表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/312

迫られる選択

本日もヒロインが出てこないので2話投稿です。

次は17時に投稿します。

 リフィルがコツコツと石造りの薄汚れた階段を降りていく。

空気が湿り、汚くて息が詰まりそうなその場所に女神と形容される彼女はあまりに不釣り合いだ。

しかしリフィルは気にすることなく階段を降り、やがて少しだけひらけた場所にたどり着き、さらに歩みを進める。

先ほどまでの階段と同じ石造りの通路…そしてまるで牢屋のような小部屋が無数に並ぶその際奥に一人の少女が横たわっていた。


「やっほやっほ元気?」


明るく場違いな声色でリフィルは少女に話しかけた。

横たわっていた少女はゆっくりと身を起こし、立ち上がる。

その少女はリフィルとは違った意味でその場に不釣り合いの容姿をしていた。

牢屋のようなその場所でその少女はやけに綺麗だったのだ。

身に纏った衣服はボロボロで…くすんでいるような色の髪は無造作に伸ばされている。

だというのに少女の身体は汚れも傷もなかった。

牢屋に囚われた囚人…雰囲気こそまさにその通りだが、肌艶は健康的な生活を送っている少女のそれだ。


「リフィル…さん」

「うんうんリフィルさんだよ~。どうして出してあげたのにここに戻ってきてるのさ」


「…ここが私の…居場所ですから」

「んふふふふ!好き好んでこんなところにいるわけでもないでしょうに~」


「私は…ここにいるべき…です…醜い化け物…だから…」


少女はリフィルから視線を外すと、石の床の上に寝転がった。

そしてピクリともせずただただ息を殺している。

生きた人間ではなく、この場所を構成している物質の一つだとでも言いたげなその様子にリフィルはうっすらと笑みを浮かべる。


「そんなこと言わないの。実はね?あなたにお仕事をしてほしいの」

「…私にできる事なんてありません」


「あるんだなぁこれが。しかもね?人助けができるよ?」

「…その言葉…私は何度も何度も聞いてきました。でも…その度に私は…」


ぎゅっと少女が自らの身体を守るように抱きしめて小さくまるまる。

その身体はわずかに震えているように見えた。


「そうだねぇ。でもね?でもね?今度は少し違うの。本当にあなたを必要としている人に出会えるかもよ?そして同時に…あなたもその人を必要としている…かもね?」

「…」


ゆっくりと伏せられていた少女の瞳が再びリフィルの姿を捉える。

ゾッとするほど美しいその様子に思わず見とれている間にリフィルの手が少女の手を掴み、無理やり立ち上がらせた。


「ほら行こう?面白い事になるよ?きっとね」


────────



沈黙が痛い。

誰もが何も喋らない。

もしかすれば…私が何かを話すのを待っているのかもしれないけれど、私には何も言えない。

今しがた突然話を聞かされた田舎娘の私が口を出せるようなことじゃない。

なのにこの人たちは私にその話をしている。

理由は分かっている。

女神様も言っていた。

私に近づこうとする知らない人の目的なんて一つ…「スノーホワイト」だ。

だけどあれは…。


「こいつは悪意だ」


しびれを切らしたのか皇帝さんが沈黙を破る。


「悪意…?」

「ああ。だってそうだろう?こんな小さな石ころが…たった一つで何人もの人を殺す。魔物が優先的に襲うのは人だ。災害が起こり苦しむのも人…こいつが殺すのは人なんだよ。それが悪意でなくなんだと言う?」


「それは…」

「いずれ欠片持ちは普通の人間の数を超える。そしてやがては世界中の人間が欠片持ちになる。そうなれば…そちらが普通の人間という事になるのだろう。だがユキノ…お前はそれで終わると思うか?こんな人を殺す悪意に満ちたような意志を持つ人だけの世界が無事で終わると思うか?」


そんなのわかりっこない。

今の世界はそういう風にはなっていないのだから。

未来が見えるわけでもないのにその結果がどうなるかなんてわかるわけない。

でも皇帝さんの話がすべて本当なら…きっとそれはいい世界にはならないとは思う。


「でもだからって…どうしてそんな話を私に…」

「おいおい、アホぶるなよユキノ。ここまで話を聞いて…この状況に置かれて本当に分からないか?」


「私が…その欠片を…リッツという男性から奪えたという話ですか…?」

「そうだ。そういう話だったよなアマリリス」

「正確には違うかな。お姉ちゃんが言うにはリッツくんには欠片がなくて…ユキノちゃんからもリッツくんの欠片の気配は感じないらしいよ。つまり…ユキノちゃんは欠片を破壊できたという事になるのかもしれない」


「能力を奪ったのにか?」

「うん。力だけをコピーして欠片は破壊している…まぁ今の時点じゃ全部予想だけどね」


壊すことのできないはずの欠片を私がスノーホワイトを使って壊すことが出来た。

皇帝さんとアマリリスさんはそう考えているらしい。

つまりこの人たちは…。


「私に…その欠片を壊してほしいという事ですか」


再び部屋中に沈黙が満ちる。

だけども皇帝さんの瞳は私の言葉を肯定しているように見えた。


「む、無理です…」

「理由は?」


「だって…そんなのうまくいくか分からないじゃないですか!あの男の人の時はたまたまうまくいっただけで次からはもうできないかも…」

「そうだな。だが出来るかもしれないだろう?」


「でも…でも…」

「なぁ本音で話せよ。これでもこの帝国を統べている皇なんだよ我は。お前が何かを上辺の言葉で取り繕おうとしているって事くらい何もしないでもわかる。安心しろ、この場で起こっていることは全て非公式、お前が何をして何を言おうとそれを不敬だなんだと咎めることはしない。なにかどうしても断りたい理由があるのなら言ってみろ」


理由?理由なんてあげればいくらだってある。

怖いし、話が大きすぎるし、突然のこと過ぎるし…。

でも何よりも一番の理由は…。


「私は…スノーホワイトを使うと…人を殺してしまうんです…。人を殺したいという気持ちを抑えられないんですよ!その欠片持ち…?ですか?何人いるんです!?何人私に殺せって言うんですか!?」

「そのあたりの報告も受けている。細かい話はいったん抜きにして、だ。お前はアルトーンのガキを殺していない。その時の状況を考えるに殺す寸前でお前を気絶させる等の処置をすればどうだ?」


「そんなのいつまでも続くわけがない!その時の刹那的な衝動じゃないんですよ!いつだって…今この瞬間だって私はここに居る人をみんな殺したいって少しは考えてるんですよ!でもそんな事出来るわけないから…人は殺せば死んじゃうから…スノーホワイトを使えば私は一気に思考を殺意に飲まれる…それを何度も何度も無理やり抑えられたら…私はきっと何の関係のない人まで殺す…そんなのは嫌です…」

「…仮にだ。仮に欠片持ちを殺しても我の権限で一切の罪は問わないという条件を付けたならどうだ?」


冗談なのか本気なのか分からない皇帝さんの言葉に…私は魅力的なものを感じてしまった。

殺しても罪にならない…つまりは殺してもいい人。

いや違う!欠片持ちの人たちが…ただそれだけの理由で死んでいい人なはずがない。

私が…殺していい人のはずがない。


「お断り…します」

「そうか。なぁそのお前がスノーホワイトと呼んでいる力っていったいなんだ?我が知っている系統の能力じゃない。魔法でもなければ…欠片持ちでもないそうだ。その力がなんなのか、お前は理解しているのか?」


「…わかりません。物心ついた時から…スノーホワイトはそこにあって…なんでこんなものが私に備わっているのか…」

「ふむ…お前両親は?」


「母が…幼いころは一緒に住んでいました。でも突然いなくなって…」

「父親は?」


私は静かに首を横に振った。

父という存在は私の記憶には存在していない。

どれだけ薄れた記憶を掘り返してみても、そこにいるのは母だけだ。

どうしていないのか、いつからいないのか…それを知っている母もいない。

私は…独りだ。


「そうか話は分かった。だがなユキノ」

「…なんですか」


「この話を断るのなら。お前はここで死ぬ」

「…はい?」


あまりに突然すぎて何を言われたのか一瞬分からなかった。


「欠片の話は我とそこのアマリリスにアレンを含めてほんの一握りしかいない。この話が広まりすぎると…必ずうざったいのが増えるからな。つまりはこの国の最重要機密だ。そしてお前には自分でもコントロールの利かない殺人癖に…正体不明の能力まで備わっている。こちら側に引き込めないのなら死ぬしかないと思わないか?なぁユキノ」

「そんな無茶苦茶な…!勝手に話したのはそっちじゃないですか!帝国に来いと言ったのだって…」


「ここは我による独裁国家だぞ?我が白と言えばこの国にあるありとあらゆる色は白だ。それにお前をこの国に導いた女だがな」

「女神様の事ですか」


「女神…女神か。言い得て妙だな。しかしあいつは我以上に理不尽だぞ?逃げられないんだよお前は。選べ、殺すか死ぬか。死ぬ道を選んだのなら…お前が何をしようとこの場で確実に死ぬ。希望は抱かないほうがいい。だが殺す道を選ぶというのなら…我らがお前をできる限りサポートしてやる。さぁどうする?」

「そんなの…」


そんなの選べるわけがない。

私の心の奥底では…殺す道を選べと叫んでいる。

でもだからこそ余計にその道を選べない。

ならもう…私は死ぬしかないの…?

思えば私みたいな人を殺すことばかり考えている危ない女なんて死んだほうがいい…それは常に思っている。

殺したい気持ちと死にたい気持ちが常に私の中にはある。

だけど同時にさらに私の中の何かが死にたい私の邪魔をする。

何故か私は生きていたい…生きていなくちゃいけない…そんな気がする。

だからどちらの道も私は選べない。


「今この場で答えを出せとは言わない。どちらにせよお前とお前のその能力がどれくらいのことが出来るのかをちゃんと確認しなくちゃいけないからな。だが…」


皇帝さんが言葉を続けようとしたところで、アマリリスさんが急に手を前にかざして制した。


「なんだ?」

「お姉ちゃんが来るみたい。こっちの会話を聞いてたみたいだね」


「ちっ…またろくでもないことになりそうだな」

「どうかな?お姉ちゃんが言うにはだけど…ユキノちゃんの殺人衝動をどうにかできるかもだって」


アマリリスさんの言葉に、心臓が一回跳ねたのを感じた。

出てこないと言いつつチラッとは出てきました。

頭の中ではここら辺の説明回は1~2話でいけるいけると思っていても、文にしてみると全然無理なんですよね…不思議です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 自罰的敬語ヒロインの依存百合は大変よいものです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ