探偵助手は探偵のエスパーぶりに溜息が尽きない
『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』投稿作品です。
指定キーワードは『助手』。
探偵とエスパーという、無茶な組み合わせをお楽しみください。
とある探偵事務所。
事務所の主である探偵は、紅茶のカップを傾けて空にすると溜息をつく。
「なぁ助手」
「何ですか先生」
「暇だね」
「暇ですね」
「先月華麗に殺人未遂事件を解決したのに何でだろ? 警察から依頼がバンバン来るかと思ったのに」
「その解決方法に問題があったかと」
助手の言葉に、探偵が目を見開いた。
「……どのあたり?」
「いくら『手で触れた人の心が読めるエスパー』だからって、部屋に入った途端全員に握手を求めた挙句、『犯人はあなたです』は色々すっ飛ばしすぎです」
「だってわかっちゃうんだもん。善は急げって言うし」
「で、犯人お決まりの『証拠はあるのか!』に『ないけどあなたは犯人です。間違いない』は、周囲からはもはや言いがかりレベルに見えましたよ」
「ふむー」
探偵は納得と不満が混じった息を吐く。
「でもその後ちゃんと心を読んで、凶器とか犯行の流れとか動機とか言ったじゃん」
「それが一番まずかったですね」
「え、何で?」
「凶器と犯行の流れまでは良かったんですけど、観念した犯人が動機を語ろうとしたのに、先生全部言っちゃうんですもん」
助手の指摘に、探偵ははたと手を打った。
「あー、言わせてあげた方が良かったやつ?」
「良かったやつです。特にとどめを刺そうとしてやめたくだりは、先生が無駄に情感を変に込めたせいで、さらに空気が微妙になりましたし」
「良かれと思って」
「あの後皆様『お、おう……』って言ったっきり、静かになったじゃないですか」
「あれ私の語りに感動してたからじゃなかったんだ」
「なかったんです。刑事さんが手錠かけるタイミング見失って、危うく逮捕しないまま解散になるところでした」
「助手がフォローしてくれて助かったよ」
笑って言う探偵に、助手は溜息をつく。
「全く先生は手で触れられれば心がわかるからって、それ以外に対して雑なんですよ」
「面目ない。私は助手なしには生きていけないね」
にこっと笑って言う探偵から、助手はふいっと目を逸らした。
「……そういうところですよ」
「え? 何?」
「お茶のお代わりはいりますか、と聞いたんです」
「あ、お願い」
「お茶菓子は?」
「クッキー!」
「はいはい」
助手は足早に給湯室に姿を消す。
じきに甘く温かな香りで部屋が満たされていった。
読了ありがとうございます。
探偵と助手の性別は、あえて設定してません。
ぽやんな男探偵の世話する世話焼き女助手でも、ほんわか女探偵をやれやれと助ける男助手でもお好きな方で。
……同性、そういうのもあるのか。
配役を入れ替えて読み返してもらったら楽しいと思います(個人の感想であり効果を保証するものではありません)。
次回キーワードは『サイコロ』、よろしくお願いいたします。