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刻んだ炎5

明日はお休みです。

次回は日曜日か月曜日に投稿します。

 男はネフィリミーネを一目見てすぐに一般人でないことを見抜いた。

外の雨に打たれたのか、服は濡れているがそれでも上等なものだとわかるくらいにはいい服を着ていたから。

そしてもう一つ。

その雰囲気から間違いなくこの人物は「同業者」だと感じたのだ。

きな臭さと薄汚れた何かを持つ裏の住人…なにか確信めいた証拠が存在しているわけではない。

ただ直感的に男はそれを確信したのだ。


(どうするか…まずはこの者の目的だ。ただ単に向こうもこちらの匂いに惹かれて来たか…それとも…)


こういう人物に出会った場合、まず気にすることは敵なのかそうでないのかだ。

味方であるはずは無い。

同業者だった場合、そこに生まれるのは争いか…利害による協力かの二択だ。

潰すか、相手を利用し金を稼ぐか…まずは相手の狙いを探ることが重要だと男はにこやかな笑みを張り付ける。


「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「あ?さっきも言ったろうが。きゃわたんなねーちゃんを紹介してくれよ。そういう店なんだろ?」


「さようですか。でしたらどのようなキャストをご所望でしょうか?条件次第では少々料金のほうがかかってしまいますが…できるだけ希望に添いたいと思います」

「お前人の話聞いてっか?かわいい子って言ってんだろ?」


「可愛い子と一概に言われましても…ごほん。この店ではキャストの容姿については他店よりも努力をさせていただいておりますので、その条件ならば全ての物が該当されるかと思われますのでもう少し詳しい条件の指定をしてもらえれば幸いです」

「ふーん?」


そこでネフィリミーネが男から視線を外し、床に倒れた状態で微動だにしないイヴセーナを見た。

しまったと男は慌てながらイヴセーナの腕を掴み無理やりに立たせようとする。


「おい!さっさと立て!お客様のお目汚しになるだろうが!」


怒鳴りつけるもイヴセーナはその場から動かず、怯えたような視線をネフィリミーネに向けるだけだった。

そんな様子にネフィリミーネは「ふっ」と鼻を鳴らす。


「おいおい、やけに女の子の扱いが雑じゃねぇかオイ~この店大丈夫かよ」

「あぁいや…彼女はキャストではなく私が面倒を見てやっているだけの下女のようなものでして…お気になさらず」


「あ、そうなん?でもその子…客を取ってたぜ?俺様まんまと釣られちまったし」

「…はい?」


「ほれ、その子が俺様の財布持ってるだろ?楽しませてもらったからチップはずんじまったよ。な~イヴちゃん?」

「…っ」


全てバレている。

ネフィリミーネの財布を盗み、ここまで来たことが知られていて、今自分は責められているんだとイヴセーナは顔を青ざめさせる。

その身体を震わせているのは…禁断症状かあるいは…。


「な、なるほど…それは随分と…彼女を気に入っていただけたようで」


そんなイヴセーナの様子は気にも留めず、男は思考を巡らせていく。


(あいつが持っていた財布にはチラッと見ただけで金貨が数枚入っていた…あいつにそこまでの金を払うなどよっぽどの物好き…成金の異常性愛者か…?裏社会の人間ではない?いや…どちらにせよまともな人間ではないはず…だがもし馬鹿の金持ちなのだとしたら…)


下卑た笑みをビジネススマイルで覆い隠し、男はネフィリミーネに深々と頭を下げる。


「あん?」

「お客様。実は現在、一部の特別なお客様にのみ提供しているサービスがございまして…もしよろしければそちらの方のサービスをご提供させていただきたいと思っているのですが」


「ほう?どんなやつなんだ?」

「…ここでは少し…もしお時間をいただけるのでしたら閉店後に詳しいお話をさせていただきたいと」


「ふむ…なぁそういうのめんどくさいからさ?もっとスマートに話をせん?」

「…と、言いますと?」


男の質問に言葉を返さずにネフィリミーネは拳大の袋を男の正面に投げ捨てる。

床に落ちた衝撃で袋の口が開き、中からは大量の金貨がこぼれだして床を黄金の輝きに染め上げた。


「こ、これは…!」

「30分やる。もうちょっと建設的な話をしようや」


先ほど投げ捨てた袋と同じ物をさらに取り出し、ネフィリミーネはにやりと男に笑ってみせた。


─────────


「…ひっ、ひっ…あ、へ…ひっ…」


建物の一室…ネフィリミーネにあてがわれた部屋に不気味な吐息が流れていく。

「少々お待ちください!」と慌てて飛び出していった男をよそに、ネフィリミーネはイヴセーナを連れ込み、ベッドの上に寝かせていた。


「ったく、逃げなくてもいいじゃねぇかイヴちゃんよぉ。心配したんだぜ?」

「っひ、ん…あ、ひゃ…ひっひっ…へぇっ…ひっ」


全身が痙攣をおこし、すでにまともな言葉を喋ることが出来なくなってるイヴセーナだったが意識は辛うじて残っており、そのわずかな意識は罪悪感に圧し潰されそうになっていた。

話の流れを理解することは出来なかったが、結局盗んだお金は全て男によって回収されてしまった。

自分がしてしまった事が情けなくて恥ずかしくて…申し訳なくて仕方がない。

まともに顔を見ることすら出来ないのに…何故か頭を優しく撫でてくれるその手があったかい。

やめて、私は優しくされる資格なんてないのにと…涙が流れてシーツに吸い込まれていく。

そしてそんな中でも…身体は薬を求めて悲鳴を上げる。


「ん~…本格的にまずいな。このまま縛り付けておこうかとも思ったが…先にイヴちゃんの身体が持たない感じだなコレは。仕方がねぇか」


ネフィリミーネはイヴセーナに見えるように注射器を持ち上げる。

それは先ほど男が投げ捨てたものと同じ物のように見えた。


「あ、ひっ…な、い…そ…いら…ひっ…」

「さっき回収しておいたんだよ。今楽にしてやっからな」


「い、いら、ひっ…あ、っへっ…な、ない…」


いらない、やめて。

言葉にならない声でそう伝えるもネフィリミーネは微笑むだけでやめてくれる気配はなく…そっと針が腕にあてがわれた。


「や、やめ、はっへっ…ひっ、ひっ…」

「大丈夫大丈夫。この薬はな、用法用量を守ればそこまで危ないもんじゃないんだよ…身体にいいもんでもないけどな?俺様はこういうのにも詳しいんだ…だから安心しなって」


「ほ、ほほほ、ほん…ひっ、と、っとに…?」

「おうよ。俺様は善人の正直者じゃあないが女には真摯なんだ。安心しな」


注射器の中の液体がイヴセーナの体内に流し込まれて行き…全身を蝕んでいた気持ち悪さが少しずつ晴れていく。

量が少ないからだろうか?いつもより効き目は薄く感じられたが、それでも楽になっていくのは確かだった。


「少しだけ休んでな。あとは俺様が何とかしてやるから」

「う、ん…」


何とかするとは一体どういうことなのか…そんな疑問を覚えたがただ頭を撫でてくれる手が心地よくて…イヴセーナはゆっくりと目を閉じたのだった。


─────────


「さぁてっと…一仕事しますかぁ」


ネフィリミーネはイヴセーナが眠ったのを確認して立ち上がり…「弱い睡眠薬とビタミン剤」が入っていた注射器を投げ捨てる。

そして懐から先ほどの薬とよく似たものを取り出し忌々し気に睨みつけた。


「はっ…クソのはきだめみてぇなもん使いやがって。おかげで俺様の女の身体に傷つけちまったじゃねぇかクソが。ヤクの注射痕なんて見ても何にも楽しくねぇのによぉ…まぁいい…あとは暴れるだけだしな」


バキッと拳を鳴らしながら部屋を後にし…ネフィリミーネは腹の底から全力で声を張り上げた。


「うぉぉおおおおおい!!この場所にいる女ども全員出てこい!面白れぇもん見せてやるぞー!!!」


建物を揺らすほどの大声に何事かと店中の者たちが部屋から顔を覗かせる。

中にはあられの無い恰好をしている者もいたがそんなものをこの場所で気にするようなものはいない。


「な、何事だ!?」


先ほどの男も慌てて顔を覗かせ、それを確認したネフィリミーネが男を見下すように笑う。


「おーいたな…さて真面目な話を再開させようや」

「え、は?それは後からと…」


「うるせぇんだよ知るか。んで話なんだけどさぁ…」


ネフィリミーネがは周囲を見渡し、キャスト達を確認する。

そこそこの人数がいるがイヴセーナほど重度の薬物中毒者は見受けられないように思えた。

ただ出てこれないだけかもしれないが。


「へぇー…なかなかいい女ぞろいじゃないか!これならいい感じだな!ってなわけで今日からこの店…俺様が貰うから」

「は、はぁ!?何を言って…」


「金が欲しいんだろ?ん?いくらだよおい、言ってみな」


ジャラジャラと金貨を床に落とし、男を挑発する。

しかし男とて「プロ」だ。

呆気にとられはしたものの、瞬時に頭を仕事用に切り替える。


「お客様…ここがどこだかご理解いただけていますか?」

「綺麗なねーちゃんと遊べる店だろう?」


「そういう話をしているのではありません。ここを取り仕切っているのがどこなのかを理解しているのかという話です」

「あーそういうの興味ない…ってか覚えれないんだわ。俺様の記憶領域は彼氏彼女の名前と顔と誕生日を覚えるので全部使ってっからな。可愛い奴らの名前を間違えるわけにはいかんだろう?」


「…どうやら真正の馬鹿だったようですね。それとも勘違いした成金か…どちらにせよここであんまり舐めた態度をとるとどういう事になるか一度ご理解していただいたほうがいいようだ」


男が数度手を鳴らす。

すると店の扉を開いて怪しげな男たちがぞろぞろとネフィリミーネを囲むようにして現れた。


「おーおーお決まりの奴だなぁ。どうしてお前らみたいなもんはいつもやることが同じなんだ?」

「…何を言っているのか分かりかねますね。ここはお客様に夢と安らぎを提供するためのお店です。彼らはその夢を壊すあなたに少しばかりお灸を据えるガードマンですよ」


「ギャハハハハハ!夢だぁ?安らぎだぁ?こんなもん使っておいてふざけた事抜かしてんじゃァねぇよ」


懐から取り出した「薬」を男に見せつけるように揺らす。


「それは…ちっ、先ほど回収し忘れたか…それは危ないものではありませんよ。ちょっとした栄養剤です」

「あ、そう?じゃあこれをちょっとお堅い場所に持って行っても問題はない──」


「殺せ」


言葉を遮り、男が冷徹にそう告げた。

瞬間、周囲の男たちがネフィリミーネに襲い掛かり四方八方から手にしたナイフをその身体に突き刺した。


「ふん…余計な手間をかけさせおって…金だけは回収しておけよ!…女ども!何を呆けている!さっさと明日の準備をして大人しくしてろ!!」


かなりイラついているのか男が周囲に当たり散らしながら怒鳴る。

しかし周囲のキャストたちは男の声に耳を貸さず、茫然とネフィリミーネがいる場所を見つめていた。


「なんだ…?」


何かがおかしいと雰囲気を感じて男が振り返り、そして…。


「いってぇ~!おいおいいきなり失礼じゃねぇか?おい」

「なっ…!」


腹を、背を…無数のナイフで貫かれているというのにネフィリミーネは平然とそこに立っていた。

それどころか次の瞬間には近くにいた男の頭を掴み上げ、なんとそのまま男を振り回して周囲のものたちを薙ぎ払ったのだ。


「ギャハハハハハ!なんだなんだぁ!弱っちぃなぁおい!女を泣かせるようなマネする「ブサイク」共は所詮この程度かぁ!?ギャハハハハハ!!」


掴んでいた男も投げ捨て、そのまま身体に突き刺さったナイフを適当に抜いて捨てていく。

おかしなことにナイフは確かに刺さっていたはずなのに、出血はほとんど見られず、着ていたシャツにわずかに滲んでいるのと…ナイフに付着しているだけでほとんど血液が見えていない。


「なんなんだお前は…」

「あ~?女にうれし涙を流させられねぇブスに名乗る名前なんてねぇ!ってな?…今の俺様めちゃくちゃかっこよくね?なぁおいどう思うよねーちゃんたち!ギャハハハハハ!」


「その下品な笑いを止めろ!ちっ…馬鹿にしやがって。女などベッドの上で可愛がってやればいくらでも涙を流すだろうが。で?それの何が誇らしいんだ貴様は」

「ぷっ…やっぱりブスはいう事がちげぇなぁ!ベッドの上でしか泣かせられねぇなんて三下以下のゴミカスよ。俺様はイケメンだからなぁ…たとえそこがベッドの上じゃなくてもいくらだって満足させてやれるぜ?ま!当然ムードもシチュエーションも大事だから基本はベッドだがな!体痛くなるし…さてさて童貞まるだしの恥ずかしいブサイクよぉ…痛い目見るか大人しくこの場所を売るか…好きな方を選びな」


「…これでも顔には自信があるんだ。ブサイクと言うのはやめてもらえないか」

「顔!んなもんブサイクに関係あるかよ。容姿がどうあれかっこいいやつはかっこいいんだよ。そしててめぇは顔は知らんがブサイクのブスだ。そうだろう?」


「…貴様が何者かはこの際置いておこう。あとでいくらでも調べられる…ここから生きて帰れると思うなよ」

「おーおー!まぁたありきたりの三下セリフじゃねえか!面白いな!ギャハハハハハ!…やってみろよ出来るもんならなぁ」


バキッと再びネフィリミーネの拳が音をたてた。

七夕に投稿されるとっても下世話なお話。

ネフィリミーネさんが投げ捨てているお金の出どころは次回明らかに…!?


ちょっとした息抜きの小話だったはずなんですが思ったより長くなってしまってますね。

おそらく次回で終わると思われます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 七夕、身も蓋もないこと言えば男女が逢引する日なわけで クリスマスよりも余程ナニをソレするお話に向いてるのかもしれないと生涯役に立たない気付きを得てしまった… >腹を、背を…無数のナイフで貫…
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