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仲良し悪し

次回は明日か明後日に投稿します。

 ビュンと振りぬかれた模造剣が空を切る。

達人のそれとは言えずとも鋭く放たれた一閃ではあったが「狙った」対象には当たらず、模造とはいえ剣としての役割を果たせなかったそれはわずかな虚しさを漂わせているように見える。


しかしそんなものを気にしている暇はないとばかりに向かい側から質量の暴力ともいえる巨大な鉄塊が模造剣を迎え撃たんと振り回される。

そちらは狙い通りに模造剣を捉え、当然の結果として剣はバラバラに砕けて地面に散らばる。


「ふふふのふ~!全然ダメですねぇ~ユキノさん剣の扱いは素人のとーしろーですぅ。切断するための武器を力まかせに振っちゃだめですよぉ~」


ガン!と地面を揺らしながらアトラが手に持っていた鉄塊を地面に下ろす。

その下敷きとなった模造剣だった欠片がさらに細かく砕け、一部が風にのってどこかに飛んでいく。


「いや…だから最初からそう言ってるじゃないですか。前住んでいたところでは魔物を倒すのに使ってましたけど基本武器はあんまり得意じゃないんですって」


ユキノは手元に残った模造等の柄の部分をみてため息を吐き、それをそっとしまう。

晴れ渡る青空の下、ユキノとアトラは女子会という名の模擬戦に興じていたのだ。


「でも~武器を扱えるようになるって言うのは大事ですよぉ。咄嗟に手元に転がってる剣で敵を突き刺すシチュエーションなんてよくあるでしょうぅ~?」

「ないです」


「えぇ~?」

「いやえぇ~?って言われても…」


「隙アリですぅ!」


がっくりとユキノが肩を落とした瞬間、アトラが鉄塊を抱えているとは思えないほどの速さでユキノに肉薄した。

そのまま大量の空気を巻き込みながら振りぬかれた鉄塊は完全にユキノの身体を捉えた…かに思われたが身体に激突するよりも早く、鉄塊に手をかけて軸とし、ユキノの身体がぐるんと宙に舞い鉄塊を飛び越え、空中でアトラの首に向けて鋭く蹴りを放ち…アトラはそれに対してまさかの頭突きで対抗した。

ぶつかる額と足先…結果としてどちらからともなく衝撃でふらつきながらも距離を取ることでその攻防は終わりとなった。


「あはぁ~!やっぱいいですねぇ~ユキノさんと戦うのはと~っても楽しいですぅ~もっともっとやりましょうぅ~命を削り合うのですぅ~」

「もう今日はやめようよ…病み上がりなんだよ私」


「えぇ~?ユキノさんがそう言うからお互いにこんな「おもちゃ」で戦ってるんじゃないですかぁ~やっぱちゃんとした剣じゃないと命をやり取りしてる感がなくてダメですぅ」

「いやいや…その鉄の棒まともに当たると死ぬから」


それはいつもの二人の「遊び」だった。

アトラはユキノの元に足日に訪れるたびに戦いを要求し、ついに断るのもめんどくさくなったユキノがそれを受けて以来何度も繰り返された光景。

一応のルールとしてお互いのメインの武器は使用禁止という事になってはいるが、しかし傍から見ればそれはただの殺し合いに他ならなかった。


「んふふふふ~ユキノさんと私は通常の状態で実力がほぼ互角…こーいうのが楽しいのですぅ!さぁもっともっと殺し合いましょうぅ~!」

「なんでそんなに殺し合いたいの…というかアトラさんって…殺したいの?死にたいの?どっち?」


「ん~?どっちでもないですよぅ」

「そうなの?」


「私がしたいのは命を削り合う殺し合いですぅ~。殺したいわけでも殺されたいわけでもありません~わかりますぅ?私わぁ~ずっと戦っていたいのですぅ~あっけなく終わる死じゃなくて、永遠に終わらない殺し合いを繰り広げたいのですぅ」

「あぁうん」


聞いては見たもののユキノにはよく分からなかった。

なんやかんやで平穏が一番と思っている自分にはおそらく理解できる日はこないだろうとユキノは考えることを辞める。

そこから二人の「遊び」は再開される。

先ほどは剣を使っていたために後れを取っていたが、素手のほうが動きやすいユキノと叩き斬る大剣から叩き潰す鉄塊に得物を持ち替えているアトラとではわずかにユキノの方に軍配が上がり、そのためか大きな事故は起こらずにいる。


「そういえばぁ~」

「うん?」


激しく戦いながらも、雑談を始める二人。

かつてその姿を見たクイーンはどちらも狂ってると言い残してその場を後にしたらしい。


「今朝なんだか中ボスが妙に青ざめた顔で歩いてましたが何か心当たりありますぅ~」

「あ~…実は今朝ネフィリミーネさんがその…ナナちゃんと色々している時に部屋に入ってきちゃって」


「なるほど~思いっきり見ちゃったのですねぇ」

「うん…部屋が汚れてるのを見たのがダメだったみたい。意外と綺麗好きなのかな」


「…いえ、絶対にそっちじゃないと思いますぅ。普通知り合いが知り合いを刺し殺したりしてる現場とかみたらびっくりしますよぅ」

「え?でも私とナナちゃんだよ?それは違うじゃん?あれは殺してると言うよりスキンシップみたいな感じだし…私とナナちゃんの二人だけの大切な時間って言うか」


おっとりとした口調とは裏腹に、一人でも延々と喋り続けるほど饒舌なアトラがその時ばかりは言葉を失い口をつぐんだ。

どう反応すればいいのか浮かばなかったのだ。


「まぁ仲がいいのは良い事ですぅ」


苦し紛れにとりあえずそれだけを口にし、ユキノは仲良しという言葉にとあることを雑談のネタとして連想していた。


「そういえばさアトラさんとカララちゃんって仲がよさそうだけど、結構付き合い長いの?」

「…」


途端に顔を歪め、アトラの手が止まる。

同時にユキノも手を止めて微妙な空気が二人の間に流れた。


「アトラさん?」

「あの…たまにそれ言われるのですけど、私とカララさんって普通に仲悪いですよぉ」


「え、そうなの?」


普段から漫才のようなやり取りを繰り広げているために、ユキノは二人が仲良しなのだろうと思い込んでいたが、アトラは見た限り照れ隠しなどではなく、本気で嫌がっているような表情を見せていた。


「ですよぅ。同僚なので絡んでますが、そういうのがなかったらあんなクソ女と仲良くなんてしないですぅ~カララさんも同じこと言うと思いますよぅ」

「そ、そうなんだ…」


「まぁ仲が悪いは言い過ぎかもしれませんがぁ話も合わないですし、ソリもウマも合いません~向こうも常々言っているでしょう?「面のいい女は嫌い」だと~。私ぃとっても顔がいいのでぇ~」

「…」


自分で言うの?と思わなくもなかったが、確かに同性のユキノから見てもアトラの顔は地味ながらも整っており、髪型等で雰囲気を変えれば一気に化けるように思えた。


「それにですねぇ~カララさんが仲がいいというのなら私ではなく…」

「?」


アトラは意味ありげに屋敷の方に視線を向ける。

その屋敷の一室…この時間ならばそこにいるであろう「彼女達」に思いを馳せて。

相手の話を聞いている時に常識人面しているおかしい人たち。

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― 新着の感想 ―
[一言] ア、アトラさんは実際そこそこマトモな部類だから… 趣味に目をつぶれば真面目な常識人だから… ユキノちゃんは…存在に目を瞑ればマトモになるかな…
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