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バースデー  作者: K
9/27

9

 朝になった。

 ソファで寝た一樹だったが、熟睡できたとは言えなかった。

 色んなことを考えた。

 そして、ときどき苦しそうに寝返りをする遊史をずっと見ていた。


 一樹は、カーテンの隙間から朝日が覗くのを確認した。

 今日は、金曜日だ。仕事に行かなければならない。


 何で、陵介の馬鹿は、今回の飲み会を木曜に設定したんだ。


 陵介にとっては、理不尽な怒りを心の中でぶつける。

 眠れなかったので、身体はだるいが、一樹は、一息ついて、一気に起き上がった。


 棚の奥からコーヒーメーカーを引っ張り出し、卵を焼き、パンを焼いた。

 コーヒーメーカーから、ポコポコと音がし始めた頃、ベッドから声がした。

 玄関から入ってすぐに台所がある。その奥が7畳の居間兼寝室だ。仕切りから、奥の部屋をのぞくと、遊史がボーっと天井を見上げていた。

「ここって?」

「俺のマンションだよ。」


 一樹がカーテンを開けると、遊史は、眩しそうに腕で顔を覆った。

「何も覚えてない。」

「かなり酔ってたからな。」

「…」

 目をこすりながら、遊史は起きようと試みようとして、うっとうめく。

 一樹は、笑いながら、上体を起こした遊史の背中をなでる。

「二日酔いだろ。飲み過ぎだ。」

 顔色が悪い。今日は、仕事は無理だろう。


 一樹は、すぐそばにいる遊史を、激しく意識してる自分を感じている。

「俺は、仕事に行くけど、お前、どうする?」

 遊史は、一樹の手を止め、ゆっくり体をベッドに沈めた。

「休む。」

 眉を寄せて、きつそうな顔をしてる。

 少し身体を動かすだけで、吐き気がするようだ。

「そっか。無理するな。」

 何気なさげに、答えるが、一樹の動悸は、激しくなっている。

 ワクワクするような気持ちを殺して、一樹は、普通を装う演技をする。


「シャワー―浴びたかったら、着替えとタオル、ここに置いとくから、使っていいよ。多分、今日は動けないだろうから、一日寝てたら。」

「帰るよ。月曜までに、まとめないといけない書類があるんだ。」

「無理するな。明日もあさってもあるだろ?」


 今の傷ついている遊史を、一人にするわけにはいかない。

 心の中で、そう理由づけている。

 でも、実際は、1分でも1秒でも、自分自身が遊史といたいだけなんだ。


 でも、その気持ちを、遊史に悟らせるわけにはいかない。

 今までずっとそうだったように、普通にふるまうんだ。

 一樹は、わざと、仕方なさそうに鍵をとりだした。


「もし、どうしても、帰りたくなったら、鍵、ここに置いとくから、出る時、ポストにいれといてくれ。」

「わかった。」

 じゃあと、玄関に行きかけて、一樹は、もう一度ベッドに戻った。

「本当に無理するな。もう一泊しろ。」

「?」

 遊史の不思議そうな顔に、ちょっと強引だったかと反省する。


 けれども、遊史は別の解釈をしたようだった。

「陵介に聞いたんだな。」

 自嘲気味に笑う。

 あまり、見たことのない痛々しい笑顔だった。


 理由は何でもいい。

「とにかく、早く帰ってくるから、どこにも行くなよ。」

 念を押して、一樹は、仕事に出かけた。


 休みたいくらいだったが、遊史の二日酔いにつきあって会社を休みましたなんて言い訳を、遊史に言いたくない。

 メールもしたかったが、気にかけすぎていることも悟られたくなかった。

 自分は、あくまでも、傷ついた遊史をフォローしてやるただの親友なのだ。


 遊史が、一人がつらいというなら一緒にいる。

 遊史が、きついなら、世話を焼いてやる。

 遊史が、一人になりたいなら、一人にしてやる。

 あくまでも、遊史のフォローなのだ。


 自分が遊史のそばにいたいなんてこと、遊史には絶対に知られたくない。

 そのためなら、精一杯の演技をする。

 それは、得意だと思ってた。


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