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魔法の世界のお菓子

 モグラ男は地中を掘るのと同じ要領で、私の潜んでいるクローゼットのドアを引っ掻いた。明らかに友達の女の子が立てるような、爪の形じゃないことははっきりとわかっていた。でもそれすら確かめようがないくらい、私は怯えていた。ホラー映画は平気なくせに、ほんとに怖い眼には遭いたくないのだ。

そう、モグラ男がどんな眼をするか思い出していた。モグラ男は昔私たちが見た映画に出てきたモグラのような男そっくりだったから眼はおろか、風貌そのものだってしっかりと覚えていた。だから余計にこのクローゼットの扉は開けまいと内側からつっかえ棒を差し込んで抵抗していた。

 しばらくはモグラ男も諦めずにドアを引っ掻いたが、最後には立ち去っていった。でもその湾曲した爪をこんこんと鳴らして、鼻をクローゼットの扉にひくひくひくとくっつけて、しっかりとマーキングした。覚えておくよってことだろう。それぐらいは私にだってわかった。


それからかえるちゃんの歌と足音が聞こえた。誰かを探して回るために出す音は、聞いていてやはり心地よかった。音楽が次の世界に舵を切る前の静けさは確かに彼女のものだったし、私のものでもあった。そのすぐ後、クローゼット探偵メロディ=アリスは私がいる、クローゼットの扉を開けた。もうつっかえ棒で扉を塞いだりはしなかった。

「杏、見つけたよ。もう大丈夫、安心して」かえるちゃんは手を差し伸べてくれた。いつもよりじんわりと熱さを掌に感じた。でもそれは彼女のせいじゃなく、私のせいだった。その汗を彼女が気づかないはずないけど、背中をさすって前を歩かせてくれた。そのとき本当に彼女がクローゼット探偵メロディ=アリスに思えたのだ。二人でリビングへと向かった。そこには不思議の国の数々のお菓子たちが私を驚かせようとしていた。

実際に驚いたのは、そこにあったものだ。

コンビニやスーパーにあるお菓子が甘さやデザインにおいて人が食べることをどこまでも意識しているなら、魔法の世界のお菓子は、甘さやデザインにおいてどこまでも人が食べることを前提に作られたお菓子じゃないからだ。たまたま子供たちが、あるいは大人たちが食べられるってだけ。もちろんそれが美味しいとは限らない。

 以下、私たちが食べた、魔法の世界のお菓子の一覧表だ。

 一口魔法パウチケーキ #綿あめ #但し、身体中から綿あめ #甘すぎるので歯がミリ単位で溶ける

 動物ラズベリーチョコ #魔法世界の生物チョコ #イボが歯に残る #鳴き真似が出来る #食べ過ぎると本物になる

 ムカデクッキー #ムカデとハーブの香り #マズイ #息を吐いたら、蠅が死んだ

 ドワーフカードポテトチップス #カレーチーズ味 #食べるとおまけカードが手に入る #トレーディングカードのドワーフは本物で労働に関する説教を垂れる

 はじめ喜んだが、途中でその魔法にうんざりしながら、お菓子を食べた。

 しかしかえるちゃんがどうやってこれらを手に入れたのか、私は知らない。

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