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バースデー  作者: K
22/27

22

「ね、もし、今日、死ぬかもしれないと思ったら、最後に、誰と一緒にいたい?」

「ん?」


目の前に、がっしりした背中がある。

衣に隠れて見えない身体は、そこまで大きくは見えないが、捲り上げた袖から見える腕は、隆々としていて、その筋肉の強さを物語っている。


 男は、テーブルに広げた地図のようなものを見ながら、何かの作業をしているようで、手が離せないのか、背を向けたまま

「何で、そんなこと聞く?」

と、聞いてきた。

「なんとなく…。」

「不安なのか?」

「そんなことないけど…。」

 背中を向けたままの男は、視界に入る程度に、チラリと横目でこちらを見た。

 けれども、何の作業をしているのか、そのまま、すぐに地図に目を落とす。


 何だか懐かしい。

 

 懐かしい光景だった。

 この部屋も、この雰囲気も、この背中を向けてる男も、何もかもが、ただ懐かしい。


 ただ、この中の空気とは違う緊張感を、今の自分は感じてる。


「お前だと言ったら?」

 背を向けたままで、唐突に男が言った。

「え?」

「最後に一緒にいるのは、お前でいいと言ったらどうする?」

「は?」

 少しドキリとした。


「くされ縁だから、結果的に、そうなることもあるかもしれないけど…。」

 言葉の語尾に笑いを含んでるのに気が付いた。

ちょっと動揺してしまった自分に腹が立つ。

「俺に惚れるなよ。」


「はあ?!」

 思わず、大きな声が出た。

「俺には、アイリがいるから、あきらめてくれ。」

 続けて言う男の頭を手にした冊子で、軽く殴ってやる。

「ばっかじゃないの?」

「いてっ…。」

 声をあげたが、男は、その程度の衝撃では、蚊が刺すほどにも感じてないらしい。

 作業を全くやめようとはしない。

「アイリとつきあっている妄想は、やめなさい。」


 何か、ほっとする。

 さっきまで抱えていた緊張が緩んで、口元が笑っているのを感じる。


「いずれ、そうなる。」

「何なのよ、あんたのその根拠のない自信は!」

 男は、明るく笑った。


「見てろって。それより、お前が最後に一緒にいたい奴って、当ててやろうか。」

 男は、相変わらず、背を向けたまま、笑いながら言った。

「え?」

少し、動揺した。

「あんたみたいな朴念仁に、わかるわけないでしょ。」

「そうかな?」

 相変わらず、笑いを含んだ余裕のある返事。

「小さい頃から、周りが騒々しいアホな男たちばっかだったから、毛色の違う、ちょっと物静かで優しい奴に弱いだろ、お前。」

「な、何よ。」

 意外に当たってる。

「そのアホな男たちの中に、あんたも入ってるけどね。」

 動揺を隠すために、声が大きくなる。

「お前の態度見てたら、そのアホでもわかるさ。」

「態度?」

 こいつ、何を見てたんだ?

「な、何よ、態度って。」

 少し、顔が赤らむのがわかる。


 どうして、この手の話題には弱いんだろう。

 これ以外の大事なことは、完璧なポーカーフェイスで通せるのに。

 

 幼馴染のこのアホ1号に振ってしまったのが、失敗だった。

「お前の好きな奴って…。」

「やめなさい。」

 即座に阻止する。

 最期に誰といたいかという話が、誰が好きかって話になっている。


 相変わらず、背中しかみせない男の肩が、小刻みに揺れてる。

 完璧に笑ってる。むかつく。

「わかるはずないって言ったのは、お前だろ?」

「わ、わかるはずないわよ。」

「そんなら、試しに言ってやるよ。」

「やめなさい。」

「何で?」

「間違ってるから。」

「そんなの、聞かなきゃ、わからないだろ。」

 男は、笑いながらも冷静で、さっきからの作業は中断させない。

そんな態度にも腹が立つ。

「もう、いいから、やめなさい。」

「いいじゃないか。俺にバレても。っつーか、もうバレてるんだけどな。」

「間違ってるって言ってるでしょ。」

「何で間違ってるって思うんだ?」

「あんたなんかに、わかるはずないからよ。」

「すごい論理だ。わかった。じゃ、答え合わせしよう。」

「やめなさいってば…。」

 少し焦ってきた声に、男は、更に面白そうに続けた。

「何で、やめなきゃいけないんだ。お前の好きな奴は、そ…。」

 その男が、名前を言いかけた時、

「やめなさいって、言ってるでしょ!!」


 動揺しまくって、今度こそ、手にしてる冊子で、思い切りそいつの後頭部を殴りつけた。

 その瞬間に、すっと、激しい感情が一筋の閃光のように流れた。

 一瞬だった。


そして、我に返った。


夢?


時間にして、数十秒の光景だった。


内容については、意味もわからないが、知らない場所で、知らない男と、親し気にやりとりしてた。

そんな夢…。


 いや、それよりも…。


「…ってぇ」

 気が付くと、OLも、学生も、カウンターの中のママも、皆、びっくりした顔で一樹を見てる。

 自分の手には、かばん。

 そして、自分の前には、頭を抱えて呻いているスーツ姿のリーマン。

 初めて入った喫茶店の中の、この現状が、待っていた。。


 あ…?


「あの…。」


 何?この状況?



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