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「────そんな訳で、是非とも協力して欲しいん」

「拒否!」

「うーん、理由を聞いてもい」

「黙秘!」


ギュルカン曰く、王立魔石研究所は今存続の憂き目にあっているらしい。

人族の王国では、魔石の数は一部の貴族が使うものや軍事用のもので手一杯で、研究所に回される石が少ない。それ故魔石の研究は思うように進まず、魔石ではない鉱物の研究が主だったものである。


なら「魔石」研究所の意味なくない?

そんな声が現在議会で取り上げられており、国からの研究開発費の大幅な削減と魔石の供給停止が目前なのだという。


「国に対する多大な功績でも上げられなければ、我が研究所はなくなってしまうんだ」

「そうですか、そりゃお気の毒」

「ちょーっと助けてくれればいいんだけどなあ。例えばほら、魔石が埋まってる鉱脈のヒントでも」

「はっはっは、何をおっしゃいますやら。魔石はダンジョンの最深部から採集するもんでしょ」

「いやいやいや、分かってるよねレディ」


出たよ、お貴族様の得意芸。腹の探り合い。

探られる腹は多分にあるが、腹芸の得意でないギゼラは早々に離脱した。


「生憎、私の一存で喋れる事はまずないですよー。下手すりゃドワーフ族全体を命の危険に晒すんだから。そんな大罪背負わせておいて、何の旨味もないお願いなんて聞くわけないでしょうが」

「むー、なら仕方がない」


ギュルカンはそう言ってギゼラのブローチをポケットから出す。

ギゼラはそれを見て、大きな舌打ちをした。


全くこれだからお貴族様は嫌なのだ。対等な交渉などさせてもらえない。

どうせブローチを壊す、使う、解析するなど、様々な脅し文句を使ってギゼラを従わせる気なのだろう。

だがお生憎だ。ドワーフ族の本当の財産は魔石の作り方だ。

あのブローチを作ったときと同じ素材さえ集められれば、同じものが作れる。

素材は人族がたどり着けない未開の土地にしかないし、万一解析されても人族の今の技術じゃ100年経っても作ることなど出来ない。


ギゼラは自身の持つ知識とブローチを天秤にかけ、ブローチを捨てるという苦渋の決断をした。


「悪いけど、それ────」

「返すね」


ギュルカンはテーブルにことりとそれを置いた。

鈍色の紫がきらめいている、ギゼラの魔石。

ギゼラは訝しみながらギュルカンの顔を見た。

しかし、前髪に隠された目の奥や三日月のように上げた口角からは何も読み取れなかった。


「⋯⋯偽物じゃないみたいだけど」

「そりゃそうだ。だって本物だし」

「てっきり私を脅す材料にするのかと」

「何でそんな面倒くさい事、僕がしなきゃならないのさ」


ギュルカンは頬をぷくっと膨らませた。


「こいつにゃそういう貴族らしい振る舞いは出来ねぇぜ」


ギュルカンとギゼラを見守っていたバートが初めてそこで口を挟んだ。


「ぶっちゃけ言うと研究所無くなってもいいんだよねー。うちのお父様がさァ、いつまでもなんの役職につかない僕を危惧して所長なんて座に据えたけど、性に合わないんだ。研究してるならまだしも、王宮への報告とか研究職員の管理とか事務や雑用ばっかりだし。僕、魔石を求めて旅に出たいんだ」


ギュルカンはソファの上で膝を抱えて座った。


「へー、いいじゃない? 楽しいよー旅は」

「やっぱり? レディもそう思うかい」

「まあねー。いくら本で知識を磨いてもさ、実物を見て初めて分かることってあるじゃない。自分の力で見つけた鉱石で作るアクセサリーは喜びだって何倍に跳ね上がることか」

「うんうん!分かる分かるぅ。ああ、どんな所に行こうかな。西のモーリブデン国はどうかな。良質な活火山があると聞く。それとも北のカルツァイトスも良いかもしれない。面白いカルデラ湖を見てみたい!」

「モーリブデンは高純度の硫化鉱物がざくざくだったよ」

「おお!カルツァイトスは? カルツァイトスは?」

「あの二重のカルデラ湖は面白かったけどね。⋯⋯ここ30年は行ってないなあ。あの辺りは国の情勢が不安定だから行きにくいんだよね。あと半年ぐらいで何とか行けそうだと思うけど」

「ほうほう!それは楽しみだなあ。ねえねえ、レディは野宿派? 村の宿派?」

「状況によるけど、野宿が多いかなー」

「いいねえ野宿!一度やって見たかったんだ!」

「本当? ふかふかベッドでお休みされる貴い方には酷でしょ」

「む、二番目と三番目の兄様は騎士団に所属してるから野営技術は知っているし、外で寝るなんて憧れだよ。僕は王都から出た事がなくってね」

「へえ、なら石を探しにダンジョンに潜ったりも?」

「ないない!冒険者ギルドなんて憧れも憧れさ」


「なーおい、ギゼラ」

「なに? バート」


バートは二人の会話を聞きながら頭を抱えていた。

何やら困ったような顔をしている。


「お前、この坊っちゃん連れて旅に出る流れになってないか」

「え⁉ 嘘‼ マジか⁉」

「もう、黙ってくれればいいのに」


ギュルカンはニヤニヤしていた口を少しだけ引き結んだ。


「あっぶな!貴族こっわ!何それこっわ!」


このままでは旅をしたいギゼラにギュルカンがつきまとう。きっと魔石を駆使して身体能力上げてくるから振り切れない。

この男が重度の石馬鹿という事は会話の端から窺えたが、それなら尚更ドワーフ族の知識を盗まれたくない。


何せ彼は人族だ。

盗まれ放題された知識や技術は、きっとドワーフ族に不利益をもたらす。

こんなのが付きまとっていたら村にも帰れない。


⋯⋯ならば、王立魔石研究所とやらにこいつを縫い止めておいた方が被害が少ないのでは。


ギゼラはギュルカンを睨みつけた。

くそ、こいつ。

やっぱり腹芸の上手なお貴族様じゃないか。

手のひらでコロコロ転がされてしまった。


「ちょーっと気が変わったから、やっぱり研究所とやらで協力するわー。ちょっとだよ。ちょっとだけだよ」


そう言うとギュルカンは悲しそうな声を上げた。


「そんな!僕、ようやく旅出来ると思ったのに」

「嘘つけぇぇぇ!」

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