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バースデー  作者: K
7/27

7

 やっとのことで部屋に入ると、一樹は、遊史の体ごとベッドに倒れこんた。

 一樹は起き上がるが、遊史は、そのまま、ゆっくり目を閉じようとする。

「待て、寝るな。」

 一樹は、あわてて、遊史の上体を無理やり起こす。

「一樹?」

 一樹の顔をぼんやり見つめる遊史の体から、一樹は、急いでスーツの上着を剥ぎ取る。

 ネクタイをとって、ワイシャツのボタンに手をかけたところで、一樹は、何かに気づいて手を止めた。

 遊史は、支えを失ってドサリとベッドに崩れ落ちる。


「?」

 遊史のワイシャツに、赤いものがついているのだ。

 ネクタイをつけていたら、気が付かない位置だ。

 一樹は、それが、口紅だと気が付いた。

 愛花の唇の色だ。


 飲み過ぎて、遊史の意識が危うくなったとき、愛花が、やたら絡んでいたことを思い出す。

 悪魔のような女だなと一樹は舌打ちした。

 離婚の話を聞く前のことだ。

 遊史の家庭をもめさせたいだけの悪戯だ。


「遊史、おい」


 一応、声をかけてみるが、遊史はピクリとも動かない。

 着替えさせるのは、あきらめた。


 ベッドを遊史に譲り渡し、一樹は、ソファに自分の寝床をつくる。

 遊史の離婚の話を聞いた時から、酔いはすっかり冷めていた。

 一樹は、そっと、遊史の顔を覗き込んだ。

 すぐそばに遊史の顔がある。

 不思議な感じだった。



 大学2年の夏、何度か、遊史に呼び出された。

「おかしいだろ? 何で、俺を避けるんだ? 俺が何かしたのか?」

 当惑しきった遊史が、遊史を避ける一樹を呼び出したのだ。

「別に、避けてないよ。」

「嘘つけよ。理由を言えよ。」

「理由なんかないよ。避けてないって言ってるだろ。遊史は考え過ぎなんだよ。」

「ほんとに?」

「本当だ。」

 それで押し切った一回目。


「何、怒ってるんだよ?言いたいことがあるなら、はっきり言えよ。」

「怒ってないよ。」

「嘘だろ? 怒ってるじゃないか?」

「遊史に怒ってるんじゃないよ。遊史とは関係のないことだよ。」

 それで通した二回目。


「お前の態度、おかしいだろ?」

「何言ってるんだよ?」

「俺の事が嫌いなのか?」

 ドクンと心臓が波打った。

「嫌われるようなことを、俺がしてるのか?」

「前も言ったろ、遊史は考え過ぎなんだよ。お前の事嫌いなら、もっと露骨に避けてるよ。」

 ちょっと苦しかった三回目。


 その時は、もう自分で、気づいていた。


 俺は、遊史が好きなんだ。


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