最後の一人
次回は未定です。
明日~日曜日のどこかで投稿します。
やや過激な描写があるかもしれませんので一応閲覧注意回です。
「はぁ…にーちゃんよぉ、男が女傷つけて情けないとは思わんのか。今やめれば俺様がブチ切れるだけで終わってやるからイヴの事離してやれって」
「黙れと言っているだろうが!くそっ!…おい!この女が心配なら俺の言うとおりにしろ…今すぐ壁に背を向けろ。はやく!」
男はナイフを握る手に力を込めながら、ネフィリミーネたちを脅しながら命令する。
しかしネフィリミーネは男の指示に従う様子はなく、だが焦っているかのような表情で両手を振っていた。
「落ち着け、大丈夫だから落ち着け。おい、俺様を見ろ。聞こえてっか?おい落ち着けと言ってるんだぜ俺様は」
「俺は落ち着いている!わけのわからない事を言っていないでいいから早く背を向け──」
「お前じゃねえ!だーってろガキ!おい、イヴ!大丈夫だ何でもない、俺様ならこれくらい何とでもなるんだ。だからな?落ち着け、何もするな」
「何を言って…うっ!!!?」
男は突如として右足に激痛を感じ、その場に崩れ落ち、男に捕まっていたイヴセーナも引っ張られるようにしてぺたんとその場に座り込む。
そして男がまるで燃えているかのように痛みと熱さが襲い掛かってくる右足に視線を向けると、そこに大きな注射器が突き刺さっていた。
注射器の中には何らかの液体が込められており、その何かは今まさに針を通って男の体内に流れ出していた。
「うぐぁああああ!!な、なんだこれはぁ…んぐはぁああ?!」
「あーあ、やっちまいやがった…しゃーねえな。悪く思うなよにーちゃん」
右足の激痛にのたうち回る男をネフィリミーネは無理やり押さえつけ、注射器を引きぬき…男の脚を掴み上げた。
そして次の瞬間…まるで鳥の塊肉から手羽を取るような気軽さで男の右足を素手で引きちぎった。
「────っ!!!!?ぐぎゃあああああああああああ!!!!!」
無造作に肉を千切られた男の脚からは大量の血が当然のように流れだす。
当然のことながらお世辞にも綺麗な傷口とは言えず、骨も残っているために神経や血管、骨にこびりついた肉片などが合わさり現実のものとは思えない非日常的な光景を生み出していた。
「おーおー男がちょっと痛いくらいで叫ぶもんじゃねぇぜ。彼氏彼女に情けないって思われたくはないだろ?」
「ひっ、ひっ、ひっ!!」
一体自分の身に何が起こっているのか。
痛みで思考の出来ない頭で必死に考える。
事実としては足に何か薬品のようなものを注射された…それは理解できる。
だがいったい誰が?当然ながらそれも一人しかいない。
男の前方で身動きせずに茫然と座り込んでいるタトゥーの女だ。
だがそれがわかったところで脳が理解しきれないほどの痛みは無くなってはくれない。
男とて裏の社会に生きる者…その世界に足を踏み入れたその時から多少の覚悟は出来ているはずだった。
しかし今この状況は聞いていないだろうと涙を流すことしかできない。
「痛いか?でも死ぬよりはマシだろ?ほれ見てみろよにーちゃん」
ネフィリミーネは今しがたありえない怪力で引きちぎった男の足だった肉塊をぶらぶらと男に見せつけるように持ち上げる。
その肉塊からはプスプスという音と共に煙が出ており、今すぐに鼻をもぎ取ってしまいたいほどの異臭が放たれている。
誰が見ても一目瞭然…その肉塊は徐々に溶けだしていたのだ。
「ったく、こうなるからイヴを放せって言ってやったのに聞かねえからこうなるんだぜ?若人はやれ時代だなんだと馬鹿にして年寄りの忠告を聞きやしない。やれやれ嘆かわしい事でババアも泣けてくるぜ…っとおいアル。もうさすがに誰か来るだろうがいちおう人を呼んで来い。このままじゃあ出血多量とかでどっちみち死ぬかもしれんぞ」
「…」
「おい、アル」
ネフィリミーネの呼びかけに答えず、暗い目をしたアルフィーユがゆっくりとした足取りで男の元に向かって歩く。
その手には、その場で拾ったかのような拳大の石が握られている。
「ひっ…ひっ…な、なにを…」
「…血…人質…敵…女の…許せない…許せない!!」
アルフィーユはユキノに大人しそうと形容されたはずの顔を憎悪に歪めると手に持った石を男の股間に向かって振り下ろした。
何かが破裂するような音が男の脳内に響き、視界が点滅し呼吸が止まる。
「敵、敵、敵、敵、ゆるせないゆるせないゆるせないゆるせない」
まるで呪文のようにぶつぶつと何かを口にしながらアルフィーユはひたすら腕を勢いよく振り下ろす。
途中で勢い余って石が飛んで行ってしまったので今度は足で執拗にその部分を蹴り続ける。
ぐちゃっぐちゃっと水音をさせながらもはや形すら定かではなくなったその部分をだ。
「お前もかよ…くそっ!どいつもこいつもプッツンしやがって!アル!」
ネフィリミーネがアルフィーユの肩を掴み、振り向かせる。
「邪魔をするなぁ!!!」
振り向くと同時に鬼気迫る表情のアルフィーユが大きく足をあげ、ネフィリミーネの顔を蹴りぬいた。
しかしネフィリミーネはびくともせず、顔で蹴りを受け止めていた。
「痛ぇなぁおい。お前誰に何やってんのか分かってんのか?あ?」
「あ…ち、ちが…」
途端に正気に戻り、慌てだすアルフィーユの腕をネフィリミーネが掴んで顔を近づけて凄む。
「誰に何やってんのか分かってんのかって聞いてるんだぜ俺様は」
「ご、ごめんなさ…!」
「謝っただけで許されると思ってんのか?お前はなんだ?俺様の女だろうが、あ?それがこんな飼い主を噛むようなマネしやがってよぉおい。頬骨が砕けでもしたらどう責任とんだ?」
「…わ、私…なにもわ、わからなくなってしまっ…ごめ、ごめんなさ…い…」
「だから言葉なんていらねぇんだよ。こういう時どうするかくらいわかるだろ?なぁおい!」
ネフィリミーネはアルフィーユから手を離すと、トントンと蹴られた頬を指で叩き、そして…。
「はやくチューしろ!痛ぇから!あぁダメだこれ痛くて死ぬわ!チューしてくんねぇと絶対治らねぇ~!舌入れる奴だぞ!」
「でもこんなところで…」
「あぁああああああああいてぇえええええなぁああああああああああ!!!チューしてくれたら治んのになぁあああああああ!!!」
「わ、わかりまし、た…」
顔を真っ赤にさせ、震えながらも覚悟を決めたかのようにアルフィーユがネフィリミーネの頬に手を添えた。
片脚を失い、股間を潰された男を傍目に二人の女性が口づけを交わしていた。
「おし、俺様復活。んでお次は…イヴ、もういいぞ。早く立ちな」
「…ミーくん」
光の無い目でタトゥーの女性、イヴセーナが顔をあげる。
やれやれとため息をつきながらネフィリミーネが無理やりにイヴセーナを立ち上がらせたのと同時に顔を隠すかのようにイヴセーナはぎゅっとネフィリミーネに抱き着いた。
「ご、ごめ…ミーくん…ウチあ、足引っひっぱっちゃった…み、ミーくんに迷惑…」
「アレくらいなんでもねえって。めんどくせえからグズグズすんな」
「捨てないで…捨てないでミーくん…次は失敗しないから…」
「…お前はエロいからな。俺様の性欲を満たしてられる間は捨てねぇよ」
「ほんと…?ミーくん…ウチのこと捨てない…?」
「お前みたいなエロい女捨てる馬鹿がいるかよ。もういいから泣くな馬鹿」
「うん…ねぇミーくん…お薬ちょうだい…おくすりぃ…」
「はぁ…おい、アル。俺様の腰の所から薬入れとってくれ」
アルフィーユが言われるままにネフィリミーネの腰のあたりをまさぐり、小さなケースに入れられた数種類の錠剤を取り出し、手渡した。
「えぇ~お注射がいぃ~ねーミーくん~お注射のほうがきもちいぃのぉ~」
「だーめ。俺様注射痕嫌いなんだよ。エロくないからな…ほら口開けろ」
ネフィリミーネが自らの舌の上に数種類錠剤を乗せるとイヴセーナに口を開けさせ…口移しでその錠剤をのみ込ませた。
それをゴクリと飲み込み、数秒もすればイヴセーナは恍惚とした表情を見せ、やがて意識を失った。
「…あの、その薬…やめさせたんじゃなかったのですか」
「やめさせたよ。さっきのは睡眠薬とビタミン剤だ。せっかく思い込ませてんだからイヴに余計な事は言うんじゃねぇぞ」
コクリとアルフィーユが頷いたのを確認し、ネフィリミーネがイヴセーナを背中に抱える。
そのまま屋敷の中に戻ろうとしたところを頭を抑えたクイーンが出迎えた。
「…状況を説明していただけるかしら…ネフィリミーネ様。「中ボス」とお呼びしたほうがいいですか?」
「ははは久しぶりだなクイーンちゃんよぉ相変わらず可愛い顔してんなお前は」
というわけで度々言われていた「中ボス」の登場回でした。
実は以前に暇つぶしに書いていたボツ小説の主人公をこちらに移植した形なのでキャラが濃ゆいですね。




