表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

生きててもつまんない人生なので、よかったら私と心中します?


人って醜い。笑顔で都合のいい嘘ばっかついて、結局は自分のことしか考えてないの。

ほら、よく言うでしょう?笑顔には裏があるって。


私に近づいてくる人全てが、自分の利益のために私に近づいてる気がして、心が冷める。

どれだけ湯気が出ていて、美味しそうな匂いがするのに、飲んでみたら体をどんどん蝕んでいって、息がしずらくなるの。


友達だって、一人は怖いから、誰かと一緒にいたいって言う自分勝手な理由で、同じ意見をもつ人達と友達ごっこをして依存しあってるだけ。


そんなの、作られた嘘に気づいたときが苦しいでしょう?楽しいものを見たって、やりたいことが出来たって、周りを見れば全てがつまらなくなってくるの。


私は、贅沢?


勝手に私を仲間だと勘違いして、それに気づいたときに攻撃を始めるのは、どうかと思うの。そもそも、私達は他人同士なのに。けど、仲間だと言われて少し嬉しいと感じてしまった私が悪かったのかもしれない。


家族だってそう。今までは邪魔者とか消えてほしいとか産んだことが間違いだったとかさんざん言ってきたくせに、なんで私を守るために死を選んだの?いつもの貴女が死んだのなら、喜べたのに、どうして最後に涙をながした笑顔で「愛してる」なんて言ったの?

調子、狂うじゃない。なんでこんなに心が苦しくなるの?


どうしてこの世界は愛と憎しみで満ちているの?もしも空っぽの世界だったら、何も感じずにすんだのに。


いつもは窮屈に感じていた家も、改めて見てみるとすごく広くて、驚いた。まわりには沢山の暖かな思い出が飾ってあって母のことを勘違いしていたのだと今さら気づく。もう、ありがとうですら言うことが叶わない。


過ぎてしまった時間は、もう戻すことが出来ないの。


この家にいるのが苦しくて、涙が溢れてきそうで、怖かった。こう言う時に、私はただの子供なんだと思い知らされる。もう高校三年生なのに。


バックに大切なもの、必要最低限のものをつめて、思いでの欠片を全て自分の手で壊した。ガラスの物もあって、指を怪我した。でも、痛くなかった。痛むのは、空っぽになってしまった私の心だけ。


そして、壊していた手が止まる。いや、動かなくなってしまった、が正しい。けど、それを見てしまったらもう心が完全に壊れてしまう気がして、目を背けた。

それからは壊すのをやめて、有り余るお金を財布の中にに詰め込んだ。銀行のカードも。


早足で家を飛び出した。もう戻らないって決めたのに、家の鍵をバックにいれていた。知っていながらも、それを捨てる気にはならなかった。私のこの小さな考えですらも、世の中にとってはつまらない。


外を歩いていたら、いつの間にか雨が降ってきた。でも、今の私には雨の冷たさが心地よかった。

そしてふと思い出した。今日が私の誕生日であることを。いや、そんなこと言っている場合ではなかった。あと1日早ければよかったのに。

そう意味のないことばかり頭によぎる。


今の私に残されているものは、空っぽの心と有り余るお金、そして母がくれた愛満まなみという名前だけ。


「くしゅんっ!」


くしゃみが出た。少し寒いのかもしれない。とりあえずホテルに行って、今日を過ごそう。

学校はどうしようかな……。見え透いた嘘をつきながらも、それを隠して笑顔を張り付ける人達なんて見たくない。明日は休もう。


「おい、ネーチャン。つまらなさそうな顔して、せっかくの美人が台無しだぜぇ?」


夜だからかな、酔っぱらいに絡まれる。でもこの人の言っていること、案外あっているかもしれないな。私は乾いた笑いをこぼした。


「そうね、でも、そっとしておいて」


そう言うと酔っぱらいは行ってしまった。お酒でも飲んだら何もかも忘れることができるかもしれない。なんてありもしない想像を浮かべながら、1つのバーに入った。私は見た目が大人っぽいから、よく大学生だと間違われる。

こういうのは、堂々としたもの勝ちだ。バックも必要最低限のものしかつめてなくて小さいから、大丈夫だろう。





カランカラン


ドアを開けるとベルの音がなった。バーは私の知らない世界で、どこか輝いて見えた。


「いらっしゃい」 


彼がマスターだろうか、若いな。しかも結構イケメンだ。今日あったこと全部忘れるまで飲み明かそう。

カウンター席に座ると、若いマスターがメニューを渡した。


「初めてのお客様ですね。…何にします?」


「じゃあ…この、カクテル1つ」


私が指差しをしながら言うと、彼は笑顔で「かりこまりました」と言った。この雰囲気は好きかもしれない。お客さんも少ないし、話してもいいだろうか。


「あの、マスター」


「なんでしょう」


「私の話、聞いてくれません?」


………………………………


「母は死んじゃうし、友達には裏切られるし、私には何も残ってないんです!」


カクテルを四杯ほど飲んで酔ったのかもしれない。気持ち良くなって年のことだけは隠し、それ以外の話を沢山マスターにぶちまけていた。彼の名前は椿本七音つばき ななとさんだと言うことも教えてもらった。


「愛満さんは魅力的だと思うけどなぁ」


頭がほわほわとしてきて、自分が何を言っているのかも分からなくなってきた。あれ、マスターさっき何か言ってた?

お酒の力って怖い。


「カクテルもう一杯~」


ふやけた声でおかわりを求める。


「はぁ、…愛満さん、これでお仕舞いですよ?もう、他のお客様帰ってるし、分かってるかなぁと思ってたんですが、営業時間過ぎてます」


「あれ?もうそんな時間?」


私のなかでは少ししか時間がたっていないように思えた。


「でも……帰る家はないし、一人は…いやなの」


さっきまで上機嫌で話していたのに、いきなり暗くなった私に、マスターは戸惑っていた。そんな顔させたかった訳じゃないのになぁ…。そう心の中では思っていても、口は全く別のことを言う。いや、本当はそれが本心なのかもしれない。私は虚ろな目で


「マスター、1人は寂しいし、つまらないの。私と心中しませんか?」


自分でも何言ってんだこいつって思う。けど、マスターは真剣な、でも優しい顔で


「愛満さん、愛満さんの名前は、このさき愛満の未来が愛で満ちるようにって言う意味でつけられたんじゃないでしょうか。なのに、一緒に死ぬのが初めてあった人なんて、もったいなくないですか?」


そう言った。いつもならそのなかに隠された嘘を探すはずなのに、このときばかりは素直に受け取った。嘘じゃない気がしたから。…私もちっぽけなひとだなぁ…。 


「だから、僕と結婚しません?」 


「は?」


この言葉で酔いが覚めた。この人どうしたの?


「嘘、ですよね?」


軽く冗談混じりに言う。


「いえ、本気マジです。僕も25歳でいい年ですし、愛満さんも僕の2つくらい下で年も近いでしょう?なにより僕は貴女に死にたいなんて言わせません」


どうやら彼は本気らしい。けど、なんだか面白そうだ。私の年は間違っているけど、気にしないでおこう。そもそも未成年はバーに来たら行けないんだし、ここで言ったら補導される気がする。


「なら…結婚しちゃおっかな」


「ええ!するんですか?」


やっぱり冗談だったのか。なんか恥ずかしい。


「なら、明日には婚姻届けを出しましょう!」


いや、前言撤回。本当に結婚する気だ。こうなったら全ての外堀を埋めてしまえ。結婚させすれば後はこっちのものだ。


「こうなれば、愛満さんホテルじゃなくて、僕の家に泊まりません?僕の家広いですし」


「え、あ…じゃあ、そうします」


こうして、佐倉愛満さくら まなみは心中ではなく結婚することになりました。



………………………………


バーを出て、椿本さんの家に泊まることになったけど、家に入ってから酔いがまたまわってきた。


「あぁ~お酒強くないのにカクテル5杯も飲むからー……」 


椿本さんにため息混じりに言われた。


「今日、せっかくなら色々としようかなぁと思ってたんだけど、お預けですね」


艶かしい雰囲気で舌なめずりする彼は、かっこよかった。イケメンって得だと思う。いや、酔いつぶれてなかったら何するつもりだったんだろう。彼は手が早いのかもしれない。


「今日はとりあえず早く寝てください」


私がそう言われたあと、椿本さんは私をお姫様だっこしてベッドに運んだ。全体的に黒と白で揃えられている彼のベッドルームは爽やかな匂いがして、落ち着いた。


「おやすみなさい、愛満さん」


◇◆◇


「んにゃ……おはようございます」


挨拶の最初をしくじった。けど椿本さんは気にして無さそうなので安心する。


「愛満さん、婚姻届僕の分と証人の分は書き終えてあるんで愛満さん書いてください」


「えっ……あ、はい!」


あれ、私昨日大分やらかした。今さら悔やんでも仕方がないか。私は開き直って名前のところに18歳と書いた。


「書きました」


「じゃあ、出しに行きましょうか」


椿本さんは年齢の欄をまだ見ていないらしい。どうかこのままーーー! 


…………………………………


提出してしまった……。今さっき私の夫となった椿本さん。さっき「奥さんは、」と言われたときはすごく恥ずかしかった。ヤバイくらい恥ずかしかった。


「よろしくね、愛満さん」


「はい、よろしくお願いします。椿本さん」


「七音って呼んでほしいな」


「はい、七音さん」


そこまでは普通だった。普通に七音さんの車に乗っていた。


「あのさぁ…1つ聞いていい?」


「はい、なんですか?」


「未成年ってお酒飲んでいいんだっけ?」


未成年ってお酒飲んでいいんだっけ………………ええ!私が未成年だとばれた?


「あの、いつから気づいて?」


「今日の朝。でも、僕愛満さんのこともっと知りたいし、幸せにしたいからさ。けど、お酒はもう禁止だよ?お·く·さ·ん」


わーーー、笑顔がこわい。


なんか、腹黒いって言うか。まぁ、私も七音さんのこと気になってるし、もう結婚しちゃったし、色々と手遅れなんだけどね。


これからのことが不安ではあるけど、佐倉愛満さくら まなみ、改めて椿本愛満は、椿本七音さんと心中…ではなく結婚しました。


大変なこともあるだろうけど、つまらなくはない、気がする。ごめんなさい、貴女の後を追うのが、惜しくなったのでまだ待っててください。



お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 文章が読みやすく、構成がしっかりしていて、最後まで楽しませてもらいました。読後感が良い楽しい作品でした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ