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疑惑の階段  作者: ran.Dee
3/5

ヒーロー登場

「おや、これは面白そうだ。見学させてもらうとしよう。」


断罪劇に場違いなノホホンとした言葉が壇上の舞台ソデから投げかけられた。

宙に浮いた言葉とともに登場したのは細身だが引き締まった身体に漆黒の軍服を纏って銀髪を伸ばし、鋭すぎるグレイの瞳をモノクルで半ば隠した美しく若い男。

超大国である隣国、レーム帝国の皇太子であるツェーザル・フォン・レームである。

中堅国であるラウエンシュタイン王国とは多くの国境を接しているレーム帝国は公式には友好国として対等の関係である。

とはいえ、国力が違いすぎるため今のところ帝国が属国にはしない方針をとっているというのが実情だ。


「「皇太子殿下!」」


会場全体が礼をとろうとするところを手をあげてとどめた。


「カール王子、コンスタンツェ嬢、久しぶりだね。」


「「ご無沙汰しております、皇太子殿下。」」


「君たちの卒業式と聞いて来てみれば、なぜかこれから現場検証を行うというじゃないか。

見せてもらっていいかい?」


「はい。もちろんです。ご自由になさって頂いて問題ありません。」


格上の友好国の皇太子は旧知の間柄である。

破棄したばかりの婚約者に対する断罪劇を観察されるのは非常に困るのだが締めだすわけにはいかず、また、始めてしまったら最後までやり通すしかないと思い定めているので冷や汗を大量にかきつつも首肯せざるを得なかった。

いっそ狡賢(ずるがしこ)い女の本性を絶対権力者の前で暴き出してやろうと覚悟を決めた。


「ありがとう。」


皇太子は笑顔で頷いただけでも息苦しくなるほどの圧がある。

カール王子はフローラが階段から落ちてきたところに居合わせたがコンスタンツェが突き落としたところは見ていなかったためその場にいた目撃者を3人確保していた。

彼らの話からコンスタンツェの犯行を確信していたが万全を期すために現場に移動する前に他に目撃した者がいれば名乗り出るように告げたところ1人の男子が申し出て目撃者は4人となった。


★★★


ツェーザル皇太子がコンスタンツェと出会ったのは5年前の夜会だった。

当時、18才で成人し立太子したツェーザルは帝位継承までに妃を決めなければならず外交交渉にかこつけて諸外国の王侯貴族との交流を積極的に行っていた。

ラウエンシュタイン王国にもその一環で来ていたのだ。


「ツェーザル皇太子殿下、紹介しよう。

こちらの二人が我が息子のカールと婚約者のコンスタンツェ・ランメルツだ。」


ちょっと生意気そうな見た目に反して視線が動いて落ち着かない気持ちが表れてしまっている王子サマとは対象的に12才にしては堂々たる淑女ぶりで気品溢れる美しさの公爵家の令嬢。


「はじめまして。ツェーザル・フォン・レームです。」


「はじめまして。カール・ラウエンシュタインです。」


「お初にお目にかかります、ツェーザル皇太子殿下。

ランメルツ公爵家長女コンスタンツェでございます。

以後お見知りおきくださいませ。」


ツェーザルは王子サマのこめかみが一瞬だけひくついたことに気づいた。

婚約者のことが気に入らないのだなと見抜いた。

それから世間話を少ししたのだがカール王子は凡庸な印象が覆らなかった。


「殿下はこの夜会で使用されている美しい食器類が我が国の職人たちが作り上げた伝統的な陶磁器であることをご存知のことと思いますが、私は数日前に教わりました。

我が国の土のみがこの輝きを作り出すことが出来るのだそうですわ。

当たり前にある日々の生活を彩る便利なもの美しいものもその土地の人々によって長い年月をかけてその土地の風土に最善の形で作られていくのですね。」


年相応の無邪気な話題に見えて最近帝国内で囁かれだしたラウエンシュタイン属国化の動きを必死に牽制しようとする少女に感心させられた。

話題豊富で機知に富んだ令嬢との会話を楽しんでいたが、隣に所在無げに控えていたカール王子が痺れを切らせたようだ。


「コンスタンツェ、そろそろ御前を失礼しよう。

私たちだけで殿下を独占してはいけないよ。」


「え、ええ…長々と申し訳ありません。御前失礼いたします。」


周囲から失望のため息が漏れていたのをカール王子だけが気づかずに二人は去っていった。

もう少しで大帝国の皇太子から両国の友好を維持する旨の言質がとれそうだったからだ。

さすがに落胆の色が隠せないラウエンシュタイン国王に同情した。


「…苦労するな。」


「ええ…」


「令嬢の奮闘は無駄にはしないさ。両国の変わらぬ友好を祝して乾杯!」


さりげなく周囲を囲っていた王国の重鎮たちが歓声を上げて盃を交わした。

王子はすでに同年代の取り巻きとともに離れたところで楽しげに語らっていた。

令嬢は少し離れたところで父公爵とともになりゆきを見守っていたが安堵した様子で目礼した。

令嬢の愛国心と度胸に胸を打たれたのもあるがもう一つの感情が芽生えるのも感じていた。


(可愛いな)


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