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死に至る現界、生に戻る死界2

次回は明日か明後日に投稿します。

 ユキノは相変わらず慣れない転移の魔法陣を使用するときの眩暈に弄ばれつつ、どことも知らない場所に転移した。

どこか部屋の中に出るのだろうと何故だか思い込んでいたが、目を開けてみるとそこはやけにひらけた場所で、人気のない屋外のようだった。

ただし景色は良く見えないうえに、見えたとしても楽しむ余裕はない。

何故ならば…。


「さて到着到着…っと…おやまぁ」

「…」


転移した先では某王国の紋章が刻まれた鎧を着込み、武装した者たちが驚いたようにこちらを見ていたからだ。


「「「「…」」」」

「「「「…」」」」


お互いに無言で見つめ合う。

ユキノたちにとっては予想外の歓迎、向こうにとっては思ってもいない訪問者なためどう行動していいのか一瞬の沈黙が産まれたためだ。

だがしかし、沈黙が産まれるという事は即ち、それを打ち破る空気の読めないものもいるという事であり…。


「先手必勝ですぅ~」


間の抜けた声と共に真っ先に飛び出したアトラが、握りしめた大剣で近くにいた男たち5人ほどを鎧ごと叩き潰してミンチに変えた。


「えぇ!?ちょっとアトラさん!?いいんですかそんなことして!」

「いいに決まってますぅ~敵地にいる知らない人なんてみんな敵なのでぇ~ぶっころしたほうの勝ちですぅ」

「まぁそりゃそうだわな…なーんか意味深な鎧を着ているが…俺様達は泣く子をかわいい子以外はさらに泣かす犯罪組織だ。とりあえず暴れてから考えるのが鉄則よ」


ネフィリミーネが武器も持たずに余裕の態度で動揺している男たちに近づいていく。


「な、なんだお前たちは!」

「おーおーありきたりなモブセリフもよくもまぁ…それにおかしなことを聞くもんじゃあないぜにーちゃんよぉ。俺様達を呼んだのはそっちだろう?秘密結社アラクネスート、ただいま見参ってなっと!」


シュボッと空気を押し出すような音を伴い、ネフィリミーネの拳が男の顔面にめり込んだ。

兜で頭部を守っていたというのにもかかわらず、恐ろしいほどの怪力でそれごと粉砕されもはや顔の形を保ってはいなかった。


「ぐっ…!お前たち敵襲だ!武器を取れ!」

「ぎゃははははは!おせぇおせぇ!若者ならもっとシャキシャキ動きなぁ!俺様くらいの年齢になるともう身体なんて思い通りには動かんからなぁ!」


セリフとは裏腹にネフィリミーネはその場の誰よりもアグレッシブに、そしてダイナミックに身体を動かし、その怪力をもって素手で鎧の男たちを鎧ごとスクラップに変えていく。


「うふふふのふ~ゴミ掃除ゴミ掃除ぃ~ですぅ。ミンチミンチれっつくっきんぐですぅ~」


アトラは遠心力を利用し、回転しながら大剣を振り回す死の歯車と化して男たちを切り刻み、粉砕していく。

大剣ゆえにリーチが長く、それでいて一たび触れれば引き込まれ無残なミンチに変えられる。

今ここにボス救出という名の虐殺劇場が繰り広げられていた。


「…」


そんな様子を茫然と眺めるユキノだったが、なぜか隣で爪の手入れを始めるカララの事も気になって仕方がなかった。


「…カララちゃんは行かなくていいの?」

「え~?今日なんか熱いし~本日のカララちゃんはメイクばっちり決めてきちゃったから汗かくのは無理~。せっかくの可愛い顔が台無しになっちゃうでしょ?」


「え…あ、うん」


あらためてまともな人がいない組織だとユキノは一人で戦慄を覚えたのだった。


「あ!おいカララ!そっちに一人行ったぞ!」

「あぁ~カララさん~そっちに5人行きましたぁ~」

「なんで両サイドから同時にこっちに抜けてくるのよ!それとアトラは絶対わざとでしょ!5人って何よ!あ、ちょっ!ちょっとタンマ!アタシ鎧着てる相手に有効な攻撃手段なんてなっ…!」


慌てふためくカララに、武装した男たちが接近し、その武器を振るおうとしたまさにその瞬間。

割り込むようにしてユキノが身体を滑り込ませ、そのまましゃがんだかと思うと華麗な足払いで男たちを転ばせる。

どうやら男たちは鎧を着ている状態に慣れていないようで、すぐに起き上がることが出来ないらしく、ガチャガチャと金属がこすれる音を響かせながらもがいている。


「えっと…一応は殺さないようにしたけど…カララちゃん大丈夫だった?」

「へ?あ、と、当然なんですけど?あんたなんかの助けなんていらなかったけど…ま、まぁ後輩としてうまくやったほうなんじゃない?」


「後輩…」


やはり何故かまだ返事をしていないのにアラクネスートの一員にすでに数えられている気がして釈然としないユキノだった。


「まぁでも殺さないのは減点ね!見敵必殺…「裏」では常識よ」


カララはユキノが転ばせた男たちを見下ろしながら細長い針のようなものを取り出し、素早く鎧の隙間に通して突き刺していく。

針が刺された男たちは「はうぁ!?」と奇妙な悲鳴をあげた後に数度痙攣して、やがて動かなくなった。

あっさりと人が死んでいく。

自分が関わっているのがどれほど危険な事なのかユキノが改めて再確認したところで、ネフィリミーネが大声をあげた。


「おいユキノのねーちゃん!さっきの!そんくらい動けるならこっち来てくれ!子リスを探す!」

「あ、わかりました!」


そうだ、ここにはアリスを探しに来たのだとユキノは鎧の男たちをあしらいながらネフィリミーネと合流した。


「うし!アトラ、カララ!ここは任せたぞ!」

「はぁい~」

「え!?ちょっと!捜索はアタシの役目なんじゃ…!無理無理!だから鎧相手は無理だってー!あっ、ちょっ!きゃあああああああああ!アトラ―!助けて早く!」


カララの悲鳴を背に、ユキノとネフィリミーネは男たちをかき分けながらアリスがいそうな場所を探し求め、走り続ける。


「しかしユキノのねーちゃん…かなり動けるな!結構鍛えてるだろ?」

「いえ…鍛えてるとかは別に?」


「そうなん?でもさっきのは明らかに「戦い方」を知ってる動きだったぜ?何かやってた?」

「えーと?以前住んでた村で魔物退治が私の仕事だったので、それかも…?」


「なるほどなぁ。うんうん、将来有望な若者がいてくれて俺様は嬉しいぜ…っとなんかあの建物怪しくね?」

「確かに…」


ユキノとネフィリミーネはやけに頑丈そうな扉で閉ざされた建物の前にたどり着いた。

明らかに周囲の景色にはそぐわない…そこだけお金がかかっていますよと、大事な何かがありますと言わんばかりの代物だった。


「うーむ…どれ」


間髪入れずにネフィリミーネが扉を殴りつけた。

地震が起こったのではないかと言うほどの衝撃が周囲を揺らし、さらに扉を伝ってゴーンと重苦しい音が周囲に奔った。

しかし扉はほとんど無傷であり、開く様子もない。


「だいぶ硬ぇなこりゃ。時間がかかるぞ~…ユキノのねーちゃんはなんかないか?」

「そうですね…」


見たところ扉に魔法的な効果があるようには見えない。

行ってしまえばただの硬く分厚い扉だ。

しかしそれゆえにスノーホワイトでは対処が難しいように思えた。

二人で頭を悩ませ、殴り続けるしかないと結論が出たところで、背後から近づく影があった。


「何をやってるガキ共」


冷静で静かではあるが、苛立ちが滲むような声をかけられユキノは反射的に振り向いた。

そこにいたのは純白のマントに身を包んだ皇帝だった。


「こ、皇帝さ…!」

「おー婆さん、早かったな。一人か?」

「んなわけあるか。部下たちには周りの馬鹿を何人か生け捕りにしてあとは全員殺せと指示を出して散らばらしてる…それであいつはここか?」


「その可能性が高いなって話してたところだよ。なーねーちゃん?」

「あ、はい…でも扉が開きそうになくて…」

「そうか」


短く相槌を打つと皇帝はマントの下から赤く光る丸い何かを取り出した。

ユキノにはそれは何らかの魔道具に見えたが、どういう機能があるのかまでは分からず、首を傾げたところでネフィリミーネがユキノの手を引いて全力で扉から離れだした。


「えぇえええ!ちょっとネフィリミーネさん!?一体何ですか!

「うるせぇええええとりあえず走れー!くそっ正気かよあの婆さん!やっぱり相当キレてんなありゃあ!」


「だから何を言って…」


その時だった。

真っ白な閃光が走るユキノたちを追い越していったかと思うと、ほぼ同時に鼓膜を貫くような爆発音と、肌を焦がすような熱が周囲を襲った。


「…わかったか。つまりは爆弾だありゃ…人の迷惑なんて何も考えやしねぇ…だからクソババアだってんだあの野郎!」

「うぅ…耳が…」


「大丈夫か、ねーちゃん?ここまで来ておいてなんだが…子リスの事は婆さんに任せた方がいい。あそこまでキレてるとこっちも危なそうだからな」

「はいぃ~」


またあんな爆弾を近くで使われてはたまらないとユキノはネフィリミーネに同意する。

だがそこでふと疑問を感じた。

皇帝は自分とネフィリミーネがこの場所にいることに対し疑問を持っていなかった。

緊急事態という事もあるかもしれないが、それを加味してもあまりにあっさりな対応だったと疑問に感じ、ネフィリミーネに聞いてみようと口を開きかけた。


「あのネフィリミーネさん、さっき…」

「待て、ねーちゃん。なにか…聞こえないか?」


「はい?」

「なんか歌みたいな…」


言われてユキノは耳を澄ます。

先ほどの爆発音で若干まだおかしい気がする耳だが、神経を集中させてみると確かに何かが聞こえている気がした。

小さな女の子が歌っているような…そんな声だ。

次第にそれはハッキリと聞こえるようになって行き…同時に歌の中に酷く不快なノイズのようなものが混じっていることに気がつく。


「いーとーけりーにー、しょうのしーそのせーえー【─────「さかえー」───】かーしーのへーとーかーのおいりにまーりたー【───────「そのせーきたー─】かしまーにーこーみーてー、いーなーのここのつ、やおよろず…【────────】そーのさいぜーかなかな、こうたいてーさかのみさかのみー【─「いつきにしたれ───────】」


幼く透き通るような声と、聞き取ることのできない…耳に入れること自体が不快な音が混ざり合い周囲に広がっていく。

その場にいた誰もが動きを止め、その不協和音がどこから聞こえてくるのかと辺りを見渡す。

そうして集まった数多の視線の中心にそれはいた。


紫の髪を風に揺らす、頭頂部の獣耳が特徴的な幼く見える少女。

不協和音はその少女の口から発せられていた。

そしてこの日…ユキノたちは知ることになる。

少女の形をした…恐ろしい神様の存在を。


「か【───】むい【─────「けんかい───】」


少女の言葉が世界を塗り替え、空を大地を…全てを目が痛くなるほどの赤黒さに染まっていく。

その赤黒く変色した世界の血を踏みしめた誰もが思った。


「【生死魂逆 斜メ桂葬転ノ菊理媛神】」


この場所は人が生きていていい場所ではないのだと。

世界がヤバい。

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― 新着の感想 ―
[一言] こうちゃんさすが脳筋過ぎますね! やっぱり3女もめちゃくちゃヤバそうな力で次回が楽しみです(≧∇≦)
[一言] コウちゃんさん、光剣使えば斬れるだろうにわざわざ爆弾使うあたりブチ切れですね… カクカク御母様!あんたの娘で世界がヤバいぞ!仕事が増えるぞ! いやまあ増えたところでサボるんだろうけど!
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