傲慢な男の夢語り
ひと昔前、夜空の絵を描いたんだ。
大きな画用紙の真ん中に、真っ赤な三角屋根の家があって、黄色い歪な五芒星がその周りに浮かんでいて、三日月がニコニコ笑っている。そんな絵。
最後の仕上げに、白いままの空を黒いクレヨンで塗っていたら、
「空の色が黒って何だか怖いな、暗いよー。青とかさ、他の色にしてみたら?」
と、隣でその様子を見ていた先生に言われた。
正直に言うと僕は最初、他の色にする意味が分からなかった。
だって夜空と言えば黒だったし、青い空だなんて、昼間の澄み渡った青空ぐらいしか思い浮かばない。
「先生この絵は、夜の空だから。星だってあるし、青なんて有り得ないよ」
そうやって鼻高々に、先生の間違いを正すように言えば
「なんだ、見た事ない? 有名な絵とかにもさ、青い夜空の絵とかもあるでしょ」
なんて、普段から大人ぶっている自分を上手く扱った、一枚上手な言葉を投げかけてきた。
僕が無言で青いクレヨンに持ち替えたのは、言うまでもない。
実際、その絵は黒よりも青を使った方が綺麗だと子どもながらに納得したし、青をベースとした夜空の絵は沢山ある。
それに現実で、黒い空が青に見える人だっているのも知っている。
でも今でも、この世界の夜空の色は黒だと、僕は思う。
これは別に、先生に対する愚痴とかでもなんでもなくて、むしろ、あの先生の一言は自分の常識を壊してくれたんだと確信している。
自分が見えている世界とは違う世界が、他人には見えているんだ。違うと言われる理由が、どこかにあるんだと気付かされた。
あの絵、今はどこにあるんだろうか。
探したいけど、如何せん昔の絵だ。さぞかし下手な絵なんだろうな。左端は黒くて、後は青い、中途半端な意志の絵が。
とくに深くもないけど、ただそんな話。
他人には、自分語りに見えるのだろうけど。何故か僕は、その出来事を今でも鮮明に覚えている。
元々はTwitterの140字小説にするつもりでした。長すぎたので止めました。
話に出てくる『青い夜空の絵』というのは、ゴッホの「星月夜」のつもりです。
あのような、一見キレイに見える作品の裏が闇深いと、ワクワクしますよね。
この物語の語り手である男性は、何を成し遂げたのでしょうか。こんな偉そうに昔の話を語れるような事を成し遂げたのでしょうか。
どれだけ自身を卑下しても、行動で示さないと信頼は得られませんよねー。
とても虚しい。