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死に至る現界、生に戻る死界4

明日はお休みです。

次回は日曜日か月曜日に投稿します。

「リコちゃん!お願い止まって!」


ユキノがまず選択したのは対話だった。

何故か最近スノーホワイトを発動しても必要以上の殺意が湧き上がることは無く、精神を落ち着けていれば冷静に考えることくらいは出来ることになったのでまずは会話だと考えた。

…もっともその後、ナナシノに対して溢れんばかりの殺意をぶつけてしまうのだが、それはまた別の話だ。


「…【────】い」

「え…?」


リコリスは確かに口を開いたが、そこから発せられたのはいつものような可愛らしい声ではなく、「不快」という概念がそのまま音になったとでもいうべきものだった。

当然ユキノはそれを言葉として聞き取ることは出来ず…なお止まらず向かってくるリコリスにたじろぐしかできない。


「なんつーか…正気じゃなさそうな気がするな、あのお嬢さん」

「正気じゃないですか?」


「おうよ。俺様くらい女の子を見てればわかるが…あれは正気の目じゃない。そもそも自分の力を完全には制御できていない…いや制御する前提の能力じゃないのに加えて精神的負荷がかかって正気が飛んでる感じか?とババアの経験則を生かした推理をしてみたがどうよ?」

「精神的負荷…もしかしてアリスちゃんが攫われたことが…?あの二人いつも一緒に居てぴったりくっついてたから…心配で我を失ったという事ですか…?」


「ふんふん…片時も離れないほど仲の良かった二人が引き裂かれ恋しくて苦しくて…間違いないそれだ!うんうん、それだようん。じゃあなおさら悪いな!愛って想いほど攻撃的な感情は無いからな。裏切られれば憎いし…掻っ攫われれば殺したくなるだろ?それがどこに向かうとしてもだ。さっさと止めてやらんとマジで取り返しのつかんことになるぞこりゃ」


ネフィリミーネの言葉にユキノはつい最近ナナシノが攫われてしまったときの事を思い出した。

あの時の自分の状態を思えば、アリスと引き離されてリコリスが正気を失うのも当たり前の事なのではないかと思えた。


「あ、ならアリスと再会させてあげれば…」

「小リスの状態にもよるなそれは。見に行ければ早いんだが…とにかく今は婆さんを信じて、こっちは最悪の想定をして動くしかねぇ」


「最悪って…」

「こう言っちゃなんだがナナシノちゃんの時とは状況が違う。小リスは立場がある人間だし、理不尽な恨みを買う事だってある。楽観視は出来んよ」


「…」

「やるせないのは分かるがねーちゃん、今は目の前のヤバいやつの対処だ。リフィルとアマリリスの関係性の事もあってどうなのかと静観していたが…確信した。俺様達の目に前にいるのは正真正銘の「神様」だ。見ておきな「俺様達」が何を相手取るつもりなのかを」


リコリスは歩く。

世界を塗り替えながら。

ぽっかりと開いた隙間を埋めるための…自分の隙間を埋めてくれていた人を求めて。

それ以外の全てを自分の世界から排除するために。

どこにいるのか分からないのなら…自分と彼女以外を全て消してしまえばいいのだから。


「あ【─────】、こ【──「な」─】て」


風に運ばれて不気味な蝶の鱗粉が空を舞い、次々に世界が死に絶えていく。

だがこの状況から逃れている者も多数いた。

影響はリコリスの周囲数十メートルまで広がった後にはそれ以上の広がりは見せておらず、当然一歩進めば一歩分影響されているエリアが前に出るが、範囲は広がってはいない。


その影響下の外にいる者は肉が溶かされ骨だけになった仲間たちを見て悲鳴をあげながら逃げていく。

しかしそれを許すほどそこにいた小さな「神様」は優しくはない。


「…【────】」


不快な音と共にリコリスがゆっくりと腕を上げ…それを遮るようにユキノがリコリスに向かって走り出した。

何かをする前にまずは動きを止める。

それがユキノとネフィリミーネの作戦だった。


ユキノの右腕、スノーホワイトは魔法的概念を切り裂いて無効にできる力がある。

それを使えば安全にリコリスに近づける。

そのはずだった。


「え…」


それは人の形をしていた。

土の中から這い出すようにして人が現れたのだ。


「う、うぁあ…」


その人の形をした何かはうめき声をあげながらもユキノにまとわりつき、その行動を妨害する。

それに触られた瞬間からユキノの身体にはぞわぞわとした何かが奔っていた。

その人の形をした何かから伝わる全てが不快なのだ。

腐ったような臭い、湿り気のある感触、生ぬるい体温…胃の中のものがせりあがってきそうになるほどの不快感だ、


「い、いや…!何こいつ…!」

「ねーちゃん後ろだ!」


それを振りほどき、背後からネフィリミーネの叫び声が聞こえ、振り向くと同じような人の形をした何かが無数に乾き切った土から這い出してきていた。


「なにこれ…なんなの…!うわぁあああああ!」


あまりの気持ち悪さにスノーホワイトを振り回して、「それ」に爪を突き立てていく。

鎌の様に鋭い五指によってバラバラに解体された「それ」だったが、どれだけ身体が欠けようとも、不気味な汁を飛び散らせながら立ち上がる。


「ちっ!気持ち悪いなこの野郎!」


少し離れたところでネフィリミーネも同じように「それ」に襲われており、殴り蹴りつけて対処をしていた。

ぶちゅっ!と水ぶくれを潰してしまったような不快な音と感触がしてネフィリミーネの拳が「それ」の腹を貫通する。

瞬間飛び散るのは異様な腐臭と腐り切った内臓。


「うぇぇえええええ!なんなんだホントに!まるで腐った死体が動いてるような…まさか殺すだけじゃなくて死体を動かす能力もあるって事か!?」

「違う…」


死体を能力で動かしているのならスノーホワイトで完全に無効化できなければおかしい。

どう見ても異常な存在であるにもかかわらず、スノーホワイトで物理的なダメージしか与えられていない。

それがどれほど異常な事なのかユキノにはわかった。


「ネフィリミーネさん!少なくともこれ…変な力で動いてるわけじゃないです!」

「いやいや!変な力で動いてるんじゃなければなんだよ!こんな死体見てぇな生きた人間がいるとでもいうのか!?」


「…!」


そのネフィリミーネの咄嗟に口を突いて出た言葉がユキノの中に妙な納得をもたらした。

そうだ、もし彼らが生きているのなら…スノーホワイトで無効化できない事に説明がつく。

ただそんな事があり得るはずもなく、この現象を説明できない。

そうやって二人がリコリスに近づけないでいると、どこかからか悲鳴が上がった。


「今度は何だ!」


ネフィリミーネが悲鳴のしたほうを確認するといつの間にかさらに数を増やしていた「それ」が逃げのびていたはずの鎧の者たちを襲っていた。


「くるな!くるなぁあああああああ!!!」


あまりの恐怖に腰を抜かしているのか鎧を着た男はその場に倒れ込み、大した抵抗もできずに「それ」に噛みつかれた。


「ぁあああああああぁぁああああ!!いだぃ痛いィィイイイイ!!」


ブチブチと肉を噛みちぎられ、痛みに絶叫をあげた男だったが…次の瞬間、その全身の肉がドロリと溶け落ちた。

先ほどリコリスの影響を受けた者たちと同じだ。


「くそ!「あれ」に噛みつかれてもダメなんかよ!…ってオイ待てよ…あいつがいたところは領域の外だぞ!」


そう、男が襲われていた場所はリコリスの影響下にある領域の外だった。

つまりそれは…。


「あの気味の悪い死体は領域関係なく行動出来て、噛まれたら同じ影響が出るって事か…!ならこの場所からあの死体を一体だって逃がすわけにはいかんぞ…」


ほんの一体でも「それ」が人の住む場所に放たれればどれほどの被害が出るのか想像する会出来ない。

ネフィリミーネの背筋を冷たいものが流れ落ちた。


「ネフィリミーネさん!先に皇帝さん達にこのことを伝えてください!私がなんとか食い止めます!」

「食い止めるって…大丈夫なんか!ねーちゃん!」


「はい!私、一つ思いついたことがあるんです!それでなんとか!」

「お、おう…くっ!分かった確かにこの状況は婆さんがいた方がいいかもしれん!少しだけ待っててくれ!」


ネフィリミーネは自分に群がる「それ」をあしらい、皇帝の元に走った。

そして一人残されたユキノだったが…。


(なんで私…ネフィリミーネさんを皇帝さんのところに行かせたの…!?私あんなこと喋ってない…!)


自分の口から自分の意志ではない言葉が吐き出された。

先ほどネフィリミーネと会話をしていたのはユキノの意志によるものではない。

ユキノにこの状況をどうにかできる手段などないし、虚勢を張ってネフィリミーネを行かせるつもりもなかったし考えもしていなかった。

なのに確かに喋っていたのは自分…何が起こっているのか分からずユキノは恐怖した。


(なに…?なにがおこって…)

(──落ち着け)


恐怖し混乱するユキノに誰かが冷静な声を浴びせかけた。


(だれ…?)

(この相手、お前の手には余る。出てくるつもりはなかったが…今回ばかりは仕方がない。少しだけ身体を借りるぞ)


そんな声が聞こえた後、ユキノは異常な寒さを覚えた。

全身が震え、身体がかじかんで動かない。

そして切り裂くような痛みが全身を襲い…ユキノの意識が闇に沈んで行く。


「やはり負担が大きいか。時間制限ありで「あれ」の娘の対処…無茶ぶりどころの話じゃないな」


ふぅ~と白い息を吐きながらユキノが顔をあげた。

いや、彼女はユキノであってユキノではない。


「…だ【誰、あなた】た」


リコリスの口から放たれる不快な音。

言葉として聞き取れないはずのそれが彼女には聞こえていた。


「私か?…私は…スノーホワイト。とりあえずそう名乗っておこうか」


赤黒い世界に、一陣の冷気が流れた。

とうとう出てきました中の人。

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― 新着の感想 ―
[一言] 眠り姫さん起きてんじゃねーか! 彼女(仮)は百合に挟まる不埒な女に含むべきか否か…
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