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純白の皇

明日はお休みです。

次回は金か土曜日に投稿します。

 女がアリスの両手を犠牲にした行動に呆気にとられたのも一瞬。

顔に隠す気すらない怒りを滲ませて立ち上がり、見えている片目でアリスを睨みつける。


「お前ぇ…!舐めたことをしてくれたわねぇ!諦めるとかなんだとかそれらしいこと言いやがって小娘が!」

「はて…諦める…?あぁそんな事言った気がするね…でもすまないね。言葉として発音は出来るのだけど…あいにく余の辞書にそんな言葉は載っていないんだ…ごほっ!ごほっ!」


その言葉通り、諦めることはせず…アリスは今にも崩れ落ちそうに震える身体を引きずって出口を目指す。

だがその速度は子供が歩くよりも遅く…女はずかずかとアリスに近づくと、その顔を殴りつけた。

死なれては困るので意図して手加減はしたが、それでもアリスの身体は面白いように吹き飛び、何度も何度も咳き込みながら血をばらまいていく。


アリスは全身を痙攣させながらも立ち上がろうとしているようだが、両手がまともに機能していないためにうまく立ち上がれずにいる。

いや…両手が機能していたとしてもすでに立ち上がるだけの体力すら残されていないのかもしれない。


「いやお前…馬鹿なんじゃないのかい!?それとも頭がイってるのかしら!?そうやって這いつくばってどうにかなると思ってるの?そんな身体でどう逃げよって言うのさ!」


手としての形をすでに失っているアリスの手首だったであろう場所を女が全力で踏みつけた。

ペキリと少し硬めのお菓子の様に簡単に何かを粉砕した感触が女の足に伝わる。


「…どうにかなると思うから…こうしているんじゃないか…諦めたらそこ、で終わりだよ…でも足掻けば…道が開けるかもしれない…なら…最後まで行ってみたほうが…かしこい、じゃないか…まだ手も足も…動、く…声だって…どこに…諦めるべき要素があるんだ…」

「アアアアアアアアア!!!ウザい気持ち悪い!!!」


女が発狂したように金切り声をあげながらアリスの腹を蹴り上げた。

血の混じった胃液をまき散らしながら、アリスの身体は鎖でつながれていた場所まで戻されてしまった。

痛い思いをして…捨て身の覚悟で進んだ距離はあっけなく意味のない物になってしまった。


だがそれでもなお、アリスは諦めなかった。

血反吐を吐き、自らの体液や泥にまみれながらも手としての役割を失った部位で懸命に地面を掴み、身体を引っ張っていく。

そんな姿を見て女は再び蹴りを入れようとしたが、寸前で思いとどまる。


「ちっ…!さすがにこのままだと死んでしまいそうじゃないか…!どうすれば…」


女は焦っていた。

普通ならこんな状況なんでもなく…またもう一度アリスを拘束すればそれで済む。

しかし女の目の前で何とか立ち上がろうとして失敗するを繰り返している…滑稽や無様な姿にしか見えない小娘は今にも死んでしまいそうなほど衰弱していた。


計画が実行されるまではアリスが死ぬのは絶対に避けなくてはならない…しかしいまだに実行せよと「上」からの指示はなく…もし死なれでもしたら女は責任を問われかねなかった。


「くそっ!くそっ!…こうなったら…!おい!もうやるよ!さっさと入ってきな!」


女が大声で部屋の外に指示を飛ばす。

死なれるよりはマシだろうと女はこの場で計画の強行を選択したのだ。

しかし…アリスに気を取られて女は忘れていた。

先ほどの何かが爆発したかのような音の事を。


「…おい!何をしてるんだい!来いって言ったら早く来ないか!」


部屋の外には女の部下が…アリスを辱めようとその欲望をため込み続けた男たちが控えている…はずだった。

キィィィィイと不快な音をさせながら重たい扉が開かれる。


「遅い!何をやっているの!」


苛立たし気に怒声を上げる女をよそに、静かな靴音がコツコツと女とアリスに近づいていく。

返事をしない部下に女はさらに怒りを募らせ、アリスをこれ以上殴るわけにもいかないのでその部下で鬱憤を晴らそうと勢いよく振り向く。


「悪いな。入口で退屈な「歓迎」を受けてたもんで少し遅くなったわ」

「は…え…?」


部屋に入ってきていた人物を見て女は言葉を失う。

そこにいたのは女の部下などではなかった。


純白に金の装飾が施された大きなマントを羽織り…流れるような金髪が、鋭く切れ長な目が、一切の乱れがない美しい姿勢が、身に纏う雰囲気が…存在を構成する何もかもが荘厳な威圧感を見るものに覚えさせる彼女こそが…、


──帝国皇帝フォスレルト・フォルレントその人だった。


「な、なんで…」と女は絞り出すように言った。


何故ここに皇帝が?部下たちはどうしたのか、そもそもなぜこの場所がわかったのか、なんでなんでなんでなんで──

様々な理由を含んではいるが、あまりの衝撃に頭が処理をできずに結果として「なんで」としか発声できなかった。


しかし皇帝はそんな女を取るに足らない…雑草や羽虫かのように完全に無視して横を素通りし、アリスの元まで歩いた。


「…は、は、うえ…」

「…」


皇帝は倒れているアリスの無残な状態を確認すると、着ていたマントを脱ぎ去ってアリスに被せた。

大きなマントであったために分からなかったが、その下はほとんど服を着ていない状態であったため全裸とまではいかないが皇帝はあられもない姿を晒してしまう事となった。

しかし無駄な贅肉が存在せず、しなやかで染み一つない美しい身体はいやらしさを一切感じさせず、それ自体が芸術的な価値のある作品かのような…一種の神聖さを醸し出していた。


「はは、…ぇ…ふ、く…が…」

「黙ってろ。服なんか合ってもなくても変わらん…むしろない方が身体軽くていいくらいだ…とっとと帰るぞ」


純白のマントはアリスの血を吸い赤く赤く染まっていく。

だがそんなものはどうでもいいとばかりに皇帝は優しくアリスを抱きかかえると、来た道を引き返そうと足を進める。


「ま、待ちな!このまま大人しく行かせるとでも…」

「我が大人しく行けない理由が何かあるのか?」


皇帝の視線がそこでようやく女に向く。

睨んだ…と言うほどのものでもない。

ただ単純に視線を向けただけ。

それだけで女は蛇に睨まれた蛙の様に全身が固まって動けなくなる。


一瞬で人として、生物としての「格」の違いを分からされた…そんな感覚が女を襲っていた。


「はっ、ケツの青いガキが。イキリ散らかすのは勝手だが…やったことには責任が付きまとうという事を覚えておけ。それをあとで教えてやるから大人しく待ってろ」


入ってきたときと同じように靴を鳴らしながら皇帝が立ち去っていく。

女はガタガタと恐怖に震え、動くことが出来ない。


(いや…落ち着け落ち着け落ち着け!慌てるな!あんな裸の女…「あの方」に比べたら何ともない…!)


「アァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」


女は喉が切れるのではないかと言うほどの耳障りな絶叫をあげ、立ち上がる。

更にその奇声を聞きつけたのか、部屋の中に異様な雰囲気の男たちがなだれ込むように侵入して皇帝とアリスを取り囲む。


「逃がすものかぁあああ!失敗できねぇんだよこっちはぁあああ!!!!」

「はぁ…馬鹿が揃いも揃ってめんどくせぇ…少しだけ待ってろアリス」

「…う、ん」


皇帝はそっと抱きかかえていたアリスを地面に下ろすと、女に向かい合うのだった。

服は脱ぐために着るもの。


アリスのような…何といえばいいのでしょう…ポジティブなヤバいやつを書くのは楽しいのですが楽しすぎて酷いことになっていたのでアリ虐をそこそこ削りました。

削ってこれです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 病める時もシリアスなる時も裸体を晒すことに信念を捧げる女(風説の流布) あれだ、不可抗力でも存在を知ってしまったが最後死ぬまで追われる系の怪異みたいなことしてますねコウちゃんさん… >削…
[一言] コウちゃん本当に不器用ですよね。でも、まさかコウちゃんが来るとは思ってなかったです。次回も楽しみにしています!
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