同席
100話です!早い…。
なんだか久しぶりな気がする帝国の街中を歩く。
どうして私がいきなり帝国に戻ってきているのかというと、アトラさんに衝撃的な事を持ち掛けられて呆気に取られていると、以前図書塔で見たやたらとエッチなドレスを着たクイーンと呼ばれるお姉さんがやってきたのだけど…。
「少しいいかしら。あなたに伝言を預かっているのだけど」
そう言ってクイーンさんが私に伝えてきたのは…なんとアリスからのメッセージだった。
「話したいことがあるから可能ならば少しだけ戻ってきてほしい」
どうしてアリスが私がここに居るのを知っているのかと問えば「…一応今回の事件の件では協力者ではあるからこちらから連絡をしておいた」との事で…。
アレンさんの事もありアリスの立ち位置がよく分かってなかったのもあって少しぶっきらぼうな言い方になってしまったかもしれないけれど、クイーンさんは思いのほか普通に対応してくれた。
これが大人の余裕というものなのだろうか。
「実はクイーンって私より年下なんですよぉ~。それになんか扇情的な服を着てますがぁ~節約のために布面積の少ない安価な服を着ているだけの生娘ですぅ」
とか同僚であるはずのアトラさんから謎の密告を受けつつ私はひとまず話を切り合えてアリスの元に向かうことにした。
まずアトラさん…というかアラクネスートからの勧誘にいくら何でも二つ返事では頷けないし、どちらかと言えば断りたい。
ただ先ほどまでの邪神がどうこうという話を信じるのならば少なくともナナちゃんはここに居たほうが安全…なのかもしれないので悩んでいる。
しかし審議はどうであれ、今すぐナナちゃんを連れて帝国に戻るのは憚れるため、一度は家に戻って私物を取ってこなくてはと思ったのでちょうどいいかな?という…。
「あ、でもここって帝国の領地にあるの?あんまり長い間はナナちゃんの元を離れたくないんだけど」
「そちらについてはご心配なくぅ~」
やけにドヤ顔なアトラさんに連れられ、小部屋に入るとそこには何もない空間に大きな幾何学模様の陣のようなものが床に描かれていた。
私はそれに見覚えがあった。
図書塔の一番上の階にあった皇帝さんのお城に繋がっていた瞬間移動の魔法陣と同じ物だった。
「これを使えば帝国まで一瞬ですぅ。ささどうぞどうぞ」
「…アトラさんはついてこないの?」
「これでも今忙しいですのでぇ~んん~?もしかしてついてきてほしいのですかぁ?」
「いや…まぁなんでもいいよ」
私を監視とかしておかなくていいのかという事だったのだけど…いや、もちろんないほうが嬉しいんだけどさ。
ニヤニヤしているアトラさんをよそに魔法陣の上に乗り…一瞬の気持ち悪さと立ち眩みの後に人気のない一軒家の中に移動した。
「…まさかアラクネスートが買ってる家って事?どこまで手が伸びてるのあの組織」
秘密結社の底知れなさを感じつつ、家から出ると(鍵も事前にアトラさんに借りた)なんとうちから目と鼻の先の街中にでた。
…どうりでアトラさんが気軽に遊びに来るわけだ。
どれだけ長く見積もっても徒歩10分くらいだろうか…あまりにも近すぎる。
そんなこんなで私はアリスが待っているというカフェに向かっている最中というわけです。
帰ってきたはずなのに、なんだか…すっごく遠い場所まで来てしまった気がするよ。
もうすでにナナちゃんの所に帰りたい気持ちでいっぱいだ。
「あ、いた…おーいアリス──」
目的地にたどり着いてテーブル席に座っているアリスとリコちゃんの姿を見つけたのだけど、二人じゃなくて向かい側にもう一人誰かが一緒に座っていた。
ここからじゃ後ろ姿しか見えないけれど…とても長い青みのかかった黒髪のスラッとした体形の女性だ。
確実に知らない人なので声をかけるのを躊躇してしまう。
もしかしたら知り合いにばったり会っただけで少し話してるだけかもしれないから、ちょっと待ったほうがいいかも?と近くに席に座って女性がいなくなるのを待つことにする。
すると別に聞き耳を立ててるわけじゃないけれど女性とアリスの会話が断片的に聞こえてきてしまう。
「え!じゃあアリちゃん次は車に挑戦してみるの?」
「うむ。もう似たようなものは新型の馬車だと言い張って普及しているが完全な車ではないからな。いずれ再現できればと思ってるよ」
「ほほ~すごいねぇ。私は乗ったことないから皆が乗れるようになったら私もいつか乗りたいなぁ」
「…いや、作ってはみるが広めるつもりはないんだ」
「なんで?なんで?」
「馬車があるとはいえ車ともなると交通整備が大変になってくるだろう?余計な事故も確実に増えるからね。この世界の魔法を使った技術でどこまでやれるのかという検証のために作りはするが無駄に文化を荒らすのは望むところではないのだ」
どうしよう…聞こえてくる会話だけ聞いてても二人が何の話をしてるのか何もわからない。
アトラさん…私は何も賢くはなかったみたいだよ。
「そっかそっかぁ。アリちゃんらしいね~…っと誰かと待ち合わせしてるんだっけ?邪魔しちゃ悪いし私はそろそろ行こうかな。ほらリコリスも」
「うんー」
え!?っと私は驚きのあまり見ないようにしていたアリスたちの方を見る。
だって女性がリコちゃんと一緒にどこかに行こうとしている様子だったからだ。
あのいつもアリスにべったりなリコちゃんが他の人と一緒に居る姿が想像できない。
しかし私のそんな思い込みとは裏腹に女性とリコちゃんは仲良さそうに手を繋いで立ち上がっていた。
「アリスちゃん私がいなくても無理しちゃだめだからね。戻って来るまでじっとしてなきゃダメだからねー」
「分かってるわかってる。余の事は心配せずにリコも楽しんでおいで」
「うんーなるべく早く戻るねー」
そう言ってリコちゃんと女性はどこかに行ってしまった。
やはり二人はとても仲がよさそうで…あと気のせいかもしれないけれど女性から「キィ…」と何かが軋むような音が聞こえた気がしたのが少しだけ気になった。
あぁそれよりもアリスが一人になったのなら今のうちに話とやらも済ませてしまおう。
「アリス」
「おおユキノくん!…もしかしてずっといたかな?待たせてしまったかな?すまないね」
「ああ、うん…そんなにだけど…さっきの人って?」
「ん…余と話していた女性かい?あの人はリコの母親だ」
「え!?そうなんだ!」
それならリコちゃんが懐いているようだったのも納得だ。
後ろ姿しか見えなかったけれど…なんとなく雰囲気のある人だったな。
「もしかしたらユキノくんもあの人といつか話をする時が来るかもしれないね。その時のためにアドバイスをしておくと挨拶は絶対に返すことと、聞かれたことには素直に答える事。これだけは守ったほうがいいとだけ覚えておいてね」
「え?うん…」
この時の私は先ほどの女性がリコちゃんの母親という事は、リフィルさんの母親でもあるという事を完全に失念していた。
つまりはあの人もいわゆる普通の存在ではないという事を。
「さてさて、待たせてしまっていたのなら早速話をしようか」
「その前にアリス。一つだけいい?」
「なんだい?」
「どうして私がアラクネスートの所にいたってわかったの」
「それはあちら側から連絡があったと伝えられてはいないかな?」
「うん。じゃあさ…どうして私が呼びだされてすぐに来れるって分かったの?アリスってこんな急に予定を開けられるほど暇じゃないよね?アラクネスートの拠点がどこにあるとしてもこんな短時間でここまで来られるはずがないって思わなかったの」
アリスは私の問いかけに姿勢を正して顔に手を置いた。
何かを考えているのか…それとも私の考えを見透かそうとしているのか、感情の読めない視線がじっと私に向けらる。
「…余は今なにかを疑われているのかな?」
「ううん、ただ疑問なだけ。ちょっとわからないことだらけだから聞けば解決しそうな疑問くらいは消化できればって思ってるだけだよ」
「なるほど。まぁ座り給え。実は余もユキノくんの疑問を一つ解決する手助けをしようと思っていてね…アマリリスくんから聞いたよ。アレンくんになにやら不信感を持っているようだね」
「アレンさんになにか思うところがあるわけじゃないよ。ただ…アリスには良くしてもらってるからもし騙されてるとかなら教えてあげたほうがいいって思ってるだけ。何もないのなら…もしくはアリスが全てを知っているのなら私としてはそれでいいの。誰がどこにいて何をしようと私とナナちゃんに危害がないのならそこまで興味はないから」
「ふむ…なるほど、な。これはどうしたものかな」
手元の飲み物を一気に飲み干し、アリスは困ったように笑っていた。
もう100話という事実に震えが止まりません。
前作を完結させたばかりのような気がしていたのですが…お休みも含めて100数十日たっているってことですよね…早い。
趣味100パーセントの性癖丸出しのこの作品にいつも感想やいいね、評価等ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
大変励みになっており休憩時間などにふと確認をして感想が来ていたりいいねが増えていると「わぁああああああい!」とその場で喜んでおります。
もちろん評価等はせずとも読んでいるという方にも大変感謝をしております。
たぶん折り返しは過ぎてると思うので最後まで駆け抜けていきたいと思います。
(前作はもう半分、もう終盤と言っておきながらそこからかなり続いてしまったため信用はしないでください(笑)短くなったり伸びたりするかもしれません)
最近忙しく、この後も落ち着く気配がないのでたびたびお休みが挟まるとは思いますが、すでにエンディングは考えていて本当に趣味で「癖」を書き連ねているので私が事故にでも合わない限りは5億パーセント完結します。
折り返しも読んでくださっている方のひと時の楽しみになれるよう頑張っていきますのでよろしくお願いします!




