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バースデー  作者: K
25/27

25

「大学生?」

「はい。」

「座っていい?」

「どうぞ。」

 始めて会うのに、学生は、何の躊躇もなかった。

一樹も、ためらうことなく、その学生の前に座った。


 背後で、カップルの小さい会話が聞こえてくる。

「何、笑ってんだよ。」

「だって、なんか、タジタジなんだもの。」

「うるせ。あのオネエの距離感が…。」


 オネエ?

 何、言ってるの、バカね。

と、心の中で毒づいて、自分が女言葉を使っていることに、初めて気がついた。


 愕然とした。

 自分でも、あまりに自然に使っていたので、気が付かなかった。

 いやいや、気が付かないなんてことある?

 今まで、生きてきて、女言葉なんて、使ったことはない。ないと断言できる。


 ????


 頭の中で、クエスチョンマークが飛び交ってる。


 ここに入ってきてからが、変だった。

 あのリーマンの背中がダブって見えて、変な景色が見えて、知らない奴と、何かしゃべった。

 会話の内容は、朝、起きた時に、夢をみたけど、ほとんど内容を忘れているパターンと同じ。


 やっぱり、夢か?


 ただ、夢の中の自分は、女だったと思う。

 言葉遣いだけじゃなく、会話の内容も、その感じ方も、今の男の一樹の感性とは、少し違う気がした。

ただ、 一樹とは、違うけど、一樹だった。

 

 あまりにも、同化していて、男だ、女だの区別すら、感じなかった。

 女言葉を使っていることに対しても、あまりに自然で、その自然のままに、今も自然に使っている。

 むしろ、元にもどそうと思うこと自体が、今は不自然だ。

 頭の中の思考すらも、女言葉だ。

 感受性も、一樹のようで、一樹じゃない。


 何で?


 頭を傾げると、目の前の学生が、少し微笑む。

 彼が、自分を見ているのに気が付いて、

「ありがとう。助けてくれようとしたんでしょ?」

 と言うと、学生は、

「そう、見えたので…。」

と、答える。

 優しそうな風貌の、その学生は、どこか、遊史に似ていた。

「そう見えた?」

 一樹は、更に首を傾げて、そのまま、まじまじと、その学生を見つめた。

 やっぱり似てる。

 遊史より、いい男だけど、口元に笑みを浮かべながら話すとこも、その落ち着いた優しいしゃべりかたも。


「確かに、夢みたいだった。見たことないとこで、見たことない男としゃべってた。夢だった?起きた状態で?私、何て言ってた?」

「僕が聞いたのは、やめなさいって、言ってるでしょって…。」

 そう言いながら、柔らかく笑ってる。

「それは、覚えてる。」

 そう言って、後ろのリーマンの頭をカバンで殴りつけたんだ。


 赤面するほどの失態。信じられない。

「他には?」

「いえ、何も…。」

「そう。」

 何か、色々しゃべってた気がするんだけど。

 必死で、思い出そうとしてみるが、指からすり抜けていく砂のように、すくおうとしても、すくおうとしても、記憶は、零れ落ちていく。確か、一度だけチラリと見た相手の横顔も、今は、霞んでしまって、もう、わからない。

 

「何か、別世界って感じだった。嫌な感じじゃないのよ。むしろ懐かしくて…。」

 自分より、絶対に年下の、この目の前の学生には、何か不思議な雰囲気がある。


 遊史に似てるというのが、大きいのかもしれないけど、どこか、人を安心させる空気を持っている。遊史と同じように、きっと、優しい男なんだろうと確信する。心を開いて、何でも相談したくなってしまうような。

 その彼が、驚いた様子もなく、穏やかな声で尋ねた。


「思い出しましたか?」



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