第3話 当然の確認事項
路地裏の奥、薄暗い場所に宿の裏口があった。
「ここです。会わせたい人がいるんです」
赤髪の青年は、そう言うとゆっくり扉を開けた。そそくさと二階へ、上がり、突き当たりの部屋へ行く。
そして青年は、扉をノックして部屋に入る。
部屋の中には水色の髪をした少女が、椅子に座っていた。
「姫、連れて参りました!」
青年が、明るく言うと『姫』と呼ばれた少女が、
「あなたがレベラさん?」
首をかしげて、質問される。
俺の名前を知っていることから、怪しむべきだろうが、そんなことを気にさせないような無垢で純粋な疑問。
「あぁ、俺が、レベラだ」
そう素直に答えた。しかし、
「それより、聞いてもいいか?」
やはり、名前を知っている件に関しては聞いておかなけばならない。
「どうして、俺の名前を知ってる?それと、
お前、この国の姫じゃないだろ」
その問いに少女は、躊躇いなくお淑やかに答えはじめる。
「申し遅れました。私、アリス王国王女、
フィリム・モネラ・アリスと申します。それと…」
名乗った後、赤髪の青年に視線を送ると慌てて、
「あっ!僕は、ドロップ・ノスタレスと言います。姫の護衛をしております!」
護衛、コイツが…?どうも頼りになるヤツには見えない。いや、実際頼れないだろう。
レベラは、ドロップに疑問を持ちながらも話を続けた。
「なるほど、それで名前については…」
「あの!それについてはですね!」
「喋り始めんの早ぇって…!」
今にも、話したいと言わんばかりに目を輝かせて、こちらを見ている。
レベラは溜め息をついた後、
「で…?なんだって?」
「はい!僕らがどうして、あなたを存じ上げているかについて、しっかり話させていただきます!」
テンションが高い。っていうかウザい。
そんなドロップが少し、テンションを下げて話し始めた。
「まず、ちょうど一年ほど前にアリス王国とここシルギア王国との間で戦争が起こったのは、ご存じですよね。その最中で…」
「ちょっと待て!!」
話の内容に驚き、思わず声を上げる。
「どうしました?」
ドロップたちの表情から分かる。
コイツらは冗談を言っているわけではない。
「ここ数年、シルギアとアリスは停戦状態。
それが今も、続いているんじゃないのか?」
「いいえ、確かに結果として現在も停戦状態ではありますが、突然、その戦いは始まりました。その被害で今もアリス王国内は復興作業が続いています」
その出来事は俺の知らないこと。
ということは……
「じゃあ、アリスの王位継承が行われたのはいつの出来事になってる?」
レベラは理解し始めていた。目覚めてから抱きつつあった一つの疑問の答えに。
「その戦争の、一ヶ月ほど前だったと思います」
アリス王国の王位継承。その出来事が俺にとっては、一ヶ月前の出来事。
「要するに俺は、一年もの間、眠っていた…?」