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聖女がおばさんってことが嫌だったんでしょうねえ。

「お前は偽物の聖女だヘリオーネ! よって私はお前との婚約を破棄し、真の聖女であるこのマルレーネと結婚する!」


 ある晴れた日に~

 私の婚約者となっている王は、職場である神殿から私を呼びつけ、こう言い放った。

 王の横には、私と同じ服を着た――って言うより、着せられた、だわね。

 若い娘が居る。

 着慣れない簡素な服に自分がどうしていいのか判らない、という表情だわ。

 そうね、十七~八ってところかしら。

 長い髪もそれまで結っていたのをいきなり解かれた様。

 まだ跡がついているわ。

 でも大丈夫かしら。

 何かぶるぶる震えてるじゃない。

 結婚ってねえ。

 こんな態度の若い子としようっていうのかしら。

 マルレーネ、か…… 

 そう言えば確かその名前、王の弟である大公家の末の娘じゃなかったかしら。それも確か、大公が街の女に生ませた。

 あらまあ! じゃあ何、姪じゃないの!

 何考えてるのかしらこの男。

 ってことを一気に考えていたら、返事をせい! とか言いやがりますから、答えてやりましょうか。


「はあ。左様でございますか」

「何だその言い草は! まあいい、とっととこの女を国外に追放しろ!」


 そう言って兵達に私の周囲を取り囲ませる。


「国外、でございますか」

「何度も言わすな! 国外と言ったら国外だ!」

「判りました。それではごきげんよう」


 マルレーネとかいう少女には可哀想なんだけどな。

 確か、大公も最近になってその存在に気付いて引き取ったんじゃなかったかしら。

 それで引き取ったはいいんだけど、身分の高さからなかなか結婚できない娘や息子達の中で、小さくなっているとか。

 それを久々に訪ねてきた王が何をとち狂ったか、見初めちゃったってことね。

 でも姪は無いわよ!

 何かすがる様な目で見ているわね。

 さてどうしたものかしら。だいたいそもそもあの子、どう見ても聖女の力なんか見当たらないんだけど。



 さて。

 私が色々考えている間も兵達の動きはてきぱきとしていた。

 まあ王は前から私との結婚なんぞ、と思っていたんだろうな。

 何たって私が聖女として見つけられた時点で四十代。

 それから数年して、もう五十近い。

 向こうもそのくらいの年齢なんだから、客観的に見ればお似合いだけど、まあーーーーーー無理でしょうね! 

 常に美女とかその辺りの貴族の奥方とか献上させてる様な王だから!

 なのに聖女とは結婚しなくちゃならない、ってことで正妃の座はずっと空けられておいたって言うんだからね。

 さすがにこの王はもういい加減堪忍袋の緒が切れたってところでしょうよ。

 でもねえ、こっちだって溜まったものじゃないのよ。

 もともと聖女とか何とやらと言っているのは、広域の守護力を持つだけのことで、どっちかというと魔力なんだわね。

 ただそれがどういう仕組みで成り立っているか、っていうことがこの国は研究されていないのよ。

 私はこの国に来た時に、あまりにも荒れ果てているから、ちょいと力を使ったらそれで見つかってしまった次第だけど。

 そう、聖女というよりは魔女の部類なんだけどなあ。

 その違いも判らない神殿も眉唾だし、そもそもこの国、何の神を何のために祀っているのかも体系だっていないじゃない。

 新しい国と言えばそうなんでしょうけど、形として酷すぎる。

 うーむ。

 そんなことを考えていたら、私はさくさくと連行され馬車に押し込まれ、国境の森で突き飛ばされた。

 やれやれ、と今さらの様に思った。

 まあ別に追い出されたところで、不便は無い。

 そもそもこの国に来たのだって、転移魔法で砂漠を越えてきたくらいで。

 こんな小さな国家より距離があるのだもの。もう一度戻ってあの子を連れ出すくらいは簡単だわ。

 それに私の下着(おばさん下着でがばがばだと笑われている)が無制限マジックボックス仕様になってるなんて、まあ誰が知ってるだろう。

 だからまあ、いざという時のために路銀だの食料だの野営道具だの詰め込んでおいたけどね。

 私だけなら別に、砂漠越えた元々育った国そのものに飛んでもいいんだけど、あの子連れてだと多少変わるかな?

 とりあえずはあの可哀想な子を救い出しに行こうか。

 よっ、と私はマルレーネを思い浮かべて転移した。

 するとちょうど王に手込めにされそうになっているところだった。


「な…… お前、追放したはずじゃ」

「おばさま!」

「おお、おばさま来ましたーーー! お嬢さん、この自分の姪に欲情する変態のために聖女するのと、このおばさんについて旅するのどっちがいい? それとも実家が心配?」

「助けて下さいおばさま! 実家なんて…… あんなところ…… 潰れてしまえばいい!」


 ぱん、と私は手を打った。

 途端に王の身体が浮き上がり、彼女から離れる。


「おばさまあああああ」


 彼女は私にしがみついてきた。

 ああもう可哀想に。

 手とか荒れてるわ。

 色々今まで辛い目にあったのね。


「き、貴様ーーっ! 下ろせ! すぐに儂を下ろすんだあああ! 衛兵!」

「まあまた適当に自分の好みの女を聖女ってことにすればいいわ。そもそも衛兵だって今はしっぽりやってるから入るなとか言ってるんじゃない?」

「この年増女が!」

「年増だから色々知ってるんじゃないですか。だいたいこの国、何を聖女としているか判ってないし。じゃあね」


 そして私はマルレーネと供に国境の森に転移した。



「ここは……」


 マルレーネはこんなところに来たことが無いのだろう。

 目をぱちぱちさせて周囲を眺める。


「私がさっき追放された場所よ。国境ね」

「おばさま、何かしら、この先が薄緑の光でぴかぴかしてる……」

「あら本当に素質あったのかしら。よし、まあこれ解いておきましょうか」


 ぱん、とまた手を叩く。

 途端に光が消える。


「これが聖女の加護ってやつ。というか魔力。この小さい国全体にかけていたんだけどねえ。貴女そのままあそこに居たら、これを出せって言われてたところよ」

「ええっ! そんなことできませんっ!」

「そうよねえ。馬鹿ばっか。そんじゃ行きましょうか」

「え、何処へ?」

「何処へでも。ともかく今から魔物はこの国に集中するから、私達は安全に旅ができるわよー」

「……なるほど、そうですね!」


 彼女は両手で拳を作って握りしめた。

 実際遠くからどどどどどどど、という音がし始めた。

 おお、今まで溜まっていた分が一気に来るな。


「それじゃあ行くわよ」

「はいっ」


 私達は跳んだ。

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