両手の花
次回は未定です。
明日~火曜日のどこかに投稿します。
「ぎゃはははははは!!お前それマジヤバくね!?」
「やばいやばーい!ミーくんマジヤバぁ~!きゃははははは!!」
さっきまで静かだったはずのカフェにとても豪快というのかなんというか…な大声が響いた。
あまりに場違いなそれが気になりすぎて声のしたほうを見ると私たちからは少し離れた席に二人の女性が座っていた。
一人は背が高くガタイのいい女性で、ウルフカットと言うのだろうか?ワイルドな雰囲気の銀髪が特徴的だった。
そしてもう一人は中肉中背の赤毛の女性で、銀髪の人にほぼほぼ抱き着くようにしているのだけど、何より上半身が胸元だけ隠れているような刺激的な服を着ていて、剥き出しのお腹には黒い炎のようなタトゥーが広がっていた。
どう見ても危ない人たちだ。
間違いなくかかわると碌な事にならない…私の危険察知レーダーが今までにないほどの警報を鳴らしている。
「つーかさ?いくらヤバくてもパンケーキだけこんな五段重ねなんか喰えんの?甘さヤバくね?」
「えー?甘いものは別腹っしょー?ミーくんわかってないなぁ~」
「別腹ってかお前そもそもこれ食うためにって朝飯も抜いてたじゃねえか。そんなん別腹も何もないだろうがよぉ」
「だって太るじゃん!お腹ヤバくなる!」
「あ~?痩せすぎなんだよてめえわよぉ~!いつも言ってんだろうが俺様は細い女よりは肉付きのいい女のが好みだってよぉ~。もっと肉付けねえぇと夜の抱き心地がよくなんねぇだろうがよっ!」
「も~!ミーくんのえっちぃ~。マジヤバいんですけどぉ~」
ぎゃはははははは!!と二人は大声で笑う。
会話にヤバイが多すぎてマジヤバい。
騒がしいし、見てるほうが恥ずかしくなるくらい密着してイチャイチャしてるしでなんだかとても居心地が悪い…。
「ね、ねえアリス…ひとまず場所変えない?」
「いや、少し待ってくれ」
アリスは私に掌を突き付けて制止を促すと、女性たちを見つめながら立ち上がる。
ま、まさか行くつもりなの…!?
絶対関わらないほうがいいと思うのだけど!?
ただアリスの立場としてはああいう人たちを見逃せないというのもあるのかもしれないし…私はどうすれば…。
私が悩んでいる間にもアリスはついに一歩を踏み出して…今にも二人に向かって駆け出しそうになったその時だった。
「ネフィリミーネさん!イヴセーナさん!何をやっているのですか二人とも!」
私とアリスの横を通り抜けて大人しそうというか上品そうな服装の女性が騒がしくしている女性二人に駆け寄っていってしまった。
これは大変な事になるかもしれない…私は騒ぎになりそうならアリスの手を引いてここから離れたほうがいいかもと思いかけていた。
「あー?なにお前も仲間に入れて欲しいのか?あん?」
「いいじゃんいいじゃん。オジョウサマもおいでよ~パンケーキマジヤバくない?」
「ヤバいのはあなた達です!公共の場で下品に騒いではいけないといつも言っているでしょう!?」
「いいじゃねえかよぉ別にー。人も少ねぇし、飯食ってるだけだぜ?俺様達。なー?」
「ねー?なになに?もしかしてウチがミーくんと一緒にご飯食べてるから嫉妬してんのー?オジョウサマかーいーいーねー!マジヤバい」
「そんなんじゃありません!!恥ずかしいから静かにしてくださいほんとに…!」
少しヒヤッとしたけれどどうやら上品そうな女性も二人と知り合いらしく、最悪の事態には陥らなかった。
そして上品そうな人が「皆様申し訳ありません、本当にすみません!」と周囲に頭環下げていたのを銀髪の女性が手で遮って、赤毛の女性とは反対側に抱き寄せた。
タイプが正反対の女性を左右に侍らせる…あれが両手に花という奴なのだろうか。
「おーおー俺様の女が勝手に他人様に頭なんてさげんじゃんーよー。悪かったな他のにいちゃんねえちゃんたち!静かにするから勘弁してくれなー」
「マジごめーさーい。激ヤバ五段重ねパンケーキに…テンション爆上がりしちゃーってー。静かにしますー」
「全くもうあなた達は…」
なにがなんだか分からなかったけれど。それっきりで女性たちは静かになり、時折「やっぱヤバくない?」「ヤバいな」「カロリーが…」と小声で話しているくらいになった。
ホッと一息ついたところで…なぜかアリスが凄い勢いで三人に突撃していった。
「アリス!?なんで!?」
止める暇もなく女性たちがパンケーキをつついているテーブルに駆け寄ったアリスは二人を侍らせている銀髪の女性を正面から見つめて…ニッと笑った。
「久しぶりだな「にーねー様」」
「ん?おぉ小リスじゃねえか。相変わらず可愛い顔してんなお前は」
アリスの声かけに銀髪の女性は気やすそうに手を振りながら答えたのだった。
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【ミニコーナー その頃カララちゃん】
一方その頃。
アラクネスートの拠点である屋敷の通路をニヤニヤとした笑みを浮かべたカララがズンズンと大股で歩いていた。
その手には不思議な形のカギが握られており、鈍い銀色の光を放ちながらその存在を主張していた。
「ふふふふ…馬鹿ねあの女…カギにはね?スペアキーの他にもマスターキーってのがあるもんなのよ!見てなさいよ…このカララちゃんを馬鹿にした罪は重いって思い知らせてあげるんだから」
カララは持ち出しは幹部であっても禁じられているはずのマスターキーをくすねており、ルールを破ってまで向かう場所は当然ナナシノが一人留守番をしている部屋だ。
何が彼女をそこまで突き動かすのか…おそらくカララ本人にすら説明は出来ない。
無駄に入り組んだ通路を進み、階段を上ってナナシノのいる部屋まであと少し…と言うところでカララは大量の書類を抱えたアトラとすれ違った。
「ちょっとお待ちなさいなぁ~そこのメスガキぃ~」
「メスガキいうな。なによ?カララちゃん忙しいんですけど?」
やけにニヤついているカララの様子を不審に思ったアトラはかカララを引き留めたのだが、両手を塞ぐ書類邪魔をして手を出すことは出来なかった。
「…なにか企んでますぅ?」
「企むって何よ?」
「ん~…いえ~…ところで暇なら少し手伝って頂けません~?ちょっとお仕事がすごいことになってるんですよぅ」
「いやよ。カララちゃんデスク仕事は苦手だしぃ~」
「私だって苦手ですよぅ。でも見てくださいよぉ~これぇ~。ほんとに量が凄いんですてぇ」
「クイーンも起きてるんでしょ?ならあたしの出る幕はないわ!」
「胸を張って情けないこと言ってんじゃないですよぅ…はぁ。まぁいいですぅ~あんまり変なことしちゃだめですよぉ~」
アトラはため息をつくとカララに背を向けて歩き出した。
それを見送りながらアトラに聞こえないようにカララは軽く舌打ちをする。
(ふん!馬鹿にして!あのユキノって女もそうよ!調子に乗ってるとしたらカララちゃんじゃなくてあっちの方でしょうがっ!でもでもこの鍵で部屋の中にいるっている女を引きずり出して人質にとればあのむかつく女もあたしの言う事聞くかもだしぃ~?ぷぷぷ!でかい顔していられるのも今の内なんだから!…それにもしあの女に言う事聞かせられるのなら…リ──)
その次の瞬間、カララの視界が一変し世界が急に揺れかと思うと…地面が迫ってくるかのような錯覚に襲われた。
「あ!カララさん、そういえばそのあたりはさっきユキノさんがあなたを押し倒した時に床が一部溶けちゃってるので気を付けて…ってもう遅かったですねぇ」
「きゅう…」
見事にユキノがスノーホワイトの爪を突き立てていた床を踏み抜き、脚を取られたカララは床に顔面を強打して気絶したのだった。
そして現れる変な女。
主人公ヒロイン組が重めなので周りは賑やかし要因を配置するようにしています。




