それはある日の朝1
『ほのぼの』をゆるく書きたいです。
生温かく見守ってください。
あまり鋭く突っ込まれても、そうですかとしか言えません‥。
‥だって、ほら、『ご都合主義』ってタグあるじゃないですか‥。
最初に宣言しておきますけど、全部ソレで乗りきるつもりです。
「お父さん、お母さん、行ってきます!」「ワン!」
私はミコ。8才。
お父さんとお母さんの形見のブレスレットに向かって挨拶をしたあと、扉を開けた。
今朝も太陽がまぶしく辺りを照らす中、愛犬のタローと一緒にお仕事を探しに行く。
ギルドの薬草採取のクエスト以外に割の良いクエストがあれば受注したい。けど、他の冒険者の人たちもいるので朝は争奪戦になることが多い。それを避けて少しだけ遅く行くのがポイントだ。
私は冒険者になれる年齢ではないけど、例外で認めてもらえているらしい。だから、一般クエストの魔物退治とか護衛などは受けられないけど、手紙の配達とかお掃除とかの雑務クエストなら受けられるらしい。
15才になったら冒険者登録ができて一般クエストが受注できるようになり、一般クエストをこなせばランクがあがっていくのだそうだ。
街の子どもはほとんどが畑を手伝っているけど、私の家はお父さんもお母さんもいなくて農協に入っていないから、畑がないのでギルドでお仕事を探してお金をもらっている。
タローは黒く光る炎のようなフサフサの毛にくるまれた子犬で、私のお兄ちゃんらしい(笑)。私が生まれてすぐの小さな頃からずっと一緒に暮らしている。今日もキリっとした顔で私を先導してくれているようだ。
「おはようございます!」「ワン!」
入口から冒険者ギルドに入るとまずはみんなに挨拶だ。
「おおぅ、ミコちゃんか!」「ミコちゃん、おはよう。」「ミコちゃんはいつも早いねぇ。」「ミコちゃん今日も可愛いね!」
馴染みの冒険者さんや職員さんが挨拶を返してくれる。ニコニコしながらクエストボードの方へと向かっていく。
「あー、今日の雑務クエストには薬草採取のほかは残ってないみたい‥。」「クゥーン」
私ができる雑務クエストは今日はもう残っておらず、今日のお仕事は薬草採取に全力を尽くすことになった。薬草採取は常設依頼なので、いつでも採取できた量だけギルドに持って帰ってくれば買い取ってもらえる。だから受注表を書いて出す必要がないので受付に寄らず出ていこうとすると‥
「これ!ミコ坊!こっちに来い!」
ギルドマスターのブランさんが私を呼び止めた。ブランさんは髭もじゃのドワーフのおじいちゃんで、お父さんやお母さんの代わりに色々と面倒をみてくれている。
「ブランさん、おはようございます。」
「ああ、おはよう。ミコ坊、今日も薬草採取に行くのか?どこの薬草を採ってくるつもりじゃ?」
「ええと、南と東の薬草はこの前採ったので、今日は西の丘を探します。」
「そうか。西の丘の向こうにある森には近づいてはならんぞ。昨日コボルトの群れを見かけたと報告があっての。小川の向こう側には渡ってはだめじゃ。よいな?」
「わかりました。小川の手前までで探します。」
「うむ。気を付けて行ってくるといい。」
「行ってきます!」「ワン!」
私はくるっと回ってギルドから出ていくと、街の南門を目指した。街には北と南にしか門がなく、薬草を探しに行こうと思っている西の小高い丘は南門からの方が近い。
大通りを小走りに駆け、南門まで来ると門番のカインさんに後ろからそっと近づき挨拶をする。
「カインさん、おはようございます!」
「わっ、‥ってミコちゃんか。脅かさないでよ。今日も薬草採取かい?どっちに行くんだい?」
カインさんはがっしりとした体格の門番さんで、槍の名手らしい。なんと去年の秋の豊穣祭でそれまでずっと優勝していたアレクさんという冒険者さんを倒して優勝したらしい。けど、普段は優しく私に話しかけてくれる良いお兄さんだ。二年前に東の大きな町から転勤してきたって言っていた。
「ミコちゃん、西の森と南の湿地には近づいてはダメだよ。コボルトの群れが出たらしいから。」
「大丈夫!小川の手前までしか行かないってブランさんにも言ったから!」
「そうかい。だけど気を付けておくんだよ。大きな動物や魔物が見えたら、笛を鳴らして南門まで全力で走っておいで。」
「うん、わかった。タローもいるから大丈夫だよ!」
西の丘に向かって歩きながら、スキップして鼻歌を口ずさむ。心なしか先導するタローの足取りも軽い。
「薬草はあるかなー?前に来たのが10日くらい前だから、少しは生えてると思うけど‥。」
薬草を採取するときには、根を残し上の方に伸びている茎と葉だけを千切るのが正しいやり方だとシキさんという買取をしてくれるギルドのお姉さんに教わった。地面に近い葉っぱを残しておけば、大体10日ぐらいで元通りに生えてくるそうだ。
西の丘まで登ってみると、下ったさらに向こうには小川が流れていて、その少し奥に広大な森が広がっている。冒険者さんは【迷いの森】と呼んでいるほど深く、熟練したレンジャー無しで入ると命を落とすとまで言われているらしい。私は丘の頂上付近から小川の近くまで薬草を探して丁寧に摘み取っていった。
「ふう。まあまあ見つけたわね。ウォッカが8本とジンが3本、ラムが5本とテキーラが3本‥。あれ?そこまで多くないかも‥。」
昔から採取する場所は変わらないため、歩き回ってたくさんの薬草を見つけているのだが、なぜか今日はあまり育っておらずまだ摘み取れないものが多かった。探しながら歩いていたのでついつい小川に沿って北上し、遠くまで来ていた。もう太陽は高くなり、お昼を過ぎてお腹もすいてきたところだ。
「じゃあ今日はここまでにして、帰ってお昼ご飯にしよっかな。タロー!」「ワン!」
ギルドに持ち帰り買取をしてもらって、ご飯を食べたら洗濯など家事をしないといけないな。だから早く帰ろうとバッグの中身をごそごそ確認して、立ち上がった時に北の方から動いてくるものが見えた。
「ウウウウッ!ガルルルッ!」
タローが唸り、北の方からやってくる影に向かって威嚇をする。
「えっ?!魔物??はやく逃げなきゃ!」
ミコは一旦南に向けて走り出した。街に帰るためにはこの先の小高い丘を登らなければならない。タローも後ろを走ってきているようだ。
「振り返ってはダメ‥私はまっすぐ走らないと!」
ザザッ、ドガッ、ドガッ
突然後ろから音がしたと思うと、右手の小川の近くに石が数個飛んできている。
「タロー!石を避けないと、当たると大怪我をしちゃう!」
後ろのタローが気になって振り返ると、犬の頭をした二足歩行の魔物が30体近く走って近づいてきているのが目に入る。
「‥ひっっ‥!!!」
(追いつかれて捕まると殺されちゃう!!‥お父さん、お母さん、助けて‥!!)
恐怖心から震えて足がすくみ、丘の斜面を上る手前に倒れ込んでしまう。そして近づいてくる多くの影と、目の前で守るように立っているタローの背中を見て、どこか懐かしい安心感を感じながら意識が段々と遠のいていくのであった。
(お願い‥タロー、逃げて‥。あなただけでも助かって‥‥)
獰猛な目を、倒れ込んだ肉の柔らかそうな獲物に向けて、涎を垂らしながらコボルトたちは襲いかかろうとしていた。獲物の前にいた黒くて小さい毛むくじゃらのことなどは意に介さず、ただただ、美味しい肉と細い骨を噛み砕くことができる喜びに突き動かされていた。群れの中でも先頭を走る4匹は競うように最初の一噛みを求め、唸りながら大きな咢を開けて飛び込んだ。
‥静寂が辺りを包む。
コボルトの群れの本体が追い付き、肉の余りにありつこうと獲物を見ると、先行していたはずのコボルトたちの姿がない。おかしなことに、獲物である柔らかそうな肉はそこに倒れたままで、齧られた様子などがない。そして獲物を守るように腰を下ろしている黒い男が目に映る。
はて?このような人間がそこにいただろうか?しかし、すぐに疑問は頭から消え、柔らかい肉だけではなく噛み応えのある肉まで手に入り、お腹いっぱいまで食べることができる喜びに全身が打ち震えるのだった。
この肉をッ!!!!
柔らかい肉を噛み千切り、細い骨を噛み砕くゥッ!!!
ムシャぶり尽くすッッ!!!!
胸の高まりが収まらないッ!!!勝鬨の遠吠えを上げるッ!!
よく晴れた突き抜けるような青空に向かって遠吠えをしようと首を伸ばし見上げたとき、
世界が暗転する。
「‥お嬢を泣かせたお前らに、青い空はもったいねぇ。」
なんか出てきた!!
誰だ?と思ったけど、まあ、そういうことだよね。
これで少しは『ほのぼの』『日常』になってますかね?
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