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正体と謎

本日二話目です。

朝にも投稿しているので読み飛ばしにご注意ください。

「解散だ」


その皇帝さんの一言で今日の話合い…とっていいのかは分からないがとにかくこの息の詰まるような話は終わることになった。

私としてはこの場から逃げ出せるのなら助かったと思いたいところなのだけど…。


「あの…女神様が来るんじゃ…?」


話の内容的にそういう流れだったのだとは思うのだけど先に戻っていいのだろうか?

そもそも私は女神様にお金を返そうと思っていたわけだし…。

ああでもアマリリスさんに渡しておけばいいのかな?いやでも…お金を人づてにというのはちょっとためらわれるし、なによりもう一度なんとなくだけど女神様に会いたい…その姿を見てみたい。


「解散だ」


しかし皇帝さんの意見は変わらなかった。

またいつか会える機会はあるかな?いや、そもそも私はここから出た後どうふるまうのがいいのだろうか。

帝国から逃げ出す?それがいいのかもしれない。


「ちなみに逃げられると思うなよユキノ。この国から許可なく抜け出すようなことがあれば…わかるな?」


どうやら逃げ道はないらしい。

どちらにせよもう少しだけ考える時間はあるのだから、アマリリスさんにも相談しつつどうするのか決めよう。

とにかく今は…もう休みたい。


「やれやれコーちゃんは相変わらず勝手だなぁ。んじゃ帰ろうかユキノちゃん」

「あ、はい」


急いで椅子から立ち上がると皇帝さんから「待て」と静止が掛かった。

解散だと言ったり待てと言ったり確かに勝手な人だ。

でもそれだけこの人が偉いという証明でもあるのかもしれない。


「もう、なに?コーちゃん」

「お前じゃねぇ。ユキノだ」

「え…」


「んー?もう今日は話すことは話したでしょう?」

「ああ、だからお前はいいから出て行け。ユキノだけ少し残れ」


嫌です。

と言えたらどんなに楽なのだろう。

たぶん私に拒否権はない。


「ユキノちゃんをイジメるつもり?私の魔法で来たから一緒に戻らないとユキノちゃん道分からないよ」

「だったら扉の前で待っていろ。すぐに終わる」


はぁ~っと長めのため息を吐きながらアマリリスさんが部屋の外に出て行った。

残ったのは皇帝さんとアレンというたぶん騎士の人と私だけ。

あまりに恐ろしい。


「そう緊張するな。我は今のところはどちらかと言うとお前の味方だ。安心しろ」

「…はい」


今のところと、どちらかと言うとという二重で濁されている言葉でどう安心しろというのか私にはわからない。


「ふぅ。とりあえずお前が誰彼構わず殺そうとしない理性があるのは分かった。我が帝国にはありとあらゆる知識も集まる…お前が望むのならその体質改善にだって協力してやれるし、お前がこちら側につくというのなら出来る限りの事はしてやる。本当だ。だからあまり怖がるな」

「…」


まっすぐと私の目を見てそう言う皇帝さんの言葉に嘘は感じられない。

とはいっても一国の…それも世界最大規模の国の王なのだから私みたいな田舎娘ごときに嘘を見破れるはずもないとは思うのだけど…。


「とにかく今一度考えてみてくれ…それはともかくとしてお前を引き留めたのは一つだけ忠告しておきたくてな」

「忠告…ですか?」


「ああ。お前…リフィルの事を女神と呼んでいるな」

「えっと…お名前を知っているわけではないので…」


「そうか。その程度の関係ならちょうどいい。それ以上あいつに関わるな」

「えっと…?」


関わるな。

そう言い放った皇帝さんはこの短い時間の話し合いの中で…一番真剣な顔をしているように見えた。


「この世には触れてはいけないもの、知らないほうがいい事がある。その中でも最上級にヤバいのがあいつだ」

「女神様がですか…?でも…」


やばいとはどういうことなのだろう?

あんなに綺麗で笑顔が素敵な人に何か問題があるのだろうか?


「見てくれに騙されるな。いや、むしろ見た目からおかしいと思え。お前はあいつを女神と呼ぶが…そうだな確かにあいつは正真正銘の女神だよ」

「ふぇ?それは一体どういう…」


「言葉通りだ。先ほど神という存在の話をしたが…あいつも「そういう類」の存在だ」


さっきまでの話は荒唐無稽だと思っていたのに、その話だけは不思議とストンと胸に落ちた。

確かに話だけで神様がどうとか言われてもピンとこないけれど…あの女神様が神様というのならなんとなくだけど納得できる。

あの綺麗という言葉だけでは言い表せない容姿に、独特な雰囲気…神様がいるとしたら確かにあんな感じなのだろうと思えた。


「ユキノ」


ちょっとだけ高揚していた私に冷や水を浴びせるように冷静な皇帝さんの声が投げかけられた。

その視線は驚くほどに鋭い。


「は、はい…」

「あれはお前が想像しているような…慈愛に満ちた女神なんかじゃない。むしろその逆だ」


「逆…?」

「あいつは「邪神」だ。存在しているだけで世界に良くない何かを巻き起こす。そしてただの人があいつに関われば…間違いなく破滅する」


皇帝さんの言葉はにわかには信じられなかった。


「え…でも…そんな感じの人じゃなかったと…」

「見た目がいいからか?人好きのよさそうな笑みを張り付けているからか?…あいつはな分かりやすく「悪い」だとかそんな生易しいもんじゃない。存在自体が邪悪なんだよ。もし我の忠告を無視するというのなら…お前はきっといつかその身で思い知ることになるぞ。邪神は人の事なんて何とも思っていないからな」


嘘を言っているような雰囲気ではない。

だけどどうしても信じられない。

だってあんなに…。


「あ…ならアマリリスさんはどうなんですか…?確か女神様の…妹さんなんですよね?」

「あの二人は血が繋がっていないんだ。リフィルの両親…そいつらも反吐が出るほどクソッタレな存在だが、そいつらがどこからか拾ってきたのがアマリリスだ」


「そうなんですね…じ、じゃあアマリリスさんは普通の人間…なんですよ、ね…?」

「いや…あいつももはや普通の人間と呼ぶのは無理だな。長年リフィルの隣に…一番近いところにいたんだ。まともなはずがない。現にあいつ何歳だと思う?」


アマリリスさんの年齢…。

私よりは年上に見えたけれど…皇帝さんがわざわざ聞いてくるってことは見た目と年齢が一致していないという事だろうか?

20代半ばと考えているけれどもう少し上なのかな…。

でも女の人の年齢を上で見積もるのはちょっとためらってしまう。


「…20代…後半くらいでしょうか」

「気を使ったなお前。ここでその通りだという答えが返ってきたとして、だからなんだ?ってなるだろうが…正解はな?先ほどから話に出ている100と数十年前ってのがあるだろう?」


「はい」

「その当時、アマリリスは5歳だった」


「…はい?」

「まぁそう言う事だ。だからあいつにもあんまり気を許しすぎるな。あの姉妹…一体何を考えて我に協力しているのかもよく分からん。注意しておけ」


────────


アレンさんに先導されて部屋の外に出た。

頭がぼーっとしていてうまく働かない。

あまりにも情報を詰め込まれ過ぎたというか…いろいろと処理が追い付いていない。


「終わった?ユキノちゃん」


壁にもたれて本を読んでいたらしいアマリリスさんが私に笑いかけてくる。


「あ…えっと…あ、はい…」


さきほどの皇帝さんの話のせいでなんとなく顔を見づらい。

あの話がどこまで本当なのか分からないけれど…これから私はどうこの人と接すればいいのだろうか…。

あ、そうだよ。

聞いてみればいいんだ。

もし皇帝さんが私をからかっただけなならアマリリスさんは笑い飛ばしてくれるはずだ。


「あの!アマリリスさん!」

「ん~?どうしたの」


「その、さっき皇帝さんが…えっと…」

「あ~その様子だともしかしてコーちゃんから私の事とか聞いたのかな?わざわざ私を追い出したのだから、そういう話だよね?どこまで聞いた?」


話していいものか少しだけ迷ったけれど…とりあえずアマリリスさんに関してだけ聞いたことを話した。

出来れば否定してほしいと願いながら。


「そっか」

「あの…嘘ですよね?100年以上も…その…」


「コーちゃんはね、ああ見えて意外と嘘は言わないんだよ」


私の質問にそれだけを返して、アマリリスさんは歩き出した。

それ以上の追及は…私には出来なかった。


────────


ユキノが去った後、静かに座ったまま目を閉じていた皇帝が、その瞳をゆっくりと開く。


「で、何の用だリフィル」


皇帝の言葉に隣に控えていたアレンが腰の剣に手をかけ、背後を振り向く。

いつの間にかそこにニコニコと笑みを浮かべたリフィルが佇んでいた。


「んふふふふ!何の用だ?だって~!お友達に会いに来ただけだよ!」

「そうか、ならもういいだろう。早く帰れ」


「え~!そんなツンツンしないでよぉ~!せっかくいい話を持ってきてあげたのに」

「お前が我にそんなものを持ってきたことが一度でもあったか」


「何回もあったよ?あったよね?」

「ない…それよりお前…ユキノをどこで見つけてきた。あの女はなんだ」


そこでようやく皇帝は背後のリフィルに向かい合い、身体の震えで鎧を鳴らしていたアレンを下がらせた。


「それがねぇ私にもよく分かんないんだよ~。不思議だね?不思議だよね?でも…だからこそ面白い事になると思うんだよ?思うよね?」

「…くだらねぇ事を考えているのなら今すぐやめろ。あいつはお前の玩具じゃないんだぞ」


「は~い。あ!そうだコーちゃん!どこでもいいからさ空いてる家一個ちょうだい?」

「…何に使うつもりだ」


やけに素直に返事をしたリフィルに怪訝なものを感じつつ、皇帝は話を続ける。


「ユキノちゃんの部屋!いつまでもアマリのところにいるのはね?私が嫌だよ?」

「…わかった。好きにしろ」


アマリリスは地雷だと皇帝は認識している。

この邪神が無償にして無限の愛を注ぐ妹。

皇帝はユキノに警告をしたがリフィルはその性質から考えると本人の気質自体は温厚と言ってもいい。

勿論だがいい人というわけではない。

邪神という存在から考えると…という意味だ。

だがアマリリスが関わってくるのならば話は変わってくる。


もしアマリリスに誰かが触れようものならば…その地雷は驚くほど簡単に爆発する。

リッツ・アルトーンがそうなったように。

だから皇帝もアマリリスに関わることは慎重にならざるを得ない。

もし帝国という国が彼女を傷つけることがあれば…この国は終わるのだから。


「ありがと!じゃあ今日はとりあえず帰るね!ばいばい!」

「待て。お前…ユキノの殺人衝動がどうこうと言っていたが…それはどうなったんだ?」


「んふふふふふ!それはね…そのうち分かるよ!」


それだけを言い残してリフィルの姿が描き消えた。


「…平和な世というものはいつの時代も存在しないものだな」


ため息交じりの皇帝の言葉を聞いたものは誰もいない。

そして…。


「コーちゃんはくだらない事はするなって言ってたよね?だから楽しい事はいいんだよね?んふふふふ!きっと今から起こることは楽しいよ。楽しみだなぁ楽しみだなぁ。うふふふふふふふ」


今日も邪神は楽しそうに笑っていた。

流石に次回くらいからユキノちゃんとヒロインの絡みをお披露目できそうな予感がします。

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― 新着の感想 ―
[一言] >リフィルの両親…そいつらも反吐が出るほどクソッタレな存在だが 実感がこもりすぎてますね… >コーちゃんはね、ああ見えて意外と嘘は言わないんだよ ダメだ「ああ見えて」から全裸の姿しか浮かば…
[一言] あの戦いから100年って聞いた時からアマリリスの年齢が気になってたんですけど、やっぱり人間辞めてたんですね。まあ、リフィルの1番近くにいてあの家族と過ごしてたらそのくらいありそうだなと思って…
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