死に至る現界、生に戻る死界3
次回は明日か明後日に更新します。
今あまり時間が取れてなくて休みが多くなりそうですすみません…。
忙しいだけなのでそのうち落ち着きます!なるべくペースは乱さないよう頑張りまっす!
赤黒く染まった世界。
その中心にたたずむ少女リコリスはその小さな身体で、小さく一歩を踏み出す。
最初に影響が目に見えたのは地面だった。
リコリスが踏みしめた地面に生えていた雑草や、誰も名前すら知らないような花は上から順にどす黒く染まり…そして枯れ墜ちた。
その次は土だ。
草木が成長できるだけの栄養を蓄えていたはずの土は、ブスブスと音をたてながらヘドロ状に変化し…さらに次の瞬間には水分が失われたカラカラの塵のように変化した。
リコリスを中心に大地から命が失われていく…そう表現するしかない現象がそこにはあった。
だがその異変はそこで終わりではなかった。
枯れ果てたはずの地面からなんと根が伸びてきたのだ。
確かに栄養などすでに失われたはずの大地から根を伸ばして花が咲いていく。
しかしそれは赤黒く変色し、歪み、ボロボロで…お世辞にも綺麗だと言える種類の花ではなく…その姿は死の世界をおぞましく彩る朽ちた花だ。
死に果てた土に根付く枯れ落ち腐り果てた花…まるでそれが正しい在り方とばかりに主張するそれらはその場にいる生きている世界の人間たちに恐怖を与えるには充分だった。
それは少し離れたところからその姿を見ていたユキノとネフィリミーネも同じであり、異様な状況に戸惑い、どう行動するべきか計りかねていた。
「なんじゃありゃ。とにかくヤバそうって事は分かるが…」
「あれってリコちゃん…ですよね?なんでここに…」
「小リスといつも一緒に居る子だよな…小リスは危険はないって言い張ってたが…どう見てもヤバいなありゃあ」
「どうします…?声かけてみますか?」
「いやぁアレに近づくのはヤバいだろう…どう考えてもってか考える間でもないわな」
「ですよね…ひとまず逃げます…?」
「うーむ…触らぬ神に祟り飯って言うしな」
「飯…?」
ユキノたちの視界の先でリコリスはゆらゆらと首と体を揺らしながら、ゆっくりと歩いていた。
謎の現象が起こっているのはリコリスの足元から半径数十センチほどの極小規模であり、何か危ないのは分かるが、現状近づかなければいいのではないか?と思わせる状態だった。
赤黒い世界…腐り落ちた花々…その中で「それ」に最初気がついたのはアトラだった。
「…逃げましょうカララさん」
「んぇ?なにいきなり…まさかビビってるの~?確かになんかヤバ気な雰囲気だけど、この程度でビビってたら──」
「いいから逃げましょう~、今回は割とマジで言ってますぅ」
「いやいや、何を言ってんのよ。ボスもまだ見つけられてないのに帰れるわけ…ふぐぉぇ!?」
言葉を遮るようにしてアトラがカララの鳩尾にフックを叩き込み、可愛いを公言している女性が決して上げてはいけない呻きをあげるカララを肩に担いで走り出す。
方向はリコリスの進行方向の逆…さらに言うのならばアリスが捉えられているかもしれない場所からも逆だ。
敵前逃亡。
そう指摘されても仕方のない行動だが、この瞬間において最も賢い判断をしたのもアトラだ。
アトラは「それ」を見逃さなかった。
リコリスの周囲を飛ぶ小さな蝶…いや、蝶のような何かを。
まるで人の血管を無理やり引きずり出して、蝶の形に結びましたとでも言わんばかりの不気味でおぞましい見た目の蝶…それがまるで自分こそが「この世界」における正しい蝶だと言わんばかりに赤黒い鱗粉をまき散らし、飛んでいるのだ。
直感であれはダメだと感じたアトラはとにかく走る。
少しでも遠くへ、一歩でも遠くに。
この赤黒い世界から遠ざかるために。
そして…それが始まった。
リコリスの周囲を周るように飛んでいた蝶だったが、それらが突如として放射状に広がった。
それと同時に今まで数十センチほどだったはずの現象は一気に数メートル…数十メートルと広まり、ユキノたちと状況が飲み込めず困惑してた鎧の者たちを飲み込む。
「っ!」
それがユキノの身体を飲み込んだ瞬間、彼女の腕が異形の腕、スノーホワイトに姿を変える
それはとっさにユキノが身を守るための反射的行為に思われたが…。
(今…スノーホワイトが私の意識より一瞬早く出てきたような…?)
わずかな違和感をユキノは覚えたが、それはすぐに周囲から上がった悲鳴にかき消された。
「ひ、ひぃぃぃっぃいいいゃああああああ!!!」
「なんだこれ!、なんなんだよぉおおおおおおお!!!」
「い、いやぁあああああぎゃあああああああああああ!!」
悲鳴を上げている鎧の者達にその異変はまず手足の指に対して起こった。
手甲の隙間からドロドロべちゃべちゃとした粘り気のある何かが漏れ出してきた。
赤いような白いような…絵具を無茶苦茶に混ぜたような混沌とした色の何か…そんなものが手甲の中から出てきたのだ。
確認しないはずがなく、鎧の者たちは一斉に自らの手甲を外し…そして見てしまった。
肉が削げ落ち、骨が剥き出しとなった自分の手を。
そんな物を見て悲鳴をあげないことなどできるはずもなく…ある者は腰を抜かしてその場に尻もちをついてしまう。
そうしてさらに気がつくのだ。
ドロドロとした何かは足からも漏れ出ていることに。
嘘だ、そんなはずは無いと慌てて足の装甲を骨になった手で外し…そして骨が剥き出しとなった自分の足を見て更に悲鳴を上げる。
どうして骨だけになった手が通常通りに動かせているのか疑問にすら思えないほど鎧の者たちは恐怖する。
だが、まだ終わらない。
鎧を脱ぎ、素肌を視界に晒したことで彼らはさらに絶望を目視することになった。
手から腕に、足から脚に…「肉が溶け落ちて」骨だけになっていく。
痛みはない…それどころか身体に違和感すらない。
だが、生きながらにして身体中の肉が溶かされ骨だけにされていくその現象に人の精神が耐えられるはずもなく…。
「あぁ、あぁあああああ、あああああああああああああああああああああぁあぁあアァアアアあああああアアアアアアアアアァァアッサザアアアアアアアアアアああああああああああ!!!!」
とただただ気味ような悲鳴を上げ、やがては頭までもが骨だけになり崩れ落ちる。
転がった骨の頭部からは仕上げと言わんばかりに残った眼球が滑り落ち、ぼっかりと開いた眼窩と耳であった部分からとろりと人として失ってはいけないものが流れ出ていく。
そこは人が人であることが許されない世界…いや、人が腐り落ちている状態こそが「正常」である世界へと変貌した。
その場所で人の姿を保ち、立っているのはスノーホワイトの力で耐えているユキノと…ネフィリミーネだけだった。
「ね、ネフィリミーネさん…」
「…想像以上だな…これは無理だ。俺様達じゃどうにもならん…と言いたいところだが少なくとも小リスの安全が確保されるまではなんとかせにゃいかん…行けるかねーちゃん」
「は、はい…でもネフィリミーネさんは大丈夫なんですか…?」
「いや…気持ち悪いというか、不調だが何とかまぁって感じだな…そんな事よりほんとにどうするかねこれ…」
ゆっくりと世界を踏みにじりながら歩くリコリスを前に、ユキノとネフィリミーネはつばを飲み込んだ。
緊急事態なのを物理でわからされるカララちゃん。
今回はアトラさんも必死だったので仕方がないのです。




