穴
私たちは確認のために二つのクローゼットを開けた。私は父さんの部屋のクローゼットが、クローゼット探偵メロディ=アリスみたくその先が秘密の世界への入口になっていることを見た。写真と動画にも残して記録したし、今度はその穴は塞がれずに残っていた。
「もしかしてあなたのパパがモグラ男なんじゃない」
「まさかね」
「これだけ設備を整えるほどの人なのに、どうしてこれには何も気付かないの」
「もしかして後で塞ぐつもりだったのかも。あるいは塞いだけど、またモグラ男が穴を掘ったとか」いや、と私の言葉を遮った。
「無関係ということじゃなさそう」少女探偵は穴の周りに落ちている木くずや土くれを拾う。警察が証拠品を拾うときみたく、白い手袋とジップ式の袋を使って。
「これ、見てよ」
「ただの開けた跡じゃないの」
「違うよ。懐中電灯持ってきて」僕は持ってきて彼女の言う方向へライトを向けた。
「穴の周りにある木くずとクローゼットの木くずが一致しないじゃない」確かによく見るとそれらは異なる材質で出来ていることがわかった。
「てことはやっぱり一度塞いだんじゃない」
「その後、もう一度モグラ男が開けたってこと」
「おそらくは」
「父さんは穴があること自体知らなかった」
「あなたを心配させないために言ったのかも。もしこの穴が向こう側に繋がっているとすれば、モグラ男がいることの証明になるかもしれない」
「もう一度塞いでおこうよ」
「駄目。モグラ男はまた穴を開けるはずだし」
「じゃあどうするの」
「降りるに決まっているじゃない」これが非現実的な手段だと訴えた。そもそも降りるにしても梯子もないし、戻ってくる間に地震が起こったらどうするのかと聞いたが、そもそも彼女にはそうした疑問はすでに解決済みのことのように聞こえた。
「梯子なんてホームセンターとかで買えばいいじゃない。降りられるところまで降りる。地震が起こってもこの家なら、大丈夫でしょ。あなたのパパはそうならないために手を尽くしてきたんでしょ、これまで」かえるちゃんがホームセンターへ行き、戻ってくるまでの間、この穴をじっと眺めていた。それから自分の部屋に戻り、野球のバットを手にした。部屋の明かりをつけて、クローゼットから続く穴の向こう側にある世界について考えた。