第8話 その正体
感じた殺意の先にいたのは、金髪の少年。
髪が長く、後ろで縛っている。手にレイピア、服装は華やかな礼装という感じだ。
「アリス王国の騎士、それも剣聖と呼ばれる実力者。
ルイス・リードブレル……!」
オルタはそう言った瞬間、椅子が音を立てて倒れた。
ルイスは、誇らしげな表情でこちらを見ている。
剣聖、そう呼ばれていても2対1。
俺の事を知らなくとも、オルタの事は知っているだろう。
相手にとって絶望的な状況であることに変わりない。
誇らしげ表情は変わる事なく続けている。
一体、何処にそんな余裕があるのか。
レベラがそんな事を考えていると、ルイスがレベラに対し、一瞬で距離を詰め、突きを繰り出す。
レベラが後ろへ退がると、オルタが腰から抜いた剣でレイピアの突きを、弾く。
オルタが弾いた瞬間にできた隙に、剣を振り下ろす。
ルイスに当たる寸前、ルイスの身体が歪んだように見えた。剣はルイスの身体を通り抜けた。
否、剣を避けるように身体が歪み続けたのだ。
その後、オルタが加えて、攻撃をする。
全ての攻撃が歪んで、当たらない。
「何となく理解した。お前、能力持ちだな?」
能力ーー
魔法の類いとは、全く別物の魔法に近い現象を起こすもの。魔法より高い性能を、持つ事が多い。
「そう、僕は神に祝福された身。たが、これ以上話す必要はない。任務を遂行する」
ルイスは、俺を狙っているようだったが、俺より前で構えていたオルタに対し、素早い突きを連続で繰り出した。
「神に祝福?じゃ俺の周りのヤツらは祝福されてるヤツ多いな。祝福されてるなんてお前の勘違いじゃねぇのか?」
確かに能力持ちは、時折、神に祝福されている。と言われることがある。それほど、珍しいものだった。
しかし、レベラの周りに能力持ちが多いことも事実だった。
それを知った上でのレベラの挑発に、ルイスが一瞬、悔しそうな顔をしたが、オルタを敵にして、挑発に乗る余裕は無かった。
「レベラさん、ここは任せてください。あなたを狙っている。逃げた方が良い!」
ルイスの猛攻に対応しながらも、俺に逃げるよう指示した。場違いにもその対応力に関心してしまう。
「おう、任せた」
オルタに聞きたいことは聞くことが出来なかったが、友人と再会できたことにレベラは少し満足していた。
レベラは窓から飛び降り、敷地内の大きな庭を縦断した。
「アリス王国のヤツらが城の中まで来てる。
急がねぇと!」
最悪の場合、すぐに戦争が起こるほどに事態は進行している。
信用していいのか分からないアイツらに頼まれた、『戦争を止めてほしい』という願いに俺は応えたいと思っていた。
信用しなくとも、行動を共にし見極めたい。
そんな思いもあった。
切実な願いに俺は疑いたくなかったんだろう。
そんな事を考えながら、ドロップたちの待つ、宿へと全力で向かっていた。