囚われの姫7
次回は可能なら明日投稿します。
無理だった場合は明後日になります。
ボスがいなくなった。
クイーンさんがとても焦っているように見えるのと、それを聞いた瞬間にネフィリミーネさんも顔つきを変えたことからボスというのはアラクネスートのボスという事で間違いはない…と思う。
いなくなるも何も私はアラクネスートの本拠地においてもその姿を見ていないのでそもそもいなかったじゃんと言いたいところだけど、どうもそんなちゃちゃを入れるような状況じゃないみたいだ。
「いなくなったってお前…いつからだ?」
「…昨日の夕方から定期連絡が来てませんわ。あの人の立場的に難しい時もあるのも事実ですので待っていたのですが…今朝になっても連絡はこず…そして現在城の方でも騒ぎになっているそうです…」
「あいつにいっつもついてたにーちゃんがいただろ。そいつからの連絡は?」
「そちらも現在連絡が取れないといいますか…城の方で皇帝陛下に責任の追及を受けているそうですわ」
「なるほどな…本当に何かあった臭いな。小リスは昨日俺様と昼過ぎくらいまでは一緒に居た。そこからの足取りは全く分からんのか?」
「ええ残念ながら…」
二人の表情はかなり深刻なそれで、おそらく「いなくなった」と言うのはどこかに出かけたという意味ではなく、さらわれたという意味に近いのだろうと感じ取れた。
そしてもう一つ…聞き間違いでなければ今ネフィリミーネさんが「小リス」って言ったよね?
「クイーンさん。アリスちゃんがいなくなったの?」
「ええだからそう言って…あっ!」
慌ててクイーンさんが口に手を当てたけれど、いくら何でももう遅い。
怪しいというかあからさまだというかだけど…図らずして私はアラクネスートのボスが誰なのかを知ってしまったのだった。
「なんだ?もしかしてねーちゃんに誰がボスなのか内緒だったのか?」
「少なくとも本人にははぐらかされてましたね」
「そうなんか。まぁどんまい」
ネフィリミーネさんがいまだに自ら口を塞いでいるクイーンさんの肩に手を置いた。
プルプルと震えながら顔を赤くさせて涙をこらえているようなその様子に少しだけいつもとは違うイメージを抱いた。
仕事人間のお姉さんって感じだったけど、曰くアトラさんよりは年下らしいのでもしかすればこっちのほうが素なのかもしれない。
「それよりも今は小リスだ。あいつが何者かに誘拐でもされたのだとして…そんな事が可能なのか?正直な話生きてるのが不思議なくらい身体が弱いあいつだが、その分警護も厚かったはずだろ?この巨大な大国という国において、もっとも厳重に守られている人間が小リスだったと言ってもいい。なのにさらわれたと?おかしくないか?」
ネフィリミーネさんの言う事はもっともだ。
一国の姫と言う存在をそう簡単に誘拐なんて出来るものなのかな?アレンさんがいつも一緒に居るし、それ以外にもたぶん護衛してる人はいるんだよね?
それにアラクネスートのボスならばそっち方面の人員も警護に割かれているんじゃ?あとアリス自体が結構な有名人で常に人の目に晒されている。
誰かが常に見ているという事は逆に言えばこっそり彼女を誘拐するという事はかなり難しいという事になるのではないだろうか。
「…まだ我々の方でも情報は集めきれていないのだけど…昨日は不可解なほどに偶然が重なったとしか思えないの」
「偶然?なんだそりゃ」
「まずあの日…ボスに対してアレン様以外の騎士の護衛がついていなかったの。なんでも編成確認か何かの都合でボスの護衛をしていた騎士が入れ替わりの手続きをしていたみたいなの」
「ほう?でもあの騎士のにーちゃんはいたんだろ?なら問題は無いはずじゃねぇか」
騎士のにーちゃんというのはアレンさんの事だろうか?
あの人がどれほど強いのか知らないけれど、少なくともネフィリミーネさんはアレンさんがいれば大丈夫なはずだと思っているらしい。
「…あなたが昨日ボスとあった時に近くにアレン様はいましたか?」
「…そういえば見なかったな」
「ええそのタイミングでアレン様は我々のところに来ていましたから…あなたが戻ってきたという報告をしに」
「なるほどな。しかし小リスも騎士のにーちゃんもそんな迂闊な真似をするか?あのにーちゃんは小リスにぞっこんだっただろう?それを連絡という理由があるにしろ一人置いていくか?小リスだってそうだ。あれであいつは危機意識はしっかりとしている。わざわざ一人になるか?」
「ボスは先ほど言った騎士の入れ替わりの件をおそらく知らなかったのではないかと思われるわ。ありえない事だけど何らかの連絡の行き違いがあったのかも…そしてアレン様の方はどうやら「我々」の方の護衛がいるだろうから短時間なら問題ないと判断してしまったそうなの」
「嘘だろ?そんなガバが起こりうるのか?登場人物みんなアホだぞ今のところ」
確かに今のところ話を横から聞いているだけの身としては何もかもがおかしいと言わざるを得ない感じだ。
連絡の不備に慢心?もしくは油断…アリス本人を含めて皆がみんな示し合わせたかのように何かミスをしている。
「それで?騎士のにーちゃんの言う通りウチからも何人か小リスの側に張り付いていただろう?そいつらはどうなってんだ」
「殺されていたわ」
「…何人だ」
「二人」
「少なすぎると言いたいがそんなもんだよなぁ」
「ええ。普段いるはずの騎士達に怪しまれるわけにはいかないですもの…まさかこんなことになるなんて…」
どうやら死人も出ているらしい。
もうそこまでいったのなら…疑いようはない。
アリスは誰かにさらわれてしまったんだ。
「ん?なぁおいちょっと待ってよ。例のあの子はどうなんだ?俺様がどれだけ言っても頑なに傍に置いてたあれだ」
「そう、そこも問題なのよ…リコリス・フランネル。彼女までもが昨日ボスの側を離れていたの」
「あ…」
そこで私はリコちゃんが母親だと言う人と手を繋いでどこかに歩いて行ったのを目撃していた事を思い出す。
「…思えば確かにおかしいよなぁ。昨日の子リスはほぼ完全に一人だった。そのことに俺様は気が回らなかった。あいつがまさかそんな誰にも守られていない状況に置かれてるなんて思いもしなかった。そんでそのまま別れちまった。いくら何でもおかしいだろ。あいつの周りの全てが、昨日と言う日にあいつを一人にしたんだ。まるで何かに操られでもしているかのように」
「…そんな事ありえません。「我々」に帝国側…それにリコリス・フランネル。これらすべての者たちをコントロールできる存在なんているはずが…」
そうして二人は黙り込んでしまった。
確かに何かがおかしい。
アリスは何か大きな力に一人にされた…そう思ってしまいそうなほどに偶然が重なっている。
何よりおかしいと思うのは…。
「小リスを攫った奴らはその偶然をついてあいつを攫って行ったという事になる…ならやはり人為的なものと言う線が濃厚…とは考えられんか?」
「その偶然には私やあなた様の判断ミスも含まれるのですよ。ほんとうにそれが可能だったと思いますか?そして誰かに行動を誘導されていた自覚がありますかしら?」
「…んなわけねぇよな。だぁー!考えても仕方がねぇ…今は小リスを探すのが先だ。ユキノのねーちゃんも手伝ってくれんか?」
「はい、もちろんです…アリスはその…友達ですから」
隠し事はされていたけれど、それはあの子を見捨てる理由にはならない。
「今アトラやカララ含め可能な限りの人員を割いて捜索をしているわ。痕跡くらいは見つかってくれるといいのだけど…」
そう言うクイーンさんの表情は相変わらず暗いままだった。
無理もない。
否定はしていたけれど、やっぱり気持ちが悪いほどに偶然が重なっている。
そしてその偶然を突くかのように行動を起こした姿の見えない敵…大きさすら見えない相手というものはどうしても怖いから。
どうかアリスが無事でありますように…。
そう願った時だった。
「クイーン!」
「カララ…?どうしてこんなところに…」
まさに目にも止まらないような速度で髪を振り乱したカララちゃんが現れてクイーンさんの腕を掴んでいた。
逆ご都合展開。




