リモート婚約破棄
「さっきから聞いてるう? だからぁ、悪いけどぉ、あんたとの婚約はなしね~。これでサ・ヨ・ウ・ナ・ラ。ばいば~い!」
そう言って、彼女は一方的に通話を切った。話を要約するに、5年間の付き合いは常に退屈で堪らなかったし、そもそも全くタイプではなかったけれど、お金を持っているということだけが魅力だったので婚約をしたが、最近、金持ちでそれなりにルックスが良くて、世間知らずな男と出会ったので、婚約は破棄するということらしい。
べろんべろんに酔っぱらっていたのは、これからの玉の輿生活を夢見て祝杯をあげていたからだろう。その夢は絶対に叶うことがないけれど。
そもそも、僕は彼女と婚約していない。彼女が自慢げに話していた新しい夫候補というのが僕なのだ。泥酔しているせいで、僕を婚約者と間違えて、盛大にリモート婚約破棄をかましてしまったようだが、画面を見ても気付かなかったというのが恐ろしい。ほぼ一方的にまくしたて、1分半で話を打ち切ったのも原因だろうけれど。
それにしても5年の交際期間に1分半でピリオドを打つなんて……すごい女もいたもんだ。あまりにも依頼者の話通りでびっくりした。
元々、彼女に近づいて誘惑し、婚約破棄を引き出すのが僕の仕事だったわけだが、まさかこんな斜め上の展開になるとは思わなかった。一応彼女の通話は録画しているけれども、僕は法律の専門家ではないので、この発言が不当な理由による婚約破棄であると法的にみなされるのかどうかは分からない。
取りあえず、このデータを依頼者に渡して、早いところ彼女と連絡手段を断ちたい。倫理観の欠片もない最低の商売に手を染めている自覚はあるが、今回ばかりは正義の味方でも演じているかのような気分だったから不思議だ。
依頼主曰く、元々はここまで酷くなかったらしいのだが、彼が彼女の美しさを称賛するたびに色々と増長していってしまったらしい。世の中、褒めて育つタイプだけではないということだろう。正直、責任を持って最後まで面倒を見ない彼もどうかと思うが、おかげで仕事にありつけているのも事実なので文句は言えない。
しかし、あの短時間で3回も強烈なゲップをお見舞いされたのは、リモートとはいえ精神的にきつかった。早いところ愛しのイザベラに、このどうしようもない不快感を癒して欲しい。そんなことを思っていたら、彼女からの通話が届いたようだ。これぞまさに以心伝心だな。
「アラン、ちょっと大事な話があるんだけど……」




