20
陵介は、焼酎にシフトし、一樹にも勧めた。
酒を堪能しながら、陵介が見ていたのは、遊史に逃げられ、ターゲットを公平に変えた愛花だった。
公平は、既婚者だったが、遊史と違って、愛花が絡んでいくと、調子にのって、愛花の肩を抱き、デレデレしている。
一樹は、隣に座る陵介に、わざとぶつかり、体重をかけた。
「ん?」
陵介が、一樹を見下ろす。
その唇は笑ってる。
「愛花、どうするつもり?」
「どうって?」
「学生時代は、大嫌いだったろ?」
「まあな。」
「あいつは、どうしようもない女だぞ。」
陵介は、相変わらず、薄く笑いながら、公平に口説かれてる愛花を見た。
「わかってる。」
「何で、好きになった?」
陵介は、少し目を丸くして、一樹を顧みた。
「俺が、好きになったように見えるか?」
「好きじゃないのか?」
「気になるってのは、好きだってことなのかな。」
他人事のように言う陵介は、何故か色っぽかった。
「前は、あいつのことが、本当に訳がわからなかった。俺の理解を超えてたし、理解しようとも思わなかった。大嫌いだったしな。」
「俺は、今でもだけどな。」
一樹が力を込めて同調すると、陵介は、また、唇の端を緩ませた。
「でも、これくらいになると、色々わかってくることもあるんだ。あいつの不安や、寂しさや、余裕の無さが、痛いほどわかる瞬間がある。行動の理由がわかると、今度は、目が離せなくなった。あいつの行動は、全てアピールだからな。」
「マジか?」
「俺も苦労したんだよ。愛花の歪んだ行動パターンが読めるようになるほど、人間関係に悩まされたからな。」
陵介が、変わったことは、皆も認めている。
だが、大学時代、あれほど、融通のきかなかった男が、あんな愛花を許せる男になるなんて、思いもしなかった。常識から外れることが大嫌いで、利己的な感情には、容赦なかったのに。
「つきあってるのかと疑ったけど…」
一樹が焼酎を飲みながら、上目づかいで陵介を見ると、陵介は、やっぱり笑っていた。
「この状態が、一番面白いな。」
公平に絡みながら、愛花は、たまに陵介の方を何気なさそうにチラリと見る。
陵介は酒を飲みながら、今は知らんぷりを決め込むが、愛花の視線には当然気づいてる。
「信じられない。あんな女に。」
「面白いんだよ。」
陵介は、酒にはめっぽう強い。
遊史のように隙をみせることはないだろう。
「お前、ホントに変わったな。」
「そうか?」
遊史相手だと、遊史をとことん振り回す愛花が、陵介相手だと、手を出しかねている。
手を出せなくて、遊史や公平に絡んで、陵介の反応を見ることしかできない。
「本命の彼女はどうするんだ?」
「とっくの昔に別れてる。」
「うそ? 何で、黙ってた?」
陵介は、もう一度、一樹を顧みて、面白そうに笑った。
「その方が面白いだろ?」
「お前、そんな奴だっけ?」
陵介は、ふふんと笑った。そして、
「お前はどうなんだ?」
と、曖昧な質問をしてきた。
「何が?」
一樹が、聞き返すと、
「俺に、話したいことはないか?」
逆に聞かれた。
「…。」
陵介は、気が付いていたのかもしれない。
一樹の遊史への気持ちを。
いや、大学時代は、絶対、気が付いてはいなかったはずだ。
そんな繊細なことを、気づくことも、認めることもできなかったはずだ。
常識から外れることを、陵介は、極端に嫌がっていた。
それが、卒業して、大手の企業に入社したものの、数年で辞めて、転職し、陵介の思う常識的な道から少しはずれた。
そのあたりから、陵介が、常識という言葉を使うことがなくなった。
そもそも、常識とは、一定の同じような価値観の中にあるもので、価値観の違う集団には、違う常識が存在する。
会社の人間関係で苦労した陵介は、色々考えることがあったのだろう。
「苦労ってのは、するもんだな。」
一樹が言うと、
「しなくてもいい苦労もあるけどな。」
そう言いながら、昔よりずっと深みを帯びた陵介の目は、やはり、わかってくれているのだと、一樹には映った。
面白そうに笑っている陵介は、本当に、一樹を面白がっているのかもしれない。
「でも、俺には惚れるなよ。」
「馬鹿言え!」
速攻、返した一樹は、ふと、何かにひっかかった。
あれ?
デジャブ?
前にも、こんなことあった気がする。
どこだっけ?




