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バースデー  作者: K
23/27

23

 サラリ―マン風のスーツの男が、後頭部を抑えながら、ゆっくり振り向いた。

「…誰?」

 吊り上がり気味の眉がピクピクしてる。


 頭が真っ白になるとは、こういう状態を言うのだろうか。


「ま…間違えた?」

 意味不明の自分の言葉が、疑問形になっている。

「あ?」

 男は、完全に怒りモードだ。


 無理もない。

 この状況から考えるに、一樹は、初めて入ったこの喫茶店で、おそらく、初めて出会ったこの男の頭を、後ろから、思い切り、手にしているカバンで殴ってる。

 手には、カバン。

 その手には、殴った感触が、確かに残っている。

 思い切り、そのカバンを振り回した感触も、はっきりと。

 言い逃れできないほど、リアルに。


「理由を聞こうか? 何で、俺が、あんたに、殴られなきゃならないんだ?」

 声が、ハイトーンでないことが、余計に、この男の怒りを彷彿させる。


「えーっと…。」

 

 どう、言い訳したらいい?

 何て言い訳を…?


「俺に、わかるように、説明してもらおうか。」

「ちょっと、やめて。」

 険悪な雰囲気に、あわてて、前に座っている女が、男を止めようとする。

 あんぐり口をあけていたママも、我に返って、カウンターの中から駆け寄ってきた。

「えっと、何かの間違いらしいとのことですので…。」


 言い訳はきかない。

 謝るしかない。

 一樹は、覚悟を決めた。


「黙ってないで…。」

 完全に、切れてる男が、立ち上がろうとした、その時

「ごめんなさい!!」

 一樹は、立ち上がろうとする男の目の前で、バチンと大きく手を合わせた。

 ちょうど相撲のねこだましのように。

「う。」

 男が、一瞬、ひるむ。

 その顔の前で、手を合わせたまま、立て続けに、一樹はまくしたてた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。私、ほんとに間違えたの。」

 その勢いに、男は、少したじろぐ。

 一樹の顔と男の顔の距離は、ほんの数十センチ。目の前に合わせた手がなかったら、ぶつかっってしまいそうに近い。ぐんと縮まってしまったスペースをあけようと、男の方が、身体ごと後ろに引いた。


 一樹の中で、これはヤバいとの自覚があった。

 謝るのに懸命で、パーソナルスペースなど気にしなかった。

 とにかく、自分が悪い。

 何か、わけはわからないが、謝るしかない。


「古い知り合いとそっくりだったのよ。その知り合いが、バカばっかり言う奴で。なんで、間違えたのかわからないけど、ほんとに、そいつだと思い込んじゃって…。ほんっとにごめんなさい。」

 弾丸のように、早口で弁明する一樹に、男は、立ち上がりかけた腰を降ろし、それでも、呆れたように反論した。

「あんたとは、顔も、あわせてないだろ。」


 その通り。このサラリーマンは、一樹が入った時からずっと、一樹に背を向けていた。

でも…。


「背中が、そっくりだったのよ。」

「は?背中?」

「そう、背中…。」


 そっくりというか、ダブったというか…。


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