囚われの姫4
明日はお休みです。
次回は月か火曜日に投稿します。
「うぉーい!俺様ちょっと先に休憩貰うなー!アブねぇ事すんじゃねぇぞ~!」
「はーい!姐さんごゆっくり~!」
ネフィリミーネさんは他の作業員さんたちに声をかけると汗を拭きながら私の元へとやって来た。
姐さんとか呼ばれてるよこの人…。
もしかしてだけどここの人たちもアラクネスートの構成員という事なのだろうか?
疑問に思って聞いてみたのだけど…。
「いや?普通の潔白も潔白な職場だぜここは。なんでもかんでも悪い方に考えちゃぁいけねぇよユキノのねーちゃんよぉ」
「いや…」
あなたがいるからどこもかしこも真っ黒に見えるんです。
喉まで出かかった言葉をさすがに失礼かと思って飲み込んだけど…言ってもよかったような気もするそんなこの頃。
それよりも今はなんで働いているのかという事の方が気になる。
「それでその…どうして普通に働いてるんです…?」
「ん?それがよぉ聞いてくれよねーちゃん!」
肩をバシバシ!と叩かれて、そのついでに胸元に引き寄せられる。
めちゃくちゃ距離が近い人だなぁ。
やっぱり人と会話するには時にはこの人くらいの強引さも必要という事なのだろうか。
いや…やっぱりこの人だけはお手本にしてはいけない気がする。
「聞いたのは私なので聞きますけど…」
「ありがとな!んでさ、実はイヴのやつがさ~なんか新しいアクセとバッグ?が欲しいとかヌかしやがるんだよ。それがまたクソみてぇに高くてよぉ…」
「へ、へぇ…そんなに高いんですか…?」
「めちゃくちゃ高い。あんなんつける奴は馬鹿だと思うんだがイヴは馬鹿だからな…なら仕方ねぇって思ってよ~。それにさぁ」
「それに…?」
「イヴだけにそんな高ぇもん買ってやるわけにはいかねぇだろ?アルにもなんか買ってやらんとなぁって思ったらなんでも最近新作のドレスが出たらしくてなぁ~そしてそれがまた高いんよ…」
ネフィリミーネさんはそう言うとがっくりと肩を落とした。
私は話を聞いて失礼ながらも色々と意外だなと思ってしまう。
アルと呼ばれてる人はたぶんあのネフィリミーネさんといた大人しそうな人だと思うのだけど…高いドレスをねだってくる人には見えなかったというか…。
「あ?あぁそうなんだよアルの奴はマジでそういうの言わねぇからな。でもあいつはほら元が金持ちのお嬢様だからな。ドレスとか好きなんだよ。そんでそこまでわかってるなら俺様が勝手に購入してプレゼントしてやるしかねぇだろ?こういうのが腕の見せ所ってもんよ!」
「なるほど…なんというか意外でした。ネフィリミーネさんってその…そういうのしないように見えると言いますか…」
どう言っても貶しているような言い方になってしまうけれど、こう純粋になんというか働いてまで女の子に高いプレゼントを買うようなタイプだとは思わなかったと言いますか…。
「そもそもアラクネスートってお金あるんじゃ…?」
「あるかもなぁ~。でもてめぇの女のプレゼントだぜ?他はともかくとしても女へのプレゼントくらい自分で真っ当に稼ぐだろ。あぁいや、こういうところだよなぁ~分かってんのよ?俺様が古臭いって事くらい。まぁだからそれが絶対正しいとは言わんが俺様はそうあるべきだと思ってんのよぉ!だからひぃこら言って鬼痛い腰さすりながら肉体労働やってんのよこのババアはさ!ぎゃはははははは!」
「なるほど…大変なんですね」
「大変ねぇ?俺様はそうは思わないぜ?むしろ楽なもんよ!」大前提として俺様は「妥協」してもらってる立場だからなぁ」
「妥協?」
「そう!ほら、俺様ってかっこいいだろ?世の男女が放っておけないほどに!」
ネフィリミーネさんがこれでもかというくらいに顔を近づけて来た。
確かに美人だとは思うけども。
少なくとも私は放っておく人間だ。
「そしてこんだけかっこいいと男も女もわらわらと俺様に寄ってくるわけだ。そして俺様はその全てを受け入れるんよ!なんせこの胸に溢れる愛は無限大だからな!そして性欲も!これはどうしようもない事なんだ。モテすぎる者の宿命ってやつだ。…ただな、これだけかっこいい俺様に惚れちまった奴らはやっぱり俺様を独占したいって思うだろ?好きな奴を独占したい、これは当たり前の感情だ。そうだろう?」
「…まぁ」
ふと思い浮かべたのはナナちゃんの顔だ。
…いや、そんな好きとかじゃないよ!?ないけど…大切な人は独占したいという気持ちは分かるつもりだ。
「ただ俺様の愛は無限。誰か一人が独占することは出来ねぇ。わかるか?だから俺様は俺様の男ども女どもに「妥協」をしてもらってるんだ。一人だけのもんにはなってやれない、付き合うのなら複数人と。浮気もするし目移りだってする。それでもいいって我慢してもらって俺様は今はあの女どもを引き連れてるんだ。だったらその気持ちに最大限のもんを返してやれねぇと嘘だろうよ。女どもに好かれるだけ好かれてフラフラしてへらへら笑ってる奴なんて生きてる価値もないクズだろ?だから俺様は女どもが望めば何でも買ってやるし、俺を愛してくれてる女どものためなら何でもするんだよ。わかるか?ねーちゃん。ハーレムやるんならそれを貫き通す意地と覚悟がいるんだそうだろう?ん?」
正直そうなの?と思うというか住む世界がやっぱり違うというか…ただこの人なりに人を愛するという行為になにか信念のようなものがあるのは分かった…はず?
どうやらただの危ない人ではない、らしい。
…やっぱり危ない人ではあると思うけど。
「まぁだからなんだ。ねーちゃんもナナシノちゃんと仲良くやれよってこった!ぎゃはははははは!」
「言われなくても…というかネフィリミーネさん!ナナちゃんに変なこと教えないでくれますか!?」
「あん?なんだよ変な事って」
「変な事は変な事です!なんかナナちゃんに話したでしょ!その…匂いとか」
「匂い…?なんだ?俺様は一体何を今怒られてるんだ?匂いだとかなんとかといった話はしてねぇぜ?ほんとに」
「え…それはすみませんでした…でもじゃあ誰が…」
他にナナちゃんに変な事を教えた人がいないか思い浮かべて…カララちゃんの顔が浮かびかけたところで私の想像を散らすように大きな声が聞こえた。
「ネフィリミーネ様!」
「うお!?うるさ!なんだなんだ?って今度はクイーンかよ。どうしたよそんな慌てて」
いつの間にか私とネフィリミーネさんの背後にとても慌てたような表情のクイーンさんがいて、どうやらその距離で叫んだようで本当にボリュームが大きくて私も若干耳が痛くなった。
しかしネフィリミーネさんの言う通りクイーンさんは本当に焦っているようで…そしてだんだんと青ざめていく顔で先ほどはうって変わって力のない声で呟く。
「…ボスがいなくなった」
ようやく出てくる囚われの姫。




