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すると、
「夢を見たんですよね。」
奥の席に座っていた学生らしき男が、助け船を出してくれた。多分。
「夢?」
男が、その学生の方を向くと、
「そう…。」
一樹が反応した。
「夢?」
男が、怪訝そうに、言葉を反芻する。
あれは、夢?
一樹は、夢の中身を思い出そうとした。
違った景色、違った環境、そして、違った自分…。
リアルだと思ったけど、今となっては、何もかもぼんやり霞んで、よくわからなくなっていた。
ぼんやりする一樹に、女の方が声をかけた。
「大丈夫ですよ。この人頑丈だから。」
男が、チカリと女を睨むが、女の方は、全く気にしていない。
いや、悪いのは、自分だ。
それは、はっきりしてる。
一樹は、男に、顔を近づけて、更に謝った。
「ほんとにごめんなさい。コーヒーごちそうするわ。」
「いや、それは…。」
夢で見た、あの男と同じように、目の前の男も、顔が、華奢だから、痩せているように見えるが、近くで見ると、思ったより胸板が厚く、スーツの袖をまくり上げて見えている腕もがっしりと筋肉がついている。少々殴ったくらいじゃ、びくともしない感じだ。一樹が、この男と同じ目にあったら、椅子から転げ落ちてたかもしれない。それだけ力を込めた自覚はある。ガタイのいい奴で助かったと、正直思う。
「いや、駄目よ。ママ、この二人に、好きな飲み物をお願い。お酒があるなら、お酒でもいいわ。私が払うから。」
ママが、にっこり請け合う。修羅場にならなくて、ホッとしているようだ。
早く解決してしまおうと、急いでメニューを取りに行く。
「別に、謝ったんだから、そんなことしなくても…。ん。」
言いかける男の口を手で押さえる。
「お願いだから、これだけは、させてちょうだい。せめてものお詫びなの。」
「私の方は、別に…。」
女の方も、あわてて断ろうとするが、一樹は、男の口に手を当てたまま、女の方に向いて、有無を言わせず、にっこり笑った。
「デートの邪魔したんだから、二人におごるのは、当然よ。」
女も、つられて、にっこり笑い、
「ありがとうございます。」
と、素直に受けた。
自分を無視して話が進むことに、目を向いた男だったが、
「いいでしょ?」
と、一樹が、顔を近づけると、上体を引きながら、うなづいた。
女の方が、その男の態度に、クスクス笑ってる。
その間に、ママが、メニューを持ってきて、さっさと二人に選ばせた。
ママとしては、こんなことで、収まるなら、早く納めてしまいたいのだろう。
一樹は、その二人をしり目にして、その後ろの席に進んだ。
自分をかばってくれたらしい学生の前だ。




