血縁2
明日はお休みです。
次回は金曜日に投稿します。
先に飛び出したのはエンカさんだった。
茫然と見つめ合い、そのまま時間が止まってしまったかのような状態から一転、地面を踏み抜くのではないかと思うくらいに力強く足を踏み出して拳を握りしめてエンカさんがネフィリミーネさんに向かってきた。
二人の間に挟まるようにして私が座っているのだけどエンカさんは私の事が見えていないのか止まってくれる気配がない。
どう見ても…いや、どう見なくても危ない感じなので慌ててその場からクイーンさんも抱えて飛びのく。
「え、え?な、なに!?」
クイーンさんは状況が飲み込めていないらしく、私の行動に目を白黒とさせていたが説明するよりも早くエンカさんが私が座っていた場所を椅子を弾き飛ばす勢いで通過し…その拳がネフィリミーネさんの顔に向かって突き出された。
エンカさんのそれはとても鋭く、そして早い。
巻き込まれたら危ないかと思ってクイーンさんと逃げてしまったけど…ネフィリミーネさんの方を連れてひとまず逃げたほうがよかったかもしれないと思ったけれど、その心配はどうやら杞憂だったようで、ネフィリミーネさんはエンカさんの拳を平然とその手で掴んで止めていた。
「よう…久しぶりじゃないか、可愛い姪っ子。相変わらず綺麗な顔を──」
「黙れ。貴様を血縁者だと思ったことは無い」
拳とそれを受け止めている手のひらを挟みにらみ合う二人。
…どちらかと言うとネフィリミーネさんの方は困ったような表情を浮かべている気もするけれど、先ほど言っていた嫌われているという話は本当らしかった。
「そんな悲しい事を言わんでくれよ。俺様は、」
「黙れと言っている!」
エンカさんが叫ぶと同時に反対の拳をネフィリミーネさんに突き出し、それが再び受け止められると今度は身をかがめて蹴りを放つ。
まるで流れるような一連の動きに、やっぱエンカさんかなり動けるなぁなんて変な関心を覚えつつもそれを涼しい顔で平然と受け止めているネフィリミーネさんにも驚く。
エンカさんの拳も蹴りも全てネフィリミーネさんは受け止めているが、それは自らの腕でやっているので正確に言うのならば全部の攻撃を食らっているのだ。
拳も蹴りも手で受け止めている以上はどうしても痛いしダメージを受ける。
しかしネフィリミーネは少しも顔を歪めるっことは無く、涼しい顔で平然と何度も何度もまるで硬い手甲でも嵌めているんじゃないかと思うほど攻撃を手で受け止めていた。
しかし、どう見ても手に何か細工が施されているようには見えず、その点が少しだけ不思議だった。
先ほども肉体労働をしていたしかなり鍛えているのだろうか…?
「ちょっ、ちょっと!何平然な顔して眺めているの!止めないと!離してちょうだい!」
「あ!そ、そうですね!?」
二人の攻防に思わず見入ってしまってクイーンさんを抱えたまま茫然としてしまっていた。
今はただでさえ時間がないというのに!
「二人ともいったん止まってください!」
私はエンカさんが弾き飛ばした椅子を手にして二人の間に身体を滑り込ませ、椅子と手を伸ばして無理やり距離を取らせた。
「お?」
「む…お前は…なんで止めるのか知らんが僕の邪魔をするな。わかっているのか、そいつは闇の使者たる僕が裁きを降す悪…」
「こらーーーーーーー!エンカくん何やってるの―――――!」
何かを言おうとしていたエンカさんに、凄い大声と共にスカーレッドちゃんがまるで大砲から打ち出されてきたかのような勢いで横から激突し、そのまま二人でもつれ合うようにして転がっていく。
そこからスカーレッドちゃんが跳ねあがるように起き上がるとネフィリミーネさんに深々と頭を下げる。
「ごめんなさいごめんなさい!うちのエンカくんが失礼しましたっ!」
「ほう?ほほほう?ほほうほう?」
そんなスカーレッドちゃんにネフィリミーネさんは興味深そうな視線で上から下へと眺めまわし、いまだ倒れているエンカさんにニヤニヤとした笑みを向けた。
「おいおいおいおいおい可愛い姪っ子ちゃんよ!いいじゃんいいじゃん、可愛い子を捕まえてるじゃないか!へいへい、可愛い顔したお嬢さん、この俺様に名前を教えちゃあくれないか?」
「え?え?スカーレッドちゃんはスカーレッドっていいますけど…姪っ子?」
「スカーレッドちゃん!いい名前じゃねぇか!うちの姪とはどんな関係なん?うん?このババアに教えてくれよ、どこまでいってんの?ん?」
「ばばあ?えっとあの!え、エンカくんどういう事~!?」
ネフィリミーネさんがスカーレッドちゃんの肩を抱き、とっても馴れ馴れしく話しかける。
それに困惑してあわあわとしているスカーレッドちゃんだったが、ぬっと起き上がったエンカさんが慌てた様子でスカーレッドちゃんの肩を掴んで自らのほうに引き寄せた。
「スカーレッドに触るな。これは僕の剣だ」
「剣?なんだなんだ最近はそういうのが流行ってんの?まぁいいや。それよりも俺様は嬉しいぞ!うちの親…お前の爺さん婆さんみたいなよう分からん言動ばっかでフラフラしてるもんだと思ってたら…ちゃんといい子を捕まえてるじゃないか!いやぁ関心関心」
「ふざけるな、こいつはただの剣だ。なんでもかんでも貴様と同じ色ボケ関係に巻き込むな」
「いやいや可愛い姪っ子よ。この世界は色ボケをすることで回ってるんだぜ?俺様もお前の母親も爺さん婆さんが色ボケしたから生まれて、さらに妹が色ボケしたことでお前が産まれたんだぜ?色ボケ最高じゃんか」
「貴様…」
「わー!ちょっと待ってください二人とも!」
ギリギリとエンカくんが歯を鳴らし、再び一触即発な雰囲気になりそうだったのでまた二人の間に割り込んで何とか空気を変える努力をしてみた。
「おっと、そうだ可愛い姪っ子ちゃん。俺様を殴りたいのなら後で殴られてやるから一つ頼み事聞いちゃくれないか」
「なぜ僕が貴様の言う事を聞かなくてはならない。お前は僕が滅するべき悪だ、それを…」
「頼むよ。大事な妹分の危機なんだ」
ネフィリミーネさんはまっすぐと腰を追ってエンカさんに頭を下げた。
「な、なにを…」
一転して真面目な様子にエンカさんは戸惑っているが、そこで私はネフィリミーネさんの言葉を思い出した。
──妙に勘のいい姪っ子がいるという言葉を。
「え、エンカさん!」
「な、なんだ?というかユキノお前…なんでこいつと一緒に…」
「それどころじゃないんです!アリスが大変なんです!それにこのままじゃ戦争が…!」
「なに?」
私の言葉を聞いたエンカさんの目の色が変わったのがわかった。
────────
雲一つない晴れ渡る空を、翼を広げ飛んでいたはずの数匹の鳥が何の前触れもなく地面に落ちた。
まるで飛ぶという行為を忘れてしまったかのような挙動だったがもちろんそんなはずもなく…墜ちた鳥たちは等しく地面に激突する前にすでに絶命していた。
鳥の死骸が重なる場所──そこに頭部についた獣の耳が特徴的な少女が佇み、行動を起こそうとしていたユキノたちをじっと見つめている。
「アリスちゃん…待っててね、すぐに行くからね。アリスちゃんに酷いことをする「ぜんぶ」を私がなくしてあげるからね」
ウザ絡みしてくる叔母さん。




