そして現場検証へ
大階段というのは本校舎の吹き抜けとなっているエントランスを入るとすぐ目の前に存在を主張する二階へと真っ直ぐに繋がる幅広の階段である。
階段を上がると横向きに通路があって突き当たりはそのまま壁となっている。
通路は両端で大階段側とは逆向きに折れ、窓の並ぶ2本の廊下となってその間に各教室が収まっている。
教室には直接外に開かれる窓は無いが廊下に面した窓があるので十分明るい。
安全面での配慮と貴族の子女が直射日光に当たらないようにということらしい。
一階は階段脇からそのまま二階と同様の廊下になっている。
この大階段を上がった通路が事件現場である。
ここに加害者とされたコンスタンツェ、被害者のフローラ、告発者のカール、4人の目撃者、なりゆきでオブザーバーにおさまったツェーザルが集った。
その他の生徒は階段下のエントランスで見守っている。
「さて、他国のことではあるが公爵家の令嬢が犯した罪を明らかにするという重大事であるのでレーム帝国皇太子であるこの私が立ち会うとしよう。
私も真実が知りたくなってきた。
みなさん、嘘はいけないよ。」
あきらかに面白がっている様子の皇太子が軽い調子で切り出したが、偽証などしようものならば一族もろとも重い処罰は避けられないことになった。
場馴れしている王子と公爵家の令嬢は涼しい顔をしていたが他の5人は極度の緊張からか青白い顔をしていた。
「ではカール王子、事件のあらましを話してくれ。」
「はい。一週間前の昼休憩の時間、ちょうどこのくらいの時間ですね、
フローラ嬢がコンスタンツェ嬢にここから突き落とされたのです。」
「うむ。フローラ嬢、この場に立ってくれ。
では目撃者の話を聞こうか。カール王子、続けてくれたまえ。」
「では、まず階段の途中にいたお二人にお願いしましょう。
事件の時の立ち位置に行って見聞きしたことを話してください。」
皇太子の指示に従い意外に手際よく進行していく王子。
目撃者1&2は子爵家の令嬢と男爵家の令嬢で従順に階段の中ほどの左寄りに移動した。
階段を上がりきった真ん中あたりに立ったフローラを除く関係者も同時に移動して話を聞く。
「彼女とお話をしながら階段を上がってきたのですが、
上から言い争う声が聞こえてきまして視線を向けるとフローラ様の後ろ姿がちょうどあのように見えました。」
目撃者1の後を継いで目撃者2が話す。
「フローラ様はそのまま振り返ると同時に突き飛ばされたように飛んでこられ
階段をそのまま転げ落ちていかれました。」
「なるほど。それで言い争っていたとの証言だが、何を言っていたのかな?」
「急なことで内容までは分かりませんでした。」
「では、突き飛ばされたように見えたとのことだが、誰が突き飛ばしていたのかな?」
「見ていません。ここに立っていただくと分かると思いますが
フローラ様のお姿より奥は角度的に見えないのです。」
「よく分かった。ありがとう。
カール王子、続けてくれたまえ。」
「では次に廊下から駆けつけた方にお願いしましょう。」
目撃者1&2を解放して目撃者3の伯爵家の令息とともに階段を上がってフローラの横を抜け、左側廊下の角に移動した。
「叫び声を聞いたのはこのあたりです。」
「誰が何と言っていたのかな?」
「フローラ嬢が「コンスタンツェ様、離してください!」と言いました。」
「他には?」
「私が聞いたのはそれだけです。直後に絹を裂くような叫び声と何かが転がり落ちる大きな音がしたので慌てて駆けつけたのです。」
一同は角を回って通路に出る。
「ここでコンスタンツェ様の後ろ姿を見ました。」
「他の人はいなかったのかな?」
「昼休憩だったので人影はなかったように思います…。
あ、そういえばこの方がコンスタンツェ様の向こうに見えた気がします。」
と言って目撃者4を指した。
「よく分かった。ありがとう。
カール王子、続けてくれたまえ。」
「では最後の目撃者の方、お願いします。」
一同は目撃者4と通路の先に進む。
「私はコンスタンツェ様の前を歩いていました。
フローラ様はあの位置に立ち、どなたかをお待ちのご様子でした。
私が通路の真ん中を歩き、コンスタンツェ様は壁側の後方という位置関係になります。
私がフローラ様の脇を通り過ぎますとフローラ様はお一人で「やめて!何するの!コンスタンツェ様、離してください!」と叫んだと同時に階段に向かって飛び込んでいかれました。」
「ふむ、フローラ嬢の狂言ということだな。」