不仲の親子
明日はお休みです。
次回は日か月曜日に投稿します。
それは誰にも説明ができなかった現象…いや、奇跡だった。
いつ命が潰えてもかしくなかったはずのアリスだったが、ある日を境にその体調は快調の兆しを見せ、少なくとも静かな日常生活を送れる程度には回復を果たしていた。
なぜそんな事が起こったのか…数多くの意志がアリスを診察したが、手がかりをつかんだものすら現れず…まるで「神様が気まぐれにその命を拾い上げた」かのようだと誰かが呟いた。
しかしそんな奇跡が起こっても皇帝はアリスに対しての態度を変えることは無かった。
ほとんど顔を合わせず、住まいも別…全く会話がないわけではないが騎士達が傍目から見ても仲の良い家族には見えなかった。
そんな中、新たに騎士たちの長に選ばれたアレンという名の青年が皇帝の元を訪れた。
「陛下。一つご報告が」
「なんだ」
「アリス様の事で──」
「それは報告しなくていい」
アリスの名前が出た瞬間に、皇帝はアレンから顔を背け、興味なさげに冷たく言い放った。
「は…ですが一つ御耳に入れておきたいことが」
「元気なんだろうあいつは。ならそれ以上のことは言わなくていい。好きにさせておけ」
「しかし…」
「くどい。我の言葉が聞けないのか?」
そう言われてしまえばアレンとしては何もすることが出来ず、引き下がるしかなない。
そうして皇帝の元に届くことの無かった情報にとある少女についてのものがあった。
いつの日からかアリスに与えららた城に住み着くようになった魔族還りの少女リコリス。
どこからやってきたのか、年齢出身何もかもが不明の怪しいとしか言いようない少女だったが何をどうしてもアリスから離れることがなく…外部と接触している形跡はないうえにアリス本人が容認しているため騎士達からしてもどう扱っていいものか対応を計りかねていた。
そんなリコリスは現在、自主的に勉学に励むアリスの隣でアリスの白く細い腕をじっと凝視して…次の瞬間何を思ったのか勢いよく噛みついた。
「あ~…がぶ」
「痛い!!なんで噛んだ!?」
慌てて腕をリコリスから引きはがしはしたもののアリスの腕にはくっきりと歯形が残っており…血こそ出てはいないが結構な力で噛みつかれたことがわかる。
「なんで…なんとなくー?」
「なんでキミも疑問形なんだ…痛いからやめておくれ」
「んー…」
不満そうにリコリスは口をもごもごと口寂しそうに動かし、やがて名案を思い付いたとばかりに表情を明るくさせ、再びアリスの腕を取った。
「じゃあ舐めるのはいーいー?」
「普通に嫌なんだけど…べとべとになるし」
「じゃあ噛む」
「いやいや…まぁわかったよ、ちょっとだけなら」
噛まれるよりははるかにましだとアリスは許可を出した。
それが全ての始まりだった。
「ペロペロ…ちゅぅちゅう…」
まるで母の乳を吸う赤子の様に、もしくは骨を前にした犬の様にリコリスはアリスの腕に舌を這わせ、時折吸い付いた。
リコリスの魔族還りとしての特徴なのか舌は若干ザラっとしていて腕に伝わっている感触はなんとなく気持ちがよく、懸念していた唾液もそこまでではなかった。
腕に夢中になっている間は大人しくしているので、ならばいいかとアリスもその行為を黙として受け入れることにし、勉強を続けた。
やがてリコリスのその行為は日常のそれとなり、気がつけばどこかしらを舐められていた。
時折、内ももや脇の下などの明らかにまずい部位に舌を這わせようとしてくるので、そこに関しては全力で拒否をしたが、そうなると逆に他の部位はいいか…という思考になってしまう。
そのほかにもリコリスはゆっくりと…しかし確実にアリスの日常を侵食した。
最初は一週間に一度、アリスの入浴に同行するくらいだったが、それが五日に一度…三日に一度、そして毎日に。
夜はたまにベッドの中に潜り込んでくるくらいだったのが気がつけば目を覚ませば隣に寝ている…そしてついには眠る時から一緒にとアリスの日常にするりと徐々に…しかし確実に自らの存在をリコリスは刷り込み続けた。
結果、リコリスが白に住み着いて一年もたつ頃にはアリスはリコリスが自分の隣にいる事に何の疑問も持たなくなっていた。
もはや腕を舐められるどころか首筋を甘噛みされてもアリスは過度な反応をすることなく受け入れ、静かな場所で一人読書をしたいと騎士達を下がらせている状況であっても、じゃれついてくるリコリスを構いながら読書を続けるなど仲がいいという言葉では名状できない不思議な関係を構築していた。
しかしそんな二人の関係とは裏腹に、アリスと皇帝の関係は改善されることは無かった。
ある日、アリスがふとした思い付きで前世の知識を使った「お茶」を発明したことがあった。
これは後に帝国中で流行り、名産品の一つとなるほどのものとなる。
そんな功績を手にアリスは皇帝の元を訪れたのだが…。
「おかーさん!」
「…ここでは陛下と呼べ」
「あ、うん…陛下。その…本で読んで新しくお茶を発明してみたんだ!是非一口だけでもどうでしょうか!」
「…そこに置いておけ。あとで飲む」
「あ…でも入れたてが一番おいしくて…」
「今は仕事中だ。邪魔をするな」
「うん…」
そうして皇帝は有無を言わさずアリスを追い返そうとした。
「おいおいおいおい!婆さんよ!こーんな可愛い娘ちゃんが会いに来てんのにそれは冷たすぎん?」
その時皇帝と会っていた髪を短く切りそろえ、ラフな格好をした男性が皇帝を諫めた。
帝国という独裁国家の皇である皇帝に対してあまりにもな物言いではあるが、それを皇帝が咎めることは無かった。
「黙ってろ。お前にとやかく言われるもんじゃない」
「はぁ~あいも変わらずだなぁ婆さんは…大丈夫かい可愛いお嬢さん。まぁ仕事の話をしてるのは本当なんだ、でも一段落してきたところだしこのお茶はありがたくそこの皇帝婆さんと俺様でいただくぜ。ありがとな」
男性はニカッとした笑みを見せながらアリスの肩を叩いた。
この人物こそネフィリミーネであり、後に女性と判明するまでアリスは「にーさま」と呼ぶことになる。
それからはネフィリミーネもアリスと皇帝の関係改善に手を貸してはくれたが…結果は語るまでもなく、二人の間の溝は埋まることは無かった。
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「────い。…って!…おい!起きろ!」
頬に鋭い痛みが奔り、アリスは目を覚ました。
全身に突き刺さるような寒さと、つってしまっているかのよな腕の痛みに苦痛を感じ身をよじろうとして…自分が囚われているという事を思い出した。
どうやら自分を捉えている眼帯の女が頬をぶったらしく、自分が昔の夢を見ていたのだと悟る。
「なに生意気に寝てるんだ。さぞいい夢でも見ていたんだろうねぇ」
「…いや、どちらかと言うと…走馬灯だった気がするよ」
囚われてどれくらいの時間が経ったのか…外の様子を窺うすべのないアリスにはわからない。
ただ一つ分かるのは…この環境が自分にとって良くない影響を出し始めている事だけだった。
「うおぇ…げほげほっ!」
咳き込むと同時にアリスの口から大量の血が零れ落ちた。
ただでさえ虚弱体質であるアリスが全裸で、おおよそ衛生的にもいいとは言えない場所に長時間無理な体勢で監禁されているのだ。
無事でいられるはずがない。
「おいおい…身体が弱いとは聞いていたけどまだ死なないでおくれよ。準備ができるまでもう少しかかるんだから」
「…はぁ…はぁ…言われなくても…死ぬつもりは、ないよ…」
「走馬灯とか言ってたくせによくほざく。でも次に寝たらなんかもう起きてこなさそうだねぇお前。うーん…そうだ、一つ聞いておきたいことがあるんだ。ねぇお前さ?結局皇帝とは不仲って話ほんとうなの?」
女の口がはいやらしく歪んでいた。
予約投稿する段階で子供の日に投稿してよい話なのかとためらいかけました。




