境界を無くして
ごめんなさい!明日からPCをしばらく触れなくなってしまうので少しお休みになります…。
一週間もしないうちに戻ってくると思うのでお待ちいただければと思います!
本当に忙しいだけでモチベーションが低下しているとかではないのですぐ戻ってきます!すみません!
「重い…」
アリスが目覚めて最初に発した言葉はそれだった。
まるで身体に何かがのしかかっているかのような重さを感じて息苦しさの中目を覚ましたのだ。
「ここ、は…」
普段はかなり寝起きが悪く、覚醒しても夢の世界からは帰ってこれないアリスではあるが、その日は妙に頭がすっきりとしていた。
本人は知る由もないがアリスは三日三晩眠り続けており、そのためなのかもしれない。
アリスは数度瞬きを繰り返し、まだ完全には働き切っていない頭で状況を整理する。
ここはどこで、自分はどうなっているのか。
覚えていることは敵に捕まり、母に救出され…ネフィリミーネの腕のなかでリコリスに手を伸ばしたこと。
ならその後であるはずの今は…?
「…天井…知ってるやつ…私の部屋…」
どうやら自分は見知っている屋敷の部屋にいるらしい。
ならば無事に助かったのだろうか?しかしこのシーツに包まれながらも身体全体にのしかかるような重みは一体…?まさかまだ捕まっているのか?でも自室で…?
アリスの働いていない頭がぐるぐると大混乱を起こす。
「とにかく…うごかない…と…誰か…」
ここが自分の部屋ならば近くに誰かいるはずだからと声をあげようとしてみるが、どれだけ大声をあげようとしても空気が抜けるような音が混じった小さな声しか出ない。
身体は動かない、声も出ない。
これはまずいととにかく体に力を入れようとしたその時、シーツの中から細く小さな手が伸びてアリスの顔を掴み、枕に押さえつけた。
その手は生きた人間のそれとは思えないほどにひんやりとして…。
「ひゃっ、ん!?」
驚きの余り可愛らしい悲鳴が上がってしまったが、驚きが過ぎ去ればすぐに冷静になった。
というよりも安心したと言ったほうがいいかもしれない。
何故ならその手の冷たさは、彼女がよく知るそれだったのだから。
「リコ…?」
「ん」
もぞもぞとシーツが波打ちながらアリスの体を覆っていた重みが顔の方を目掛けて昇ってくる。
そしてぴょこんと大きな獣の耳がシーツから覗き、やがてリコリスの顔が現れた。
「…びっくりした。あまり驚かさないでおくれ」
「おどろかせてない。勝手にアリスちゃんがおどろいただけー」
アリスの顔を押さえていた手が外されて首と枕の間に回され、そのままリコリスはアリスの胸に顔を埋めてスリスリとマーキングするようにこすりつける。
目覚めてから感じていた重さの正体はアリスにしがみつくリコリスだったのだ。
「リコ、ちょっと重い…」
「んー」
返事はするもののアクションを起こすつもりはないらしく、リコリスはアリスの上から動こうとはしない。
「私…余は助かったの…?」
「うん。ここおうちー」
「そうか…どれくらい眠っていた?」
「みっかー」
三日も!?と反射的に体を起こしそうになったアリスだったがのしかかるようにしがみつくリコリスがそれを許さない。
普段は病弱なアリスでも短時間抱えることは出来るくらいには軽いはずなのに、今日は岩のように重い気がするのは何故だろうか。
「り、リコ…ちょっとそこをどいてくれ。三日も寝ていたのなら色々と…」
「ダメ。まだ寝ててー」
「いやそういうわけには」
「寝るのー!」
リコリスの身体にしがみつく力が強くなり、起こったような声と共に「がぶっ!」とアリスの首筋に噛みつく。
いつもどこかしらアリスの身体を舐めたり甘噛みしていたりするリコリスだが、今回はわずかに歯を立てていて地味だが痛みを感じる。
「いたっ、いたたた…痛いってリコ…」
「がぶがぶ…まだ起きたら、だめー!がぶがぶ…」
「わかった!わかったから…」
少し上にずれてくれたため、動くようになった手でリコリスの背中をポンポンと叩きながら撫でる。
そうするとしばらく「うぅぅぅー!」と獣のようなうなり声をあげていたリコリスがだんだんと大人しくなり、噛みつきも甘噛みに変化する。
だがそれでもアリスを行動させる気はないらしく、しがみつく力に陰りは無かった。
「…怒ってる?」
「おこってない。あむあむ…」
言っている間にもリコリスはぎゅうぎゅうと身体を押し付けてきており、お互いの身体の柔らかい部分は限界まで潰れ、隙間なく密着していく。
それはもう絶対に話さない、自分たちは一つだと言いたげで…。
「心配…かけたね。ごめん」
「ううん。でももうアリスちゃん絶対に一人になっちゃだめだよ」
「う、うーん…絶対に一人にならないというのはちょっと…」
「一人ダメー!うーーーー!!!」
再び甘噛みがやや本気の噛みつきに変化し、地味な痛みが奔る。
振り払うほどではないが地味に痛い。
耐えられないほどではないのが逆にむず痒い。
「リコ…」
「うー!うぅーー!うぅぅぅううううー!!!」
駄々をこねる子供のように、リコリスはアリスを離そうとはしない。
それだけ心配をかけてしまったのは自分の責任か…とアリスは抵抗することを辞めただ静かにリコリスの背を撫で続け、やがて同じように抱きしめた。
ぎゅうぎゅうと二人の間の空気すら負いだすほどに密着して…混ざり合ったアリスの体温とリコリスの冷たさが十分に眠ったはずのアリスにさらに眠気を連れてくる。
(あぁそうだ…あの時のリコ…なにか変な力を使ってた…)
そこそこの長い時間を共にして初めて知ったリコリスの力。
それについての話を聞きたかったが、いまはただアリスは眠たかった。
精神的にも肉体的にも極限の状態にさらされて、砕けかけた心がいつも一緒に居たその小さな冷たさに安らぎを覚えていく。
まだもう少しだけアリスの心と身体は休息を求めていて、それは隣にいるのが当たり前となったリコリスの存在を感じて初めて成立したのだ。
「だいじょーぶ…ありすちゃん。もう離さないからね、ずっと一緒だからね。私のアリスちゃん」
「…う、ん…わたしの…リコ…」
心地のいい冷たさを身体中に感じながらアリスは目を閉じて…意識がまどろみに飲まれる瞬間にふと唇に何か柔らかいものが当たった気がした。
あの一族にひとたび好かれてしまったのならば、もう離れることは出来ないやつです。




