり上げ、腹を露出させた。

そこにあるのはかつて深々と刃物で抉られた傷が大きな痕となり残っていた。


「んだよこんなもん~。こんなのお前の可愛さを左右なんてしねぇよ」

「する!」


「しねぇって」

「なんで…!」


「はぁ…まぁでもそうだよなぁ…俺様はマジで気にならんのだが…でもこういうのは本人の気持ち次第だからなぁ…うっしじゃあ「これ」入れてみるか?」


ネフィリミーネが同じように自らの服をまくり上げ、脇腹の辺りを見せつける。

そこには炎を模したような真っ黒な絵のようなものが肌に刻み込まれていた。


「なにそれ…」

「かっこいいだろ?ま、ちと事情があってな。これ自体は害があるもんでもないし傷がどうしても気になって前に進めねぇって言うのならこれを傷の上にちょちょいって入れたら目立たんようになるべ」


「…」

「やるか?正直、傷が気になるならこれも気にはなると思うが…前を向くにはちょうどいいきっかけにはならぁな。安心しろイヴセーナ。誰がなんと言おうとこの俺様がお前は可愛いって太鼓判捺してやるから」


「ほんとに…?」

「おうよ。俺様は大ウソつきの悪党だが女には真摯だぜ」


そこからしばらくしてイヴセーナの腹には大きな黒い炎が刻まれ、それは見事に傷を覆い隠し、それ以来イヴセーナは腹部が露出した衣装を身に纏うようになった。

まだまだ乗り越える物は多かったが、それでもその日から少しだけイヴセーナは前を向けたのだった。


そして。


「オーナーほんとうに行っちゃうの…?」

「おう。いつまでも残ってるわけにもいかんからなぁ…ま!ちょこちょこ遊びには来るさ!あと俺様がヤバいのに追いかけられたりしたら匿ってくれな!」


そんな冗談になっていない冗談を口にしつつ、ネフィリミーネは次の「仕事」のために娼館を後にした。

経営等の引継ぎはすでに済ませ、憂いはもう何もないと振り返らずに、ただただ立ち去っていく。

だが…。


「ようイヴちゃん」

「…みーくん」


進んだ先でイヴセーナが瞳に涙を貯めて待ち構えていた。

最初に名乗った際に覚える必要はないと覚えなかったネフィリミーネと言う名前を再び聞き返すことが出来なかったために、唯一覚えていた「ミ」の部分だけをいいように呼んでいたそれが定着した名をか細くイヴセーナは口にする。


「何か用か?」


ネフィリミーネにしては珍しく、まるで突き放すような無機質な声をかけられ、一瞬だけ怯んだがそれでもイヴセーナは前を向いてその目をまっすぐと見つめながら口を開いた。


「…すき」

「…」


「みーくんが好きなの…だから」


言葉を遮るようにネフィリミーネが片腕をあげる。


「イヴちゃん、俺様は誰か一人のもんにはなれない。人を愛して気持ちよくさせることはいくらでもできる…だが誰か一人だけを愛することは出来ないんだ。俺様自身最低だとは思うよ?だがこれが俺様だ。俺様は俺様と遊んでくれる可愛い子全員を愛してる…だから俺様を相手に本気になるのはやめておけ」


ポンとイヴセーナのその頭に手を置き、横を通り過ぎていく。

でもそれでもと、イヴセーナはネフィリミーネの腕を掴んで引き留めたのだった。


「…それでも、いいから…だから…」

「…そっか。よっし!ならわかった!」


掴まれた腕を勢いよく引っ張り、ネフィリミーネがイヴセーナの軽い身体を抱きかかえ、ニカッとした笑みを見せる。


「嫌なら嫌って言っていい。殴りたいならいくらでも殴られてやる。それで俺様の生き方を変えることは絶対に出来ないけど…それでいいのなら一緒に行くか!」

「うん!いく!みーくんと一緒に!」


二人は人目もはばからず、その場で口づけを交わした。

ベッドの上でするそれとは違う…肉欲ではなく心を通わせるためのそれを。

それが二人の馴れ初めだった。


「ところで俺様さ犯罪組織の一員なんだけど大丈夫?」

「え」


「金も基本的に活動資金は40くらい年下の妹分に出してもらってるんだけど。娼館乗っ取った時にばらまいてた金もそれ」

「え」


「それでもいいんだよな?」

「……………うん」


「女のプレゼント代はちゃんと稼いでるからな?」

「…そうなんだ…うん」

正直に浮気します宣言。

誠実な不誠実。


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― 新着の感想 ―
[一言] 非の打ち所のない主人公だ…(認知のゆがみ) >ま!ちょこちょこ遊びには来るさ! これが社交辞令じゃないの中々にレアかも
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