死に至る現界、生に戻る死界1
久々にユキノちゃんが出てきます。
時は少しだけ巻き戻り、エンカを先頭にユキノ達は帝国の一角を進んでいた。
まるで人目を避けるように裏路地を経由し…やがて立ち止まる。
「ここだ。ここに不穏な気配を感じる…そう…まるで世界が僕の魂に助けを求めているかのようだ」
エンカが顔に手を当て、気取ったようにそう言った。
その言動にツッコミは入れず、ネフィリミーネは周囲を見渡しながら隣のクイーンに声をかける。
「ふむ…どうだクイーン?」
「ええ確かにここなら最後にボスがいたはずのカフェから人目につかないように移動することが可能かもしれない…となると…」
ぶつぶつと聞き取ることが出来ないほどの小声でクイーンが何かを呟きながら、周囲をくるくると回る。
皆で何かを探しているようだが、ユキノは特に役に立てることがないのでせめて邪魔にならないようにと極限まで気配を薄め、隅っこの方で大人しくしている。
「…ここね。ネフィリミーネ様」
「おう」
ピタリと動きを止めたクイーンが不自然に道を塞ぐようにして物が積まれた場所を指差し、ネフィリミーネが腕を鳴らしながらそこに近づき、障害物を殴りつけた。
その時、ユキノはその場で爆弾のようなものが爆発したと錯覚した。
耳を塞ぎたくなるほどの轟音に、吹き飛んでいく様々な破片たち。
慌てて近くにいたクイーンを庇おうと動いたが、当の本人は平然としており、さらにはエンカも驚いた様子は見せていなかった。
ただしスカーレッドは腰を抜かしていたが…。
そしてユキノは何かが爆発したにしては熱を感じない事に気がつき…それがただネフィリミーネが恐ろしいほどの威力で障害物を殴りつけただけだと理解する。
「あん?何もねぇぞクイーン」
「…いえ、絶対そこのはずよ」
「いやでも何もねぇって」
ネフィリミーネが障害物を吹き飛ばした後には何もない薄暗い道が続いているだけであり、彼女達が探している何かは孫z内していないよう見て取れた。
「下だ間抜けどもめ」
「お?」
エンカがため息交じりにネフィリミーネを押しのけ、そっと床に触れた。
そして歩きやすいようにと舗装されている地面の溝をなぞり…とある一か所に古びたナイフを突き刺した。
「さぁ幾多の血を吸いし魔なる刃よ…この場所に隠されし悪意を暴き出せ!」
やけに大げさな身振りで刺したナイフを握りなおし、地面を掬いあげるように捻ったその瞬間、カコンと軽い音がして地面の一部が長方形に浮き上がった。
「なるほどなぁ。随分と使い古されたような手口だが…シンプルゆえに確実ってか」
浮き上がった部分をどかし、ネフィリミーネが地面にできた四角い空洞を覗き込むと、そこには不気味な光を放つ魔法陣が描かれていて…。
「転移の魔法陣…どうやらネフィリミーネ様の予想が当たってしまったようですわね。相手も転移魔法の開発に成功しているのが確定してしまった」
「…それだと逆にいいんだがなぁ」
「…どういうことです?」
「んー…あぁいったんその話は置いておこうや。転移先がどこか調べられるか?」
「ええそれはすぐにできますわ」
クイーンがしゃがみ込み、魔法陣に手を置いて目を閉じる。
その手元には世界地図が用意されていて、もう片方の手が地図をなぞっていく。
なおひたすらやることの無いユキノとスカーレッドは手ごろな小石で地面に9マスの線を引き、そこに〇と×を描いて先に三つを直線でそろえた方の勝ちと言う争いを繰り広げていた。
やがてクイーンの地図をなぞる指がピタリと止まった。
「出たわ。多少誤差が出る可能性はあるけど…縦軸横軸ほぼ正確にあっているはず」
「ふむ…なるほどなぁ。王国の領土内の離島か…まぁ相手の目的がなんとなく推測できそうな場所だわな」
「ええ…早くボスを救出しないと」
「まぁ待て。ひとまず戦闘要員じゃないクイーンはここまでだ」
「そんな!ここまで来てただ待っているなんて…」
「早とちりすんなって。お前にはまだ仕事があんだよ…ひとまずこの座標を婆さん…皇帝あてに送りつけろ。それで勝手に向こうも動くだろう。皇帝は別途で転移系の手段を持ってるはずだから俺様達はそっち鉢合わせしないようにここからひとまず侵入だ。アトラとカララも呼んできてくれ」
クイーンは納得のいかないと言った表情を一瞬だけ見せたが、すぐに持ち直しネフィリミーネの指示に従うべくその場を立ち去った。
「さて…そういうわけだユキノのねーちゃん。わりぃけどねーちゃんはこっちに付き合ってもらうぜ」
「あ、はい」
ようやく自分にもできることが出来たとユキノは急いで立ち上がり、魔法陣に近づく。
「僕も行くぞ」
ユキノに続くようにエンカも歩き出そうとしたが、すかさずネフィリミーネが腕を差し込み、引き留めた。
「…何の真似だ」
「可愛い姪っ子ちゃんはお留守番でってこと」
「貴様…ふざけるのもたいがいにしろ。ここまで付き合わせておいて帰れるか。アリスとは知らない仲じゃない。奴が悪に囚われたというのならば、その悪を裁き救出する事こそが僕の──」
「まぁまぁ。かわいい姪っ子に何かあったら妹に顔向けできんだろ?あんまりあいつに心労をかけるのも姉としてはな?」
「っ!どの口が母の心配を!」
「わーってるよ。お前の言いたいことは良く分かってる…でも聞け。この件はヘタすれば国同士の問題にまでなる。俺様はともかくお前の尊敬する爺さん婆さんは闇に生きる者は国に介入してはならないとかなんとか言ってたろ?さすがに何の後ろ盾もない個人が首を突っ込むには問題がでかい…お前のかーちゃんもそんな事になったらまた心配しちまうだろ?家族を大切に思うのなら今日は手を引いとけ、な?」
「ふざ…!」
まだ何か反論を口にしようとしたエンカが突如として崩れ落ちた。
「エンカくん!?」
異変に気がついたスカーレッドがすかさずエンカに駆け寄るが、エンカは腹を抑えて苦しそうな表情でネフィリミーネを睨みつけていた。
「き…さ、ま…!!」
「前にも言ったろ?可愛い姪っ子ちゃんよ。お前は正面に意識を向けてる時に右横が隙だらけだって。ま、ここは年寄りに任せて大人しくしとけって。話なら今度ゆっくり聞いてやるから。そこの可愛いお嬢さん、うちの可愛い姪っ子をよろしくな」
ネフィリミーネがスカーレッドの肩を優しく叩き、それを合図にとばかりにエンカが意識を手放し気絶した。
「うっし…そんじゃあアトラとカララの到着を待って乗り込むとしようかユキノのねーちゃん。いつでも戦えるように心構えしとけな」
「あ、はい…その…いいんですかエンカさんの事は」
「さっきも言ったが今回の件はマジでやばい。どう考えても国単位の騒動だ。そこになんの後ろ盾もない一般人も一般人の姪っ子を巻き込めるかよ~。こういうのは偉い人か…悪い人が何とかせないかんのよ」
そしてしばらくして合流したアトラとカララをと共にネフィリミーネたちは魔法陣を起動させたのだが…。
「私も一般人なのでは…?」
何故かナチュラルに頭数に入れられていることに疑問を覚えるユキノなのだった。
主人公の存在意義。




