予定調和ですが何か
皇太子が納得しかけたところで王子が慌てて問いただす。
「待て、貴様はコンスタンツェの護衛だな!
身内の証言など信用出来ん。この場での偽証は重罪だ。覚悟しておけよ!」
「確かに私はコンスタンツェ様の護衛をしておりましたが、国王陛下のご指示によるものです。
私は国王陛下の護衛でございます。」
それを聞いてカール王子は青ざめた。
国王の護衛というのは国王にとって最も信頼の厚い者ということだ。
国王の護衛は表向きは近衛騎士が務めるが最も身近にはこの者のように目立たない容姿の国王を盲信する腕利きの一族が代々務めている。
その者の証言を否定することは国家反逆を意味する。
「そうであったか。失礼した。
しかしなぜコンスタンツェ嬢に国王の護衛が付けられたのだ?」
★★★
ツェーザル皇太子はラウエンシュタイン王国から帝国に戻ってから妃探しは止めてしまった。
病を得て急速に衰えた皇帝に代わり政務を精力的にこなしながらラウエンシュタイン王国へ放った密偵からの報告で動静を確認つつ機会を窺っていた。
事態が動きだしたのは3年後、コンスタンツェが貴族学園の2年次に進級して間もなくカール王子が堂々と浮気をし始めたのだ。
1年間そのまま泳がせてからラウエンシュタイン王国に密かに出向き、国王と公爵と密会した。
息子の愚行に頭を悩ませていた国王は婚約解消に異存はなかった。
ラウエンシュタイン王国からレーム帝国の皇后が誕生するという方がダメ息子の尻拭いをさせるよりもはるかに益がある。
公爵もカール王子には失望していたので渡りに船といったところだった。
政略結婚とはいえ婚約者のいるまま周囲に隠すことなく浮気をするなど王族であっても非難されて当然のことだった。
カール王子は立太子される見込みがなくなっていた。
コンスタンツェは慎ましく冷笑するだけで十分な意趣返しとなることを理解していたのだ。
王位継承権2位は王家の血をひくランメルツ公爵家のコンスタンツェの弟である。
コンスタンツェの婚約解消と同時にまだ幼い王女と婚約をすることが確認された。
しかし超大国の皇太子が格下の国の王子の婚約者を奪うという図式は不味い。
公爵家の令嬢が自国の王子から帝国の皇太子に乗り替えたという醜聞はそれ以上に不味い。
ということで彼らの貴族学園卒業を待って、成人した双方の意思確認をして後腐れなく婚約解消をした後に改めてレーム帝国から打診する手順を踏むということになった。
将来のレーム帝国皇后であるコンスタンツェに国王の最も信頼の厚い護衛を付けたのは当然と言えた。
★★★
「ああ、それな。
実は君が婚約者を邪険に扱っていると聞いて、望まぬ結婚は双方ともに不幸だから関係を見直した方がよいと国王に助言したのだ。
もし婚約が白紙に戻るようだったら私がコンスタンツェ嬢に求婚することになっていた。
国王が気を利かせて護衛を付けて守ってくれていたようだ。」
「「「ええー!」」」
「しかしすでに婚約は解消されたようだな。
コンスタンツェ・ランメルツ、私の一目惚れだ。愛している。
私とともにレーム帝国を導いてはくれないだろうか?」
「…はい。」
耳まで真っ赤になったコンスタンツェの初々しい様子とプロポーズが上手くいって上機嫌のツェーザル皇太子とは対照的に未来の大帝国皇后を冤罪で断罪してしまって真っ青のカール王子。
最初から階段上に独り立たされたまま放置され、狂言がバレた後もそのまま見せ物となっているフローラはすでにこの世のものとは思えない白さだった。
フローラは慶事を血で汚せないという理由で処刑は免れ修道院送りになった。
常識がないままに貴族として生きるよりは幸せだっただろう。
実家のヘルマン男爵家は監督不行き届きの罰金のみで済んだ。
カール王子は謹慎を終えた後、コンスタンツェの弟と入れ違いに公爵家に入って継ぐことになった。
トップでなければそれなりに使えるとのツェーザル皇太子の言が決め手となった。
断罪劇から一転しての世紀のプロポーズは後世にまで語り継がれたという。