隔てるもの
明日はお休みです。
次回は明後日投稿予定です。
ユキノさん視点に戻ります。
「それでね?その時に私は最後に言ってあげたんだ~「骨密度が足りなかったね」って」
「何の話をしているんです?」
アマリリスさんがお菓子をサクサクと口に運びながらよく分からない話をする。
なんかついさっきも同じような話を聞いた気がするけれど骨密度の指摘が帝国では流行っているのだろうか…。
「ユキノちゃんお菓子食べないの?」
「お腹すいていないので」
「そっかぁ。痩せすぎちゃわなようにね」
テーブルを覆い隠すほどに並べられたお菓子は吸い込まれるようにアマリリスさんの口の中に消えていき、そして補充されてまた消えていく。
わからないことだらけのこの世の中で、割とトップクラスに恐怖を覚えるのはアマリリスさんの体のつくりなのかもしれない。
「あの…それで何か話があるんでしょうか。私ちょっと人を待たせてて…」
「いやぁそろそろユキノちゃんも気になってくる頃かと思ってさ」
「…なにをですか」
「お姉ちゃんの事」
サクサクとアマリリスさんがお菓子を食べる音だけが流れていく。
面白い事に止まることもなくひたすらお菓子を食べているのに下品に見えないというか上品にすら見える。
どういう食べ方なのかポロポロと崩れてしまいそうな物もカスが床にこぼれたりはしていない。
何かコツとかあるんだろうか。
「ユキノちゃん?聞いてる?」
「あ、はい…すみません。ちょっとフリーズしてました」
不意打ち気味な話題だったからちょっと驚いてしまった。
頭を冷やすために手元の水を飲み干して…さっきから同じような事を繰り返しているのでお腹もタプタプだ。
「あの…お姉ちゃんの事と言うのは…」
「昨日とかにアリスちゃんから聞いたけどアラクネスートのところにいたんでしょ?ならお姉ちゃんに関して何か聞かされちゃったかなって」
確かに聞かされはした。
したけれど…アマリリスさんは以前にあまり裏の組織の事には詳しくないみたいなことを言っていた記憶がある。
それならばどうしてアラクネスートがリフィルさんの事をその…知っていることを知っているのだろうか。
「クイーンちゃんだっけ?私の所に来た子。実は見覚えがあるんだよね。それもお姉ちゃん関連で」
「…」
「そんでお姉ちゃんにそれとなく聞いてみたり調べたりしてみたら…ね?あのアトラって子もたぶんお姉ちゃんと何かあった子だってこともなんとなく掴めた。もっともっと調べれば色々出てくるよねきっと…伊達に帝国内で最も本と言う情報が集まる場所の管理をしていないからね」
そこで私は理解した。
アマリリスさんは知らなかったのではなく、興味がなかったんだ。
知ろうと思えば裏社会の事なんて簡単に知ることが出来る…だから興味のない事を積極的に知ろうとしなかっただけ。
私はクイーンさんの事は何も知らない。
だけどアトラさんは少なくとも幹部はリフィルさんの…邪神の力による被害を受けた人たちだと言っていた。
ならきっとそう言う事のはずで…私が何かを聞かされたと思ってアマリリスさんはこうして訪ねて来たって事だ。
私はこの状況でどうすればいいのだろうか…。
「一応言っておくけれど、なんとなく目的が分かったからって別にだからどうこうしようとは思ってないよ。ユキノちゃんにもアラクネスートにも。ただほら、ユキノちゃんっていつも何かに思い悩んでるイメージがあるからさ?知らない中じゃないし気になるならお姉ちゃんのことくらい教えてあげようかなって」
アマリリスさんは柔らかい笑みを浮かべながらお菓子を食べつつそんな事を言う。
つまりは私が知っているいつものアマリリスさんで…動揺だとか慌ててるだとか、怒っているだとか…そんな事は一切ないように見えた。
「…平然としてるんですね。リフィルさんと仲がいいんじゃないのですか」
「すっごく良いよ~。そして私は同時に私のようなごく一部を除いてお姉ちゃんがよくない存在だって事を理解してるし、あなた達普通の人がどれだけ頑張っても私のお姉ちゃんをどうこうすることは出来ないって思いもしてる。つまりはそう言う事…私が話しても話さなくても何も変わらないんだよ。むしろユキノちゃんたち「一般人」がそれで現実を知ってくれるのならいいのかなって。知らない人が何人死のうがどうでもいいけれど、知ってる人がひどい目にあうのは目覚めが悪いでしょ?」
「…そんなに危険なんですかリフィルさんは」
「そうだね~私はお姉ちゃんが何人も人を殺すところを見てる。平然と…息をするように人を殺すよ?お姉ちゃんは。あなた達が無意識に虫を踏みつぶすように…もしくはなんとなく叩き潰すように。ま、そんなこと言いつつ私もそんなに人の事は言えないんだけどね」
「アマリリスさんも人を殺したことがあるんですか」
「あるよ。だってそんなお姉ちゃんとずっと一緒に過ごしてきたんだよ?何もしてないって方が無理があるじゃない?ま、さすがに大人になって自立して倫理観?を学んでからはあまり殺してないよ、うん」
私も人のことを言えるような物じゃないけれど…それでもずっとアマリリスさんに感じていた壁のようなものをこの瞬間ハッキリと認識した。
初めて会った時からアマリリスさんはいい人で…私に親切にしてくれた人で…物腰が柔らかくて素敵な人で…だけどずっと距離を感じていた。
そうか、私とこの人は…見ているものも住んでいるところも違うんだ。
根本的に何かが違う…それがずっと私がこの人に感じていた違和感の正体。
「…あ、アマリリスさんも…人間じゃないんですか」
「んー…何回かその話しなかったかな?してないかな?えーっとね私は人間だよ。種族的にも完全に人間。三姉妹の次女だけどお姉ちゃんとリコとは血が繋がってない仲間外れ、それが私。でもね?それでも私は誰よりもお姉ちゃんの事を知ってるよ。この世界で誰よりもお姉ちゃんと深いつながりがあるのも私。わかるかな?血は繋がってないけど家族で…だからこそどこまでも深いところまでわかる。それが私たちなの。それで?そんな私にユキノちゃんは何か聞きたいことあるかな?」
ニッコリとしたアマリリスさんの笑顔が…この時はとても恐ろしいものに見えた。
圧倒的お姉ちゃんマウント。
関係ないですが設定を見直そうと思ってスマホのメモ帳を開くとユキノさんの初期設定が今と別人過ぎて草でございました。
当初はなんと初遭遇後はアマリリスさんのストーカー化する予定だったみたいです…怖いですね。
もし実現していたらよく考えなくても2秒でお姉ちゃんに処されるので当時没になったんだろうなと思います。




