断罪は既定路線
「コンスタンツェ、君がちょうど一週間前のあの日、醜い嫉妬に駆られ、ここにいるフローラ嬢を大階段から突き落としたことが判っている。
複数の目撃者からの証言も得ている。
男爵家と公爵家、大きな身分差があるとはいえ、貴族籍を持つ者に危害を加えることは国法に反する。
無駄な足掻きはやめるんだ。」
★★★
フローラ・ヘルマンは田舎男爵家の三女である。
姉二人は歳が離れていて物心つく頃には近隣の貴族家に婚約者がいた。
それぞれ男爵家にとって益のある相手であったので大事にされて両親、使用人、領民からの祝福を受けて嫁いでいった。
年子の弟が長男であり唯一の男児である。
弟は長年待ち望んだ嫡男として大事に大事に育てられたが、ひとつ違いの姉は違った。
男爵家にとって直接的に旨みのある家にフローラの年回りに近い相手がいなかったのだ。
虐待こそされなかったが姉弟に比べたら愛されていないことがあからさまだった。
小柄で綿毛のようにフワフワしたブルネットの髪に大きく潤んだ榛色の瞳の可愛らしい妖精じみた雰囲気とは裏腹のわがままボディにいつのまにか育った娘を見て、男爵は「もしかして大きな魚でも釣り上げるんじゃないの」なんて無責任な期待をもとに「自由にしていいから結婚相手はお前が見つけてくるように」と指示して王都の貴族学園に送り出した。
実家で碌な教育も与えられずにちょっと歪んで育ってしまった童顔巨乳は、当然ながら入学後やらかしまくった。
位が高そうとか金持ってそうとかカッコいいかもとか、そういう男子に手当たり次第にアプローチしていったのだった。
婚約者に対するコンプレックスを拗らせまくった王子が釣り上げられたのは必然だっただろう。
カール王子は賢い女が殊の外嫌いだったから、この何をやっても間違うドジっ娘がどストライクだったのだ。
カール王子がほとんど交流のないままの婚約者とともに2年次に進級した時に新入生として入学してきたのがフローラだった。
ひと月も経たないうちにフローラの悪評は上級生にまで届いていた。
必要以上に出来損ない王子としての自覚の強いカール王子は多少の判官贔屓もあって問題児のフローラに接触してみたのだ。
結果、瞬殺だったのだが。
それからは誰憚ることもなくニコイチとなって学園内を闊歩していた。
周囲は問題児の保護者が出来てホッとしたのと同時に王国の将来に暗雲が立ち込めたことを憂いた。
そんな最中でもコンスタンツェだけは素知らぬ顔で学校生活を謳歌していた。
★★★
「そのような戯れ言を本気でおっしゃっているのですか殿下。
もしかして我が公爵家は王家から疎まれているのかしら?」
カール王子は怯んだ。
婚約破棄からの勢いのままにコンスタンツェに罪を認めさせた後、温情を示して軽い謹慎処分を申し渡すことで公爵家に恩を着せて、家柄の低い妻を娶った後も後ろ盾をさせる算段だったのだが、初手から王家による公爵家への隔意を公衆の面前で問われてしまったのだ。
「バ、バカを言うな!ランメルツ公爵家は関係ない。
貴様自身の品性を疑っているのだ!
は、話をすり替えるんじゃない!」
「お疑いということでしたら、まずそれを晴らす必要がありますわね。
分かりました。これから現場検証をいたしましょう!」
「え?」