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同居人

皇帝さんの部屋に行った時、アマリリスさんは魔法を使って瞬間的に移動をした。

だけど帰りは普通に歩いていくから魔法は一方通行なのかな?と思って黙って後ろをついていくと…ただ単に食事をしたかっただけらしく、目につく店に片っ端から突撃し、アマリリスさんは何かを食べている。

一日にいったいどれだけのカロリーを摂取しているのだろうか…少しだけ健康が心配になった。

でもアマリリスさんは全体的にふわふわしているけれど、太っているようには見えないので大丈夫なのだろう…多分。


「一つ食べる?」


そうやって差し出されたお肉が刺さったくしのようなものを受け取るけれど…もう何度もこうやっているのでお腹いっぱいだ。

それでもさすがは帝国の料理。

村で私が食べていたものは本当に食べ物だったのだろうか?と思ってしまうほど全ての料理がおいしく、ついつい食べてしまう。

そんな様子をアマリリスさんはニコニコとみている。

どうやら食べるだけではなくて、人が食べている姿も好きらしい。


「嬉しいなぁ。私の周りってあんまりご飯食べない人ばかりだからさ。ユキノちゃんみたいに美味しそうに一緒に食べてくれる人がいてくれてほんと嬉しい」

「そうなんですね」


「そうなんですよ。お姉ちゃんと…あと下にもう一人妹がいるんだけどね?どっちも好き嫌いが激しすぎてほとんどご飯食べないの」


それは少し意外だ。

女神様…名前を教えてもらったからリフィルさんって呼んだ方がいいのかな?とにかくリフィルさんは好き嫌いとかしなさそうな気が勝手にしていた。

それともう一つ。


「もう一人妹さんが?」

「うん。三姉妹なの」


「へぇ~…あ、もしかして今朝図書塔にいた?」


あのどこを見ているのか分からない目でじっと座っていた女性の姿を私は思い出した。


「ううん。「アレ」はそういうんじゃないから」


アマリリスさんにしては珍しく、ぴしゃりと少し棘があるような硬めの語気で否定されてしまった。

アレって呼んでるし…もしかして仲が悪い人なのだろうか…?


「えっと…」

「というかうちの妹に会ってない?あの子、この前こっちに来たときにユキノちゃんの事見たって言ってたよ?」


「ふぇ?…えっと…記憶にはないと思いますけれど…」


私が帝国に来て話した人なんてほとんどアマリリスさんだけだ。

残りの会話した人も検問の騎士達とご飯の所のおばさんと…先ほどの皇帝さんくらいだ。

流石にその中にはいないと思うけれど…。


「あれ~?おかしいな。ん~でもあの子人見知りするし話しかけたりはしなかったのかな?ごめんね変なこと言っちゃって」

「いえ、大丈夫です」


アマリリスさんとリフィルさんの妹か~ちょっと見て見たいな。

二人ともすっごく綺麗だから妹さんも凄そうだもんね。

あ、でもたしかアマリリスさんとリフィルさんって血が繋がってないって…妹さんはどうなのだろう?さすがに直接聞いたりは出来ないけれど。


「日も暮れて来たね。そろそろ帰ろうか」


そう言われて空を見上げると、日はほとんど落ちていた。

とんでもなく濃い一日だった…いや、まだ終わっていない。

死ぬか殺すか。

私はその選択に答えを出さなくてはいけないのだから。


「あんまり難しく考えなくてもいいよ」

「…考えちゃいますよ、さすがに」


「そう?あまり思いつめないようにね」


思いつめるし考えこむ問題なのだと思うのだけど…アマリリスさんは驚くほど軽い。

他人事だから仕方ないのかもしれないけれど…ちょっと引っかかってしまう。

この人は何とも思っていないのだろうか…私が人を殺すことになるかもしれない事を。

もしかすれば私が死ぬことになるかもしれない事が。


気を許しすぎるなという皇帝さんの忠告が頭の中で再生される。

今日は考えても分からないことだらけでどうにかなってしまいそうだ。


「夜ご飯は何食べたい?」


そんな恐ろしいセリフを聞こえないふりしてぐるぐるしている頭を抱え、たどり着いた図書塔の扉を開く。


「やっほやっほー」


そこにリフィルさんがいた。


「お姉ちゃんどうしたの?」

「ちょっとね!やぁ元気だった?」


リフィルさんがずいっと吐息が掛かってしまいそうなほど距離を詰めてきた。

あまりに綺麗な顔にドキドキして私は「あ、えっと、その、」と意味のない単語ですらない何かしか言えなくなっていた。

リフィルさんはそんな私の肩を掴む。


「じゃあアマリ!この子連れて行くね!」

「え?どこに?」


アマリリスさんの声を最後に、私の視界が視界が一瞬だけ黒く塗りつぶされて…再び光が戻ったかと思うと全然知らない場所に私は立っていた。

周囲の様子から帝国内のどこかだとは思う…。

周囲を見渡すと少し遠くにとても高い建物…図書塔が見えた。

分かりやすいなあの建物…。

いや、今はそんなこと考えてる場合じゃなくて…!


「はいこれ荷物」

「あ、え?」


呆けているとむぎゅっと顔に私のカバンを押し当てられた。

それを受け取るとリフィルさんがニコッとした笑顔でそこにいて…何が何だかわからない。


「あの…?いったいどういう状況なのでしょうか…?」

「ん?えっとね?ここ!」


リフィルさんが一つの立派な一軒家の前で両手を広げる。

立派とはいってもそこまで広いわけではない。

ただつくりはしっかりとしているし、私からすれば帝国の建物なんて全て立派だ。

問題はここが何なのかという事。


「えっと?」

「ここね、コーちゃんに用意してもらったあなたの家なの。だから今日からはここで過ごしてね?過ごすんだよ?」


「え!?こんな立派なところにですか!?」

「うん。だからね?もうアマリのところで寝ちゃだめだよ?わかった?じゃあ私はもう行くね!鍵は開いてるから好きにしてね!じゃあね!」


言いたいことだけ言ってリフィルさんはふっと消えてしまった。

聞きたいこととかいろいろあったのに…お金も返せてないし…と数分ほどその場に立ち尽くした。


しばらくして正気を取り戻したのはいいけれど、そうなってくるとどうすれば?という感じになるわけで…。


「どうすればいいんだろう…いったん図書塔に行ってアマリリスさんに報告する…?でももう夜だし…あそこまで戻るのは時間かかるよね…」


報告は明日にしたほうがいいかもしれない。

あまりにも疲れすぎているし今日はいったん休もう…入って大丈夫なんだよね…?

ドアノブに手をかけて家の中に入る。

真っ暗だったので明かりをつける魔道具(アマリリスさんに使い方を教えてもらった)を起動する。


「うわぁ…」


やっぱり中身も凄く立派だ。

広さはそこまでだけどとにかく綺麗で…こんなところに一人で住むのはあまりに落ち着かない。

村の木と藁で作りました見たいな簡易な家が恋しい。

やっぱり図書塔まで行ってアマリリスさんのお世話になろうか…でもリフィルさんがダメって言ってたし…あまり迷惑をかけるのもね。

どうも私が図書塔の部屋を占領していた間、アマリリスさんは受付のところで寝てたみたいだし…。

うん、少しくらい我慢しよう。


「我慢しようだって…失礼だよねそんなこと考えちゃうの」


とにかく今は頭が重い。

もう眠りたい…と適当に荷物を置いておそらく寝室の扉を開いた。


「…え」


先ほど図書塔の扉を開くとリフィルさんがいた。

今度は…お化けがいた。

くすんだような色の髪を無造作に伸ばし、顔がほとんど隠れて銀色の瞳だけが覗いている…そんなお化けが。


「きゃぁああああああああああああ!?」

「っ!?」


あまりに驚きすぎて悲鳴をあげながら尻もちをついた。

それに驚いたのかお化けも同じように尻もちをつく。

いや…お化けじゃないねこの人!?


「どどどどどどどどどどちら様ですか!?」


冷静に訊ねようとしたつもりが、あえなく失敗。

きょどりにきょどってしまった。


「そ、そちらこそ…どちら様ですか…」


お化けさん(仮称)がわなわなと口を開いた。

意外と可愛らしい声だなと思ったけれど…ほんとに誰なんだろうか…。

まさかとは思うけどここの住人!?やっぱり私の家なんかじゃないのでは…?

と、とにかくこっちの事情を伝えてみよう!全てはそこから!


「わ、私その…ここに住めって言われて…」

「え?あぁ…そう言う事ですか」


お化けさんは唐突に雰囲気を落ち着かせると、ゆっくりと立ち上がって私を見下ろした。

手でもかしてくれるのかな?と思ったけれどその気配はなかったので、一人で私も立ち上がる。

それを見届けたお化けさんが髪に埋もれてよく見えない口を開く。


「リフィルさんに言われてきた人ですか」

「あぇ…?あっそうです、はい」


「そうですか…驚かせてすみませんでした。あなたが私を必要としているという人なんですね」

「んぇ?どういう…」


私の戸惑いをよそにお化けさんは私から目を反らして部屋の隅で丸まってしまった。

そして…。


「ナナシノ・カカナツラ…私の名前です。どれくらいの付き合いになるのかは分からないですけど…よろしくお願いします」


それがこれから先…とても長く深い付き合いになる少女との出会いだった。

ようやくヒロイン登場です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 凄い名前ですね… というか便宜上の呼び名かな? 背後に屹立する渾名フラグが見える見える
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